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現実恋愛系

最悪のタイミング!? 花火大会で告白したけど、彼女にはどうやら伝わっていないらしい



「君が好きだ!!」

どどーん!!

どん!!

どん!! 

どん!!



 熱が道路の上で揺らめき反射する日差しに汗が自然と流れる。日中の暑さが和らぐどころか、見物する人と屋台の熱気で更にマシマシになった感じさえする。


 そんな『街の花火大会』というイベントの最中に、俺は意中の女の子(ひと)へ告白をした。



「え? なに?」

「あ………」

 俺の方へと顔を向けたその人は、ちょっと首を傾げながら微笑みを返す。


――タイミングぅ~!!

 生きてきた中で一番緊張して発した言葉が、あまりにも大きな邪魔が入って聞こえていない事にガクッと膝が折れた。


「え!? なに? どうしたの?」

「あ、いや……」

 俺の前にしゃがみ、顔を覗き込んでくる彼女。皆井芳香(みないほうか)は真剣な表情で俺の事を心配してくれている。




 俺の住んでいる街は小さいながらも、夏の花火大会の規模の大きさで多くの人が訪れる事でも割と名が通っている。


 そんな町に住んでいる高校生の俺、本賀元(もとがはじめ)は、今迄人が多く来る『夏の花火大会』が苦手だった。


 中学生までは友達と一緒に何度か観に行った事は有るが、どうにも人が多くて動けないし、花火を見に来ているはずの人達もなんだか心が浮ついているというか……。そういう『雰囲気』に馴染めないでいた。


 街にある平凡な高校へと進学しても、夏休み前から『花火大会』の事は話題に上がり、『誰が誰と』なんて言う男女の噂話も耳に入るようになる。


 ()()()()話題に興味が無い訳じゃないが、高校2年生になった今の今まで『彼女』という存在すらもできた事が無い自分にはどこか遠い次元の話にしか聞こえず、周囲がそのために彼女作りをしようとしている事にため息すらも漏れていた。


「はぁ~……」

「でっかいため息ねぇ……」

「ん?」

「え?」

 声を掛けられて、その声の主の方へと顔を向けると、俺の机の横に一人の女子生徒が立っていた。


「あぁ委員長か……」

「はい委員長です。で?」

「で? って何だよ」

「いやぁだって、私が通ろうとした瞬間に、大きなため息をついている本賀くんじゃん? 私の事が……って気になっちゃうじゃない?」

「あぁ……ごめん」

 ちょっと体を屈めて、俺の方へと顔を近づけつつ、右手の人差し指を上に向けて話す委員長。


「そのさぁ……」

「ん?」

「委員長って呼ぶの止めてって言ってるじゃん」

「えぇ……でも委員長だし」

「確かに。でもさぁ私にも皆井芳香って名前がある訳。だから名前で呼んでよ」

 いつの間にか俺の隣の席へと腰を下ろしている委員長。


「ん~じゃぁ皆井?」

「何で疑問形なのよ」

「嫌だって、呼んだ事無いから……」

「はぁ~……。まぁいいけどさ。いつかは芳香って呼んでよね」

「いやそれは無理じゃね?」

「何でよ!!」

 委員長とそんな事を放していると、クラスの女子が委員長を呼んだので、「はぁ~い」と席を立ち委員長は呼ばれた方へと歩いて行った。


――相変わらず人気だな……。

 あるいていく委員長の後ろ姿をチラリとみて、俺は小さくまたため息を漏らした。



 この委員長こと皆井芳香とは1年生の時からのクラスメイトである。

 同じ班になったことがきっかけで、割とクラスの中でも『話せる女子』と感じることが出来る存在ではあるのだが、いかんせん彼女はクラスの中でも人気が高い。


 1年生時からクラスの委員長を任されて、成績も上位だし、テニス部でも期待されているくらい運動神経もいい。更に男女分け隔てなく気軽に話しかけてくれるという事と、きりっとした顔立ちと黒髪という容姿も相まって、それはもうクラスの――いや、学年でも人気上位な女子なのだ。


