第9話 基礎基礎基礎!
波乱の幕開けとなった活動再開2日目の練習。
で、次の練習メニューはというと。
「しょーた! キャッチボールやろうぜ!」
「あいよっ!」
「ちょっと待った! 今日はわたしも入って3人でやるから!」
「でもこのスペースじゃ三角形作れないじゃん」
「田中くんは3塁側! オージロウは1塁側! その間にわたしが中継役として入るから!」
「それじゃ姉ちゃんが疲れるだろ」
「いいから早く! それと『コーチ』!」
言われるままに散らばったオレたち。そしてオレから姉ちゃんに緩い山なりボールを投げたのだが。
「違ーう! もっと強めに、胸もと目掛けて!」
そう言いながら投げ返してきた姉ちゃんのボールは速く、かつ正確に胸もとへバシッと返ってきた。
「こ、こうか!?」
「これも違ーーう! これはただ力任せに投げてるだけ、おまけに手投げ! もっとこう、身体全体を使うっていうか。フォームに気をつけながら投げる!」
「うっさいなあ。こういうふうに、丁寧に投げればいいのかー?」
「まあまあね。コントロールはまだまだだけどボールの質は上がってる」
ウォーミングアップにそこまで手間と労力かけなくても、と思うが姉ちゃんは気にすることなくしょーたとキャッチボールを始める。
「そうそうその調子。さすが田中くんね」
「へへっ。コーチの指導のおかげです」
しょーたの野郎、調子いいこと言いやがって。オレと姉ちゃんの会話を聞いてその通りにしてるだけじゃねえか。
そのあとは文字通り姉ちゃんを中心に3人でボールを回していく。それが20分くらい続いたところでようやく終わった。
「ああ〜、疲れた〜。ちょっと休憩〜!」
「まだよ! っていうかウォーミングアップが終わったところじゃない。それで疲れるなんて」
「オレらの倍投げてるのにケロッとしてる姉ちゃんがタフすぎる」
「そうかしら。そんなこと無いわよね田中くん」
「も、もちろんです! これくらいどってことないです!」
しょーため、へたり込む寸前だったのに急にいいカッコしやがって。
「というわけでダッシュやるわよ! さっさと用意する!」
「まじかよ〜」
「それじゃ位置について! スタートで速く反応できるように注意して……はい!」
「「うおおーっ!」」
オレとしょーたは姉ちゃんの手の合図で前傾姿勢をとって素早く反応する……って実際速いのか自分でもよくわからんが。
そんな感じで、時折ちょっとした休憩を挟みつつ、縄跳び、捕球姿勢の維持、手投げノックといった狭いスペースでできる基礎的な練習を消化していく。
そして練習時間も残り30分になったところで言い渡されたのは最もキツいメニューだった。
「これから30分間、ひたすら素振りをしてもらいます。はいどうぞ」
バットを渡されたオレとしょーたは思わず顔を見合わせ、疑問をぶつけた。
「何回振るのが目標?」
「とにかく1回でも多く、ひたすらバットを振って」
「そういうのより、ボールをイメージして丁寧に振り込んだ方がいいのでは?」
「まずは数! 数を振ってスイングを安定させないとその先に進んでも意味ないから! 早速始め!」
「「ひええ〜!」」
「何回振ったか自分で数えておいてね? あと手抜きは見たらわかるから!」
プレッシャーをかけられてひたすら振っていく。自分では限界まで……でもしょーたの方が明らかに多く振っている。
やっぱり3年以上のブランクって大きいんだな。それでも食らいついて少しでも差を少なくしてやる。
それにしても辛い。ホントにしんどい。
もうなんか途中から腕が動かなくなってきて集中力も保てなくなってきた。今何回目だっけ、もうわかんねえよ。
はやく終わってくんねえかな。そんなことばかり考え始めてからしばらく経ったあと……ようやくその瞬間が訪れたのだ。
「はい、終了〜! 今日の練習はここまで! お疲れ様でした!」
「ぶはぁ〜! もう腕が動かねえ!」
平日の練習時間なんて2時間ちょっとしかない。でも、今日ほど長く感じた2時間はなかった。
「で、何回振れた? オージロウ」
「……100回から先はもうわかんない」
「そう。見たところ150回弱ってところかしらね。田中くんは?」
「250回くらいです」
「久し振りでそれだけ振れたら上等だと思う。その調子で頑張って」
「はい、コーチ!」
「さあ、片付けましょう。っていうか何で防球ネットなんか出したの?」
「トスバッティングで必要なんだよ」
「今日の様子だと、しばらく基礎練習を頑張らないと。明日からは出さなくていいから」
「でも投球練習でもいるから!」
「意味わかんないんだけど」
「コーチ。昨日そこのブルペンでオージロウに投げてもらったんですけど、おれがうまく捕れなくて後ろにボールがいかないように必要なんです」
「投球練習なんてそれこそ早すぎる! その上暴投だらけなんて、話にならない」
「それが……暴投とまでいかないボールでも速すぎて捕れなかったんです」
「だからちょっとくらい投げてもいいだろ姉ちゃん!」
「……いいえ駄目です」
「そんな〜!」
「じゃあこうしましょう。1週間後にわたしが直接受けてあげる。それで問題なければ練習メニューを見直しましょう」
「絶対だからな? あとでとぼけんなよ」
「わたしはそんなことしないから。とにかくさっさと片付けましょう」
地味な基礎練習ばかりが続くとなるとゾッとするが、投球練習という楽しみができれば……。とにかく1週間だけ耐えよう、そう思いながらネットを倉庫まで運んでいく。