第94話 やっぱり野球をやりたいんだ
「うわああ――っ!!」
「ハアハア、やっと追いついた! てめーらいったいどういうつもりで……いや、アンタたちは!!」
ウチが練習しているのをグラウンド横の道路側から覗くように見ていた3人組をオレたちは追いかけてきたのだが。
捕まえてみれば……絶句するオレに代わって一緒に追いかけた古池監督が代わりにヤツらに呼びかけた。
「キミたちは升田高校野球部の部員たちじゃないか。どうしてここに……何か用事があって来たのかい? それとも」
そう。オレたちが連合チームへの参加を打診したのを断った彼らが、なんでこんなことをしたんだ。
ばつが悪いのかオドオドしている彼らだが、しょーたや姉ちゃんたちも追いついて囲まれると言い訳を並べ立てた。
「あ、あのさ。俺ら、練習風景をただ眺めてただけなんだ。それ以外の理由なんてないよ」
「でもアンタら、この前は『受験勉強に専念する』ってオレたちの誘いを断ったよね? なのに他校の練習を見に来るなんて変じゃないか。まさか誰かに頼まれてスパイ行為を」
「ち、違うよ! そんなんじゃなくて本当に眺めてただけなんだって!」
「第一、俺らにそんなの頼みに来るトコなんてあるわけないだろ!」
「でもねえキミたち。スパイ行為かはともかくとして、見学したいだけならどうして逃げたのさ? これじゃ疑うなと言われても無理があるよ」
古池監督は落ち着いた口調ながらも厳しい追及の姿勢を見せる。
彼らはお互いに顔を見合わせてから、観念したのかようやくポツポツとその動機を語り始めた。
「俺たち、あのあと……アンタらが誘いに来てくれた顔合わせのあとになってから、断ったことを後悔し始めたんだ」
「あの時はまだ俺らの連合チーム解散のショックがまだ残ってて。それでイラついてた勢いでというか、つい悪態をついちまって」
「ふーん。だけど誘いに行ってにべもなく断られたオレたちだって、それなりにショック受けたんですよ?」
「そ、それは悪かったと思ってる」
「それで、今回のことで改めて俺らはやっぱり野球がやりたいんだって思い知らされたんだ」
「だけど断った手前、こっちから言い出だしにくくて……とにかく1度、練習してる様子を見てからどうするか決めようってなってさ」
「アンタら、いつもあの狭い空間だけで練習してんのか?」
「はい。ウチの高校はサッカー部が強くてそっちが優先なんで。でも工夫しながらやってるし、以前の連合チームでは週一ペースの合同練習で多岐川高校のグラウンドを使わせてもらったから」
「……それにしてもすげえな。これで春季大会ベスト4なんて」
「俺らは全然甘ちゃんだったよ」
ここまで話を聞いてる限りでは彼らが嘘を言っているようには見えない。
だけどお互いにどうやって距離を詰めるべきか……オレとしょーたが思い浮かばないのを古池監督がフォローしてくれた。
「ウチの連合チームは基本的に来るもの拒まず去るもの追わずだから、参加したいならいつでも応じるよ?」
「あ、ありがとうございます。みんないいよな? 連合チームに参加したいってことで」
「ああ、もちろん!」
なんか調子良く話が進んでいくけど……オレはあのことを確認せずにいられなかった。
彼らとの顔合わせの際に言ってたことはどう考えてるのか。でないと後からトラブルになっても嫌だからな。
「あのですね。あの時もいいましたけどウチは別にレギュラーを固定はしていない。だけど競争に勝たないとレギュラーにはなれないし、試合に必ず出られるという保証もできませんけど?」
「それは承知している」
「本当にいいんですか? 3年生といえどもベンチ要員として裏方作業をお願いすることもあると思いますが」
「わかってる。というか、俺らはそれも覚悟してきたんだ。チームで野球ができるのなら、ベースコーチだってブルペンキャッチャーだって何でもやる」
オレは彼らの顔つきをみて、これは真剣だと感じた。監督もそう思ったのか参加に向けて具体的なことを説明し始める。
「キミたちの意思はわかった。だけどそれなりに手続きも必要だから、正式にはそちらの監督さんも交えてもう一度話し合いがしたいんだ」
「はい、お願いします!」
迷いなく返事した彼らにオレとしょーたはようやく安心できた。これでこちらも躊躇無く彼らを迎え入れられる。
とりあえず自己紹介がてらに埜邑工業のみんなも交えてキャッチボールをすることになったオレたち。
賑やかになってきて連合チームの楽しさを実感できた日となったのであった。




