第89話 顔合わせは波乱の予感
「な……なんで、この人たちがここにいるんですか!?」
「ひょ〜ろくくん! いきなり叫んじゃってどうしたんだよ。顔色も真っ青だけど大丈夫か!?」
今日は、休部状態だった野球部を4月に立ち上げ直したという埜邑工業高校の野球部員たちと連合チーム参加の件で顔合わせの日なのだが。
こちらへ訪ねてきた部員たちの顔を見た途端に、ウチの唯一の新入生部員である佐藤 瓢六(さとう ひょ〜ろく)くんが急に血相を変えて声を荒らげたのだ。
それを受けてというか明らかにひょ〜ろくくんの姿を見て、彼らのうち2人がボソボソと何やら話し始めた
「おい、アイツってもしかして」
「ああ。俺たちが中2の時に入ってきた新入生の一人……確か名前がひょ〜ろく、だったかな。インパクトがある名前だから覚えてる」
ひょ〜ろくくんを知っている口ぶりだが、まさかこいつら……!
「おい! お前らウチの新入生のことを知ってるんじゃあないのか?」
「あ、いや、その」
「なんなんだ! ハッキリ言えよ!」
「落ち着けオージロウ。ここはおれに任せて」
しょーたはオレの右肩にポンと手を乗せて冷静に喋りかけてきた。
そうだな。こういうのはオレよりも地元にずっと詳しいしょーたの方が適任だ。
オレはひょ〜ろくくんと一緒に一旦後ろに下がってしょーたたちのやり取りを見守る。
「あのさ。2人は大化西中野球部の出身なんだよね?」
「……ああ、その通りだ」
「それじゃ単刀直入に聞くけど。当時のキャプテンとその仲間たちと一緒になって、ウチの新入生に色々と酷いことをしたってことでいいのかな?」
「いや、俺たちは酷いことなんてしてねーよ!」
「それはソイツに……新入生の人に聞いてもらったらわかるから!」
「……どうなのさひょ〜ろくくん? 本当のことを言って大丈夫だ、もしもの時はオレが奴らをぶっ飛ばす」
「はい。彼らの言う通り、直接は何もされていません。だけど彼らはキャプテンたちと仲良くしてて、ぼくを含めた当時の新入生を守ってはくれませんでした」
「お前らやっぱり……!」
「ち、違うんだ! 話を聞いてくれ!」
「オージロウ、気持ちはわかるけど……まずは聞いてみようぜ。でないと判断できない」
「わかったよ。それじゃ言い訳どうぞ」
「お、俺たちは確かにキャプテンと仲間の不良たちに良い顔はしてた。でもそれは、そうしないと俺たちの身が危なかった」
「野球だって続けられなくなる。知ってるだろ? 市内どころか周辺にはシニアのチームが無いに等しいって」
「本当なのかしょーた?」
「それは本当だ。シニアのチームは一応あるけど入団条件が厳しいし、この市内だと事実上は中学の野球部しか選択肢がないヤツがほとんどなのさ」
「なるほど。だけどひょ〜ろくくんが怖がってるし、もう連合チームへの勧誘は無しにしよーぜ」
「うーん、仕方がないかな……」
「ちょっと! 頼むから話を聞いてくれ!」
「俺たち2人のことはいいから……せめてコイツを、ウチの新入生だけでも参加させてやってくれよ!」
新入生だと? 確かに向こうは3人いて後ろに控えているのが1人いる。
背は結構高いな。185は有りそうだけど、ぬぼーっとしているっていうか線は細い感じだ。
ひょ〜ろくくんの反応からするとコイツは知り合いではなさそうだ。
しょーたも同じことを感じ取ったのか、まずは自己紹介するように彼らに促した。
「とりあえずさ。お互いに自己紹介しようよ、でなきゃ話しにくい。まずはおれから……名前は田中しょーた、大化高校2年生。ポジションは、一応どこでもできるけど今のメインはキャッチャーだ」
「じゃあこちらも俺から。名前は田白、埜邑工業2年生で……メインのポジションはサード」
「俺は能町って言います。同じく2年生で外野手です」
「あの……1年生の轍、です……一応、ピッチャーを……やってました」
喋り方もなんかぬぼーっとしているな、この新入生。
それにしてもピッチャーか。入ってくれたら戦力としては大きいだろうけど……話の内容によっちゃやっぱり受け入れられない。
それよりもひょ〜ろくくんの方が優先だからな。




