第10話:友との再開
車窓には緑の大海原が流れている。
カシワギ・ミナの乗ったリニアレールは第3区画を目指して走っていた。
彼女は窓外に広がる大自然を見ながら、セリスの言葉を思い返していた。
”違和感を感じて……”
セリスには植物に何かを感じ取る力がある、それはミナにもわかっていた。けれど、あんなにも不安そうな声をしたセリスは初めてだった。
確かに、洞窟の中でAIが突如シャットダウンして暗闇に包まれたら、恐怖だったんだろう。けど、セリスはその前から違和感があったと言っていた。
セリスの言葉を信じるなら、何かがリストのAIに干渉してきた……?
でも、何のために。調査班は何も異変はなかったと言っていた。
『ご乗車お疲れ様でした。第3区画、中央ステーション、到着です。お降りの際は──』
その時、車内アナウンスが流れた。
「お、もう到着かー。よし、切り替えていくか!」
ミナがステーションから出ると、そこにはセリスの姿があった。
「え、セリスどうしたの?お出迎えしてくれてんの」
セリスはこくりとうなずいた。
「……ミナ姉、わざわざごめんね」
「いいよ、気にしないで。じゃあさ、私お腹すいてるから、夕飯おごってよー」
セリスの表情がぱっと明るくなり、にっこりと微笑んだ。
「あのね、この近くにパスタのおいしいお店予約してるの」
ミナは右手を大きく上げて喜んだ。
「いいじゃん、いこー!」
二人は仲良くディナーに出かけた。
セリスに案内された店は、テラスのあるカフェだった。スイーツメニューも充実して、甘党のミナは上機嫌だった。二人の談笑する姿は、どこにでもあるカフェでお喋りする友人の姿だった。だが、内容は植物の専門的な会話であり、一般人には理解し難いものだった。
ミナは植物の遺伝子工学を専門としている。遺伝子の研究という視点から、センサーに捉えられない植物に関する未知の反応を研究している。そして、植物に話しかける。
二人は、いつも植物に話しかける変わった人たち、と見られていた。
セリスは、きのこクリームパスタと紅茶のセット。ミナは、トマトのジェノベーゼパスタに白ワインを注文した。
「ねぇ、セリス。例の洞窟には何があると思うの?」
「……わからない。でも、パニックになっちゃって」
「そっか……幽霊とか宇宙人だったりして!」
「ミナ姉、バカにしてるでしょ?」
「ごめんごめん、あ、パスタきたー」
”誤魔化された……”
セリスにとって、ミナの存在は頼もしかった。いつも相談に乗ってくれる親友。そして、不安を察してこうして会いにきてくれることが、何よりも嬉しかった。
「このお店いいじゃん。ねぇ、パフェも頼んでいい?」
ミナはパスタを頬張りながらスイーツを選んでいた。
「構わないけど、食べ過ぎないでね?」
「やったー、じゃぁ、このベリーショコラパフェ!」
セリスは苦笑しながらミナの食べっぷりを見守っていた。
──店を出る頃には、辺りは暗くなっていた。
二人は、セリスの自宅に向かって歩き始めた。セリスは、先日の会議で言われた言葉が胸に突き刺さっていた。
『個人的な感情で発言することは控えなさい』
夜道を歩き始めると、無性に悔しさが込み上げ、涙がこぼれ落ちる。けれど、今日は違った。寄り添ってくれる友がいる。
「ねぇ、ホントに家に泊まっていいの?あたしは嬉しいけど」
「うん。わざわざ来てくれたから、気にしないで」
「おーし、じゃあ、ちょっとお酒買ってくるー」
「それはダメ。明日も早いんだから」
そうして二人の姿は夜の街に溶け込んでいった──




