第90話 納得するまで話し合う
「それで田白くんと能町くんは中学時代、野球部に入り浸っていた不良たちと一緒にワルいこと色々とやらかしたの?」
オレは連合チーム参加の件で顔合わせにやってきた埜邑高校野球部の2年生たちにド直球な質問をした。
彼らはウチの新入部員ひょ〜ろくくんとは大化西中学校で先輩後輩の間柄だったのだが、当時のそこの野球部はキャプテンとその仲間の不良たちが好き勝手に支配するという、とんでもない環境だったのだ。
2人はひょ〜ろくくんに酷いことはしていなかったらしいが……今でもそいつらと繋がっているようなら参加を認めるわけにはいかない。
そして田白と能町は慎重に言葉を選びながら答え始めた。
「えーと、俺とコイツ……能町は、表面的には不良たちに調子を合わせていたけどさ。ヤツらの悪行には一切手を貸しちゃいない」
「本当に? 誓ってそう言えるのか?」
「もちろん誓う、誓うよ。それに俺たちはヤツらからすれば仲間じゃなくて使いっぱしり扱いだったから。新入生が次々と辞めたあとは俺たちも時々パシリや上納金やらをさせられたよ」
「でも周りから見たら仲間に見えただろうし、ひょ〜ろくくんたちを守ってやれなかったのは事実。俺たちに勇気がなくて……すまなかった」
「……どう思う、しょーた?」
「うーん。もう少し聞いてから判断しよう」
「わかった。で、元凶のキャプテンが引退して卒業したあとはどうなんだ? まだ関係が続いてるのか?」
「残念ながらすぐには断てなかった」
「どうして」
「俺たちと同学年の部員3人が完全に不良グループ入りしちゃって。そいつらを通じてキャプテンたちの間接支配が続いたんだ」
「それでどんどん上納金がエスカレートして、しまいには盗みを働いた部員が出て。それでさっきの3人が主犯として退部させられて、ようやく関係を断てたんだ」
「あれ? 裏で糸引いてたキャプテンは処分受けなかったの?」
「主犯3人はそのあたりはだんまり決め込んじゃって……たぶん、あいつらも怖かったんだと思う。キャプテンはしれっと素知らぬ顔で卒業したよ」
「なんでそこまで怖がるんだよ?」
「あんたらは直に会ったことないからわからないだろうけど……あの人は恐ろしい人だよ。やると言ったら脅しじゃなくて必ず実行に移す」
「しかも自分の手は一切汚さずにね。不良たちに妙に人望があるんだ」
「ふーん。で、今は関係を断てているんだな?」
「ああ。そのために野球部が休部状態の埜邑工業に入学したんだ。もう野球は懲り懲りだったし、これで完全にキャプテンとの接点が無くなるから」
「じゃあ何で今さら野球部を立ち上げ直したのさ? 矛盾してるぞ」
「それはコイツに……轍に野球をやらせるためなんだ」
「俺たちはリトル時代にチームメイトだったんだけど。轍は病気で野球を辞めざるを得なくなってさ。でも当時からいいピッチャーだったんだ」
「で、高校で再会したってわけか」
「そういうこと。病気は治ったってことで、それで試しにキャッチボールしてみたら今でも良い球投げるんだよ」
「勿体ないから野球をやれってけしかけたんだけど……コイツ人見知りで、自分一人だとムリだって言うから」
「一緒に部の立ち上げをやったと。まあ話の筋は通るけど……しょーたは納得できたか?」
「まあ、一応は。ひょ〜ろくくんはどうなのさ?」
「……この人たちが嘘をいってるようには思えませんし、さっきも言いましたが直接何かされたわけじゃないので。まあ傍観されたのは今でも腹が立ちますけど」
「それは、本当にすまなかった」
「俺たちが気に入らなければ轍だけ入れてもらえばいいから」
「そ、それは……ちょっと困ります、先輩。俺、まだちょっと一人じゃ……」
「わかりました。今回は田白さんたちを許します。轍くんがかわいそうなんで」
「じゃあオレも様子見にさせてもらうよ。いいかしょーた?」
「おれもそれでいい。でもひょ〜ろくくんの優しさを裏切らないでくれよな」
「それはもちろん。ありがとうな、認めてくれて」
「まあ監督同士も今話し合ってるから、まだ決定じゃないけどね」
ここまで緊張感で溢れていたこの場の全員がようやくホッと一息つけたところで複数の足音が聞こえてきた。
そして顔合わせに使っている会議室のドアが開くと、そこには古池監督と20代後半くらいの女性、そして女子高生が一人見えた。
もしかして彼女たちって……埜邑工業の監督と女子マネだったりするのか?
それを聞く前に古池監督が室内を見回してから喋りだした。
「おっ。なんかいい雰囲気で顔合わせできたってとこかな?」
「ええ、まあ」
「それなら良かった。えーと、彼女たちは……」
「し、しょーた! どうしてここに?」
「えっ? よっちゃん?」
いきなりしょーたの名を叫んだ女子高生と、それに応えるしょーた……こいつらって知り合いなんだろうか?




