第98話 質の良いボールにワクワクする
「うりゃああっ!!」
「う、うわあっ!!」
オレが投げた真ん中高めのボールはキャッチャー後方へと勢いよく飛んでいき、防球ネットへガシャーン! と音を立ててぶつかってから地面に弾んだ。
「だ、大丈夫ですか勝崎さん!」
「あ、ああ。あんな豪速球、今まで受けたことないから。つい逃げてしまった、すまない」
「気にしなくていいですよ。しょーたも最初のうちは捕れませんでしたから」
「でも今は捕れるんだよね……すごいな。速いだけでなくすごくノビてくるからさ。実際、球速は何キロ出てるの?」
「ウチ、というか前の連合チームでもどこもスピードガン持ってなくて。計測したことないんです」
「でも多岐川高校も参加してたじゃないか」
「最近は予算が削られて新たに購入する余裕もなかったらしくて。だからホントに分からないです」
「そうなのか……県内の球場で表示出るのは1箇所だけだし、そこで試合しなければわからんよなあ」
「それはともかく続けていいっすか?」
「いや、もうちょっと慣れてからにしたいな」
うーん。それじゃどうしようか。時間を無駄にしたくないし……と悩んでると轍くんとキャッチボールしていた大岡がぶっきらぼうに話しかけてきた。
「おい。こっちはもう十分にやったぜ。そろそろ投げさせろよ」
「それなら、大岡が勝崎さんと組んでくれ。オレはミットつけて轍くんのボールを捕るよ」
「大岡くんも速かったりするの?」
「大丈夫です勝崎さん。オレよりずっと遅いので。独特の浮き上がる変化球に気をつけてもらえば」
「……俺が遅いんじゃなくてテメーがクソ速すぎるんだろうが。それにこっちはキレで勝負するタイプなんだよ!」
しまった、大岡の機嫌を損ねちまった。でもアンダースローなんだから球速でそんなにムキにならなくても……。
しょーたは気難しいコイツとも仲良くやってるけど、なんか上手い付き合い方があるのかな。
おっと、それよりも轍くんのボールをようやく受けられるんだ。これが楽しみで仕方がなかった。
はやる気を抑えつつ左利き用のキャッチャーミットを右手にはめる。
実はこれ、多岐川高校OBの人から借りっぱなしなのだが……蒼田監督からは夏の大会まで貸すよと快く許可をもらえたのだ。
連合チーム解散となったお詫びに……とも言ってたけど、そんなことを気に掛けるのも蒼田監督らしいというか。
「えーと、もういいですか?」
「いいぞ轍くん! いつでも来い!」
「それじゃ……」
轍くんはノーワインドアップから投球モーションに入り、オーバースローで左腕からストレートを投げ込んだ。
ボールは回転数が多く綺麗なバックスピンでビュッとミットに吸い込まれるように近づいてくる!
パシーンッ!
いいぞ、この小気味良い捕球音! しかも音の響きというか余韻が長くて、それがボールの質の良さを表している。
「ど、どうっすか?」
「うん! とっても良いボールだったよ! これならそうは打たれない!」
「で、でもオージロウさんに比べたら、その、球速が全然」
「いやいや。バッターからすれば、単に速いだけよりもこういうボールがコントロール良く決まれば打ちにくいんだ。だから自信持って!」
「は、はあ。あざっす」
いやあ、良い投手のボールを受けるのがこんなに楽しくてワクワクするとは。なんか本格的にキャッチャーに目覚めそうだぜ。
続けてストレートを投げてもらって、オレはボールの感触とミットから響く音を楽しんだ。
さて、このままでもいいけどそろそろ。
「轍くん、変化球投げられそう?」
「あ、はい。ちょっとくらいなら」
「じゃあよろしく。何から行く?」
「えーと、縦スラからいきたいっす」
「よっしゃ来い。ワンバンしても逸らさず受け止めてやる!」
どれくらいキレがあるボールが来るのかとオレは再びワクワクして待ち受ける。
そしてやはりノーワインドアップからオーバー……いや左肩も腕も下がってる。これじゃあ……。
おっと、ボールが来る。ジャイロ回転で途中まではストレートのような軌道で……手前でストンと落ちる!
ガコッ! とワンバンしたボールを上手くブロッキングできた。ちゃんとプロテクターつけといてよかったぜ。
「す、すみません!」
「気にしなくていーよ。それよりキレのあるスライダーだった!」
ストレートほどのインパクトはなかったけどいいボールだった。十分に実戦で使えると思う。
でも……フォームがスリークォーターになってた。つまり投げる前からバレバレということになる。
でも今はボール自体を見たい。そして数球投げるとちゃんとミットまで届くようになってきた。
さて、あと持ってるのは横に流れるスライダーだったな、確か。
「それじゃ行きます!」
「おうよ!」
今度の投球フォームは……なんと、ほぼサイドスロー!
パシィッ!
ボールのキレは縦スラよりも鋭い。よくミットで捕れたなオレ。
本人が言ってた通りカーブとスライダーを合わせたような、左打者の外に逃げていく少し緩いボールだったよ。
これなら右打者の内角も攻められそうだし、ボール自体はどれも良いと思うんだが……。
フォームをどうすべきか。一流のピッチャーでも特定の変化球で投げるフォームを変えて、それでも抑える人たちはいるけど……。
轍くんの場合は今のところ、オレの感想としては『バレバレだと打てる』なんだよなあ。
で、そのあと数球投げてもらったが、轍くんが額の汗を拭い始めてる。
「疲れた?」
「はあ、キャッチャー座らせて投げるの、ホントに久しぶりなんで」
「じゃあ今日は終わりにしよう。お疲れさん」
うーん。中継ぎとしてもどれくらいのイニングを食えるのか。
ボール自体にはワクワクしたが課題も多い。まあ、あとで古池監督たちに相談しよう。
オレは結局今日の投球練習をキャンセルし、大岡が投げ終わるのを待って守備練習に合流したのであった。