そんな女子と話していると――


「おい!!」

「…………」

「おいこら本賀!!」

「ん?」

 机に突っ伏していた俺に声が掛けられ、顔を上げると目の前には三人の男子生徒がいた。


「調子に乗るなよ!!」

フンと睨んでくる折野勝司(おれのかつし)


「クラスが一緒になっただけで、仲良くなったとか勘違いすんなよ」

 ケッと吐き捨てるように言う樋上輝夫(モブH)


「平凡以下の御前が相手にされる訳ねぇから」

 がははと笑う眞苅徹(モブM)


「はぁ?」

 三人の言葉にちょっと呆れながら返事をする俺。



「まぁ皆井は夏休み前には俺の彼女になるんだから、指をくわえてみてる」

 折野が吐き捨てるように言いながら、俺の机から離れていくと、一緒にいた二人も折野の後を追うように離れて行った。


「……なんだあれ? 誰にでも嚙みついてんのか?」

ちょっと呆れつつ、折野のあの自信がちょっとうらやましくも思ってしまう。



――彼女……ねぇ。

 俺には関係ないモノとしか認識は無いけど、その言葉を聞いて、夏休みが近い事を実感した。




 夏休み前まではあっという間というか、進級したてだから、新しいクラスメイトとコミュニケーションを取ったり、イベントをこなしたりしていると時間が過ぎるのが早い。


 その間に仲良くなったクラスメイト達と遊びに行く計画を立てることになったのだけど、俺は残念ながら夏休みはバイトを入れる頻度を増やしているので、なかなか予定を会わせることが出来ない。


「元も花火大会は観るんだろ?」

「まぁ、時間が有ればって感じかな?」

 終業式の前日に、放課後の教室の中、2年生時からの友達となったクラスメイトの飯野大勢(いいのたいせい)と少しだけだべっている。


「俺は行く予定になってるんだけどさぁ。元も行こうぜ」

「ばぁか、彼女さん連れてくる奴と一緒になんちぇ行けるわけないだろ? 遠慮しておくよ」

「そうかぁ? 別に気にしないと思うけどなぁ」

「俺が気にするんだよ!!」

 大勢には1年生の時からの彼女さんがいる。同じ学年の女子で実は1年生時の俺と同じクラスの子だ。


 今は別々のクラスになってしまったけど、仲良く一緒に登下校しているのを見かける。さすがにそんな『仲良し』な二人の邪魔はしたくない。


「ならさぁ誰か誘ってみたら?」

「誰を?」

「委員長とか」

「無理無理無理!! 相手にされる訳ねぇだろ!!」

「そんな事無いと思うけどなぁ……」

 俺の事を見ながらニヤニヤする大勢。


「まぁ……お前が良いならいいんじゃね?」

「どういう意味だよ」

「ん~? なんだろうな?」

 それ以上大勢は何も応えてくれず、それどころか明らかに話題を逸らした。




 大勢が何を言いたいのかは、自分がよく分かっている。


 正直に言うと、俺は皆井の事が好きだ。表面上は皆井に話しかけられても何もない、興味ない振りをしているけど、内面はドキドキしている。


 自分の気持ちが悟られない様に……。


 皆井は俺の事など覚えていないだろう。いや、別に幼馴染とかそういうのじゃない。


 皆井とは高校生になる前に2度ほど話したことが有るのだ。


 俺も中学生時代にはテニス部に所属していた。『何処にでもいる人物』という存在から脱却したいと思い、テニス部へと入部してそれはもう練習に励んでいた。


 中学二年生になって体力が、体の成長期に追いついて来ると、練習でも試合でも出れば勝てる確率が上がって来た。調子に乗っていた俺は『必殺技』とか自分で勝手に名付けたり、それを恥ずかしげもなく叫んだりもした。


