第21話 英雄の萌芽
ラムディエルはこの「木こり」との出会いに感謝していた。
もしこの世界に神がいるのなら、手を合わせて拝みたいほどに。
『枯渇』をやらかした時はさすがに終わったかと一度は覚悟したが、本当に偶然、その場に居合わせたこの「木こり」に助けを求めた結果、なんと、この「木こり」は「魔物」を救出するという人族としてはあり得ない行動を起こし、片腕を失うという危機に見舞われてしまった。
あの「狂狼」たち――。
あれらは魔将の一人、バーミエッタが放った刺客だ。
残った3頭のうち1頭にはある程度のダメージを与えることができたが、それが「最後のあがき」だった。
そこでラムディエルの「魔力」がほぼほぼ「空」になってしまったのだ。
偶然居合わせた「木こり」にダメもとで『助けて』と魔法通信を飛ばした結果、ラムディエルは一時的に「魔力充填」する時間を得ることができ、最低限の「魔力」の回復を果たした。
その間に、その「木こり」は2頭の「狂狼」を素手で倒すという恐るべき「力」を見せる。
が、それが今の彼の限界だった。
最後の1頭によって片腕をもぎ取られた彼は、生き残るために最善の策をとろうと駆け出した。
ラムディエルは慌てて彼を追ったが、「狂狼」の方が一歩早く彼に追い付いてしまう。
『剣があれば――』という彼の声。
そして、ラムディエルは今の自分の魔力でできうる『最善の策』を思いつく――。
「私があなたの腕になります――」
魔将の放った刺客を、素手の一撃で粉砕するという離れ業。
そんなことは、おそらく黄金級冒険者でもできない。
もちろん、剣術については完全に素人のようだが、そんなものは「彼の素質」にかかれば何という程の問題でもない。
『英雄の萌芽』――。
これが彼、トール・レイズの「素質」だ。
ラムディエル自身、過去に一度だけ目にしたことがある「素質」――。
それは、『勇者軍』の中でひときわ強く輝いていた彼女が有していた。
『暁の英雄』カーラ・レッドライン。
彼女は勇者軍の先頭に立ち、力尽きるまで剣を振り続け、最後の最後まで魔王軍の精鋭を斬り続けた。そして、最期の時、『勇者』にその道を拓きこの世を去った。
『勇者』は彼女の拓いた「魔王への道」を征き、「魔王」を討ち果たすことに成功。「魔王軍」瓦解への反撃の狼煙を上げる。
あの時見せた彼女の勇姿は、この戦いを見ていたラムディエルの精神に今も焼き付いている。




