第88話 保険をかける
「はい、はい……そうですか、もうずっと部員はゼロということで。承知いたしました。いえ、ありがとうございます。失礼致しました」
「……ダメでしたか、古池監督」
「うん……聞こえてたと思うけど、だいぶ前から野球部員は誰もいなくて休部……事実上は廃部に近い状態ということだ。加盟は一応残してあるだけ、とおっしゃっていたよ」
「あぁ〜! これはもうダメかもしれん!」
「諦めるのは早いぞしょーた。まだ1校残っているんだからさ」
オレたちが今、何をやっているかというと。
県高野連の加盟校だが春季大会に参加していなかった学校を洗い出して連合チームへの参加を呼びかけているのだ。
というのも、この前勧誘しに行った御野ヶ島高校野球部の原塚さんからは未だ返答がないのである。
今日はゴールデンウイークの合間の平日なので、保険をかけるという意味合いもあって返答を待たずに連絡しているのだが……今のところ状況は芳しくない。
しょーたもさすがに心が打ちのめされているようだ。
「それにしても4校中3校が休部というか廃部というか。予想はしてたとは言え現実に突きつけられるとやっぱりショックだ〜!」
「それはオレもだけど残りの1校に賭けてみよーぜ。で、なんていう学校だっけか」
「えーと、残っているのは埜邑工業高校。私立の工業系で、しばらく前までは男子校だった高校だ」
「へえ〜、工業高校って公立のイメージあるけど」
「全国的に見れば私立も割と存在してるみたい。校名には付いてなくても学科は有ったりするし、前身は実業系だったりとかも」
「ふーん。で、そこは野球は強いのか?」
「昔のことだけど県内では結構強い学校だったらしい。夏の甲子園にも1回出てるし、その時のエースがプロ野球で活躍したって話だ」
「じゃあもしかしたら」
「いやでも強かったところが全然見かけなくなったってことは……」
「まあまあ、2人ともそんなに悲観しないで。とにかく連絡してみよう。でなけりゃ何も始まらないよ」
「はーい」
古池監督に一応は返事したものの、正直言えばあまり期待していない。
というか期待してダメだった時のショックが大きいから、自然と心に予防線を張っているというのが本当のところなんだけど。
監督は事務室内にある電話から外線に繋ごうと番号を押していく。
とにかくその結果をオレたちは待つしかない。
「あの、突然すみません。私、大化高校の教職員で野球部監督の古池と申します……はい、ありがとうございます」
相手方との話しが始まって、オレたちはドキドキしながら手持ち無沙汰にして立っている。
椅子に座ってもいいのだが落ち着かないのだ。
「ええ、ええ。それではよろしくお願い致します。失礼します」
「……どうでしたか」
「それなんだが……やはり部員が誰もいなくて休部になっていたと」
「は、はあ」
「だが、喜べ! 4月に入ってから野球部を復活させたいと申し出た生徒たちがいて、現在は3人で活動しているってことだ!」
「おおっ! それじゃつまり」
「まだ部員の勧誘をしているようだけど、連合チームについても興味を示してくれた! それで今度の土曜日にこちらへ来て話を聞きたいって、顧問の先生がおっしゃってる!」
「うおおーっ! 最後にこんな展開が待っているとは!!」
「オレたちはまだ天に見放されてなかった。だったら今度こそ絶対に参加してもらえるように頑張ろーぜしょーたぁ!」
「さっきまで2人そてシュンとなってたくせに現金だなあ」
「だって監督! オレたちもう半分以上ダメなのを覚悟してたからさあ!」
「でも諦めなくて良かっただろ?」
「はい! なんかやる気が湧いてきたんですぐに練習に向かいます!」
「行こーぜしょーた!」
オレたちは久しぶりに気合を入れて練習に臨んだ。まだ決まったわけじゃないのに、もう大丈夫だとそんな楽観的な気分で頭が一杯になったからだ。
でも、何事もそうすんなりとは行かせてくれないのである。