 まさに中二病である。


 そんな調子に乗っていた時期に1度目の出会いがあった。


 練習試合で調子に乗った俺が、ボールを追いかけている時に足首を捻ってしまい、練習試合相手の学校の医務室へと運ばれた際に、その先客として中に居たのが皆井だった。


 彼女がけがをしたというわけではなく、同じ部活仲間の女子生徒が怪我をして一緒に付き添いで来ていたのが皆井。


 そこで、椅子に座っていた皆井に「どうぞ」とケガした俺に椅子を空けてくれて、それに「あ、どうも」と俺が返したというそれだけ。


 俺の前の女子生徒の治療をしている途中だったこともあって、その場に皆ずっと皆井がいたのだけど、俺は何故か彼女から視線を外すことが出来なかったのだ。


 そうして2度目は次の年、3年生の最後の大会。皆井は女子シングルスで優勝をしたのだけど、俺は準決勝で負けてしまった。


 それまで自分の強さに自信があっただけに、一人会場の外で座って呆然と空を見ていたら、いつの間にか俺後ろに皆井が立っていた。


「惜しかったね」

「え?」

「見てたよ。君強かった!! うん、負けたのはちょっとした『運』じゃないかな? だから――泣いてもいいと思うよ?」

「…………」

 その言葉を聞いた瞬間に俺に暑いモノが込み上げ、下を向いて泣いた。


 気が付いたらもう皆井の姿は無かったけど、俺はその言葉に救われたのだ。

 

 そうして俺の中で彼女の存在が大きくなり、それが初恋なんだと自覚するに至ったわけなのだけど、何の偶然か、神様のいたずらなのか、その名前も知らない初恋の相手が、同じ学校でしかもクラスメイトになってしまったじゃないか!!


――とはいえ、俺の事など覚えているわけないよなぁ……。

 そんな思いから、自分の恋心を閉じ込め、ずっと皆井とは委員長とクラスメイトの関係としてだけの高校生生活を送っている。


 因みに俺は高校生になってから部活をしていない。家庭の事情というやつで、母さん一人と俺だけの生活になったのでそれを機にテニスをやめてしまったのだ。


――今更、あの時の事なんて言っても皆井は覚えてないだろうしな……。



 今もクラスの男子生徒と女子生徒に囲まれながら、にこやかに話をしている皆井を見て、また大きなため息が漏れた。




 夏休に入り、俺は未入りの良いバイトに明け暮れているのだが、毎日の様に俺に電話をしてくる奴がいる。


 まぁそれはあまりいない友達の中の一人という事もあって、誰からもこないよりははるかにましなんだけど、さすがに毎日の様に遊びに誘われるのはキツイ。


 何度か『無理!!』と断ったのだけど、結局押し負けてしまったというか、花火大会のある日に約束をさせられてしまった。


 何でも一緒に行く予定の彼女が、彼女の父方の故郷に里帰りするので、一緒に行けないと言われてしまったので仕方なく俺を誘ったらしい。


 まぁあまり興味があるわけじゃないけど、大勢と一緒ならまぁまぁ楽しめるかもしれないなという思いと、母さんが『たまには遊んでらっしゃい』と言われてしまったので確定した。




「なぁ元」

「ん?」

「知ってるか?」

「なにを?」

 花火大会当日に待ち合わせをしたコンビニへ着くと、先に来ていた大勢がちょうどコンビニから出てくるところだった。

 

 そうして一応暑さ対策のためにコンビニで飲み物を調達し、並んで花火大会の会場近くへと移動する。


 その間に色々な話をしたのだけど、ちょっと間が有った後に大勢が静かに話し出す。


「折野のやつ、夏休み中ずっと委員長と一緒にいるらしいぜ」

「……へぇ~。じゃぁ告白成功って感じか?」

 心がずきりと痛んだけど、悟られない様に返事をする。確かに折野は『告白する』と言っていたし、それが成功してカップルになったんだろう。


「それがな……」

「ん?」

「どうやらフラれたみたいだぜ」

「え? でも一緒にいるんだろう? 付き合ってるんじゃないのか?」

「なんというか、諦めきれずに追いかけまわしてるって話だ」

「なんだそれ!! ストーカーじゃねぇか!!」

「そう思うよな?」

「まぁ断られてもっていうならそうなんじゃねぇ?」

「ならどうしたらいいと思う?」

 この時すでに大勢がにや付いているのに俺は気が付いていなかった。


「どうしたらって……カレシを造ってそいつに守ってもらう……とか?」

「うんそうだな!! それが一番いいよな!! ハイ!! という事で頑張ってくれ!!」

「はぁ?」


 花火大会会場が目前に迫り、露店も見え始めた時、大勢が手を上げてから指を指した。


 そこに居たのは大勢の彼女と――


「いいんちょう……」

「こんばんは……」

 女子二人は浴衣姿で露店の灯と、街灯に照らされている。


「おまえ……」

「ん? あぁアレは嘘だ!! 悪いな。こうでもしないと元誘わないじゃん? だから手伝ってもらったんだよ」

「…………なるほどな」

「じゃぁな元!! しっかりやれよ!!」

「あ!! こらおいていくな!!」

 彼女と二人ですたすたと露店の方へと歩いていく大勢。

 その場に残された俺達はその後ろ姿を見つめて黙る。


 

「いや……かな?」

「え?」

 少し時間が経って、か細い声で皆井が尋ねてきた。


「私とじゃ…いやかな?」

「そ、そそそ、そんな事は!! いあや、俺の方こそ委員長は俺でいいのかよ?」

「もちろんいいよ!!」

 にっこりとほほ笑むその頬は少しだけ紅らいで見える。


「じゃぁ、じゃぁ……行くか?」

「うん!! よろしくね!!」


 ふたりで並び、俺達も露店でにぎわう場所へと歩いて移動を始めるのだった。



 花火大会までは時間が有るので、露店で買い食いしたり、座れる場所を見つけてちょっとだけ腰を下ろして話をした。


その間中も皆井はずっと笑顔だ。


――そんな顔見せられたら、勘違いしちまうぞ……。

 心の中で一応の警告音が鳴り響く中、とうとう花火大会のメインである、花火が上がり始めた。




そうして雰囲気と大勢たちアシスト、そうしてこれまでの想いが、花火が上がる度にグルグルと脳内で渦巻き始めて、気が付けば俺は――




「君が好きだ!!」

どどーん!!

どん!!

どん!! 

どん!!

 最悪なタイミングで告白したのだった。



「え? なに?」

「あ………」

「え!? なに? どうしたの?」

「あ、いや……」

 俺の前にしゃがみ、顔を覗き込んでくる彼女。皆井芳香(みないほうか)は真剣な表情で俺の事を心配してくれている。


 何も言えないでいると、先ほどの花火が最後だったようで、周囲から人が離れ始めていた。


「ねぇ?」

「ん?」

「まだこれから時間ある?」

「なんで?」

「ちょっと花火に満足できないから、私達も買ってやろうよ!!」

「え? まぁいいけど……」

 周囲の人たちに押されながら、俺達も帰路に就く。


 帰り道のコンビニで、簡易的な花火を購入し、近くの公園へと移動して、出来る限り水場の近くで花火をする事にした。


 皆井と二人、買った花火を楽しんでいると、あっという間に中にあった花火は減って行き、やがて最後に残された線香花火に火をつける。


二人静かにその花火を見つめていると、委員長が俺の方へと顔を向けた。



「さぁ」

「ん?」

「これならちゃんと聞こえるよ? さっきの言葉を聞いてやろうではないか」

「え!?」



 線香花火の静かに淡い火花の向こう側。

 少しだけ頬を染めた皆井が俺に向けて微笑んでいた。

 

 あの時もしかして――

 

 「俺は――」


 

 今度は君と二人きり、そうして告白するには聞こえないはずのない線香花火の音。


 俺の本当の気持ちを今度こそ君に。

 


御読み頂いた皆様に感謝を!!


 企画用の作品がようやく書きあがった!! ヽ(^o^)丿

 構想から長かった……。(まぁいろいろ手を出しているのが悪いんですが(^▽^;))


 ひと月に1本は掲載できるように頑張ります!!


※主人公の名前ですが

 元賀✕ 本賀○

 です。探してますが見つけられない……( ;∀;)


 折野勝司→おれがかつし

 樋上輝夫《モブH》→ひがんでるよ

 眞苅徹《モブM》→まかりとおる


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― 新着の感想 ―
∀・)夏の遊び企画主催者さま、さすがの目を奪う心を奪う青春物語でした♡♡♡ ∀・)花火と言う風物詩とひと夏の恋を余すことなく謳っていた♡♡♡ ∀・)期待して読みに来て良かったぜ♡♡♡
 委員長、いい性格してるわ…
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