第86話 連合チームへの勧誘 その3
「原塚さん! ぜひオレたちと一緒に野球をやりませんか?」
オレはしょーたと古池監督、上中野監督と共に県内唯一の有人の離島、御野ヶ島に来ている。
島で唯一の高校である御野ヶ島高校野球部で一人だけで活動している原塚くんを我らが連合チームへ勧誘するのが目的だ。
あと一人で9人揃う……なんとしても成功させねば。
それに原塚さんは180センチ以上はある背丈で筋肉ムキムキ、堂々とした態度で戦力としても期待できそうな雰囲気を醸し出していて、逃したくはない。
オレは勧誘の言葉に力を込める。
「なんとなくなんだけど……原塚さんとは楽しく野球をやれそうな気がする。それにみんなと一緒に練習した方が面白いですよ!」
「……楽しく、か。だが春季県大会ベスト4まで勝ち上がったチームに自分がついていけるのか、それが不安なんだ」
うーむ。堂々とした雰囲気から急に自信のない表情が見えてきた。
アスリート能力高そうなのに、なんか意外だな……ちょっと掘り下げて事情を聞いてみよう。
「そういえばさっき、以前は体操競技やってたって言ってたましたけど。なんで野球に転向したんですか?」
「あのなオージロウ! 会ったばかりでいきなりプライベートなことをダイレクトに聞くのはさあ」
「自分は別に構わんよ。えーと」
「おれは田中しょーた。しょーたでいいです」
「そうか。ではしょーたとオージロウ、自分はどうして体操競技を辞めたと思う?」
辞めた理由だと? つまり転向は不本意ってことか。
だけどそんなのわかるわけが……いや質問にするってことは見たらわかるということだ。
でもどっから見ても五体満足だし……。
「あっ。わかったぞ!」
「なんだとしょーた! オレはサッパリなのに。教えろよ!」
「いやすぐわかるって、よく考えろ」
「うーん。やっぱりわからん! どこが問題なんだよ。筋肉質で背が高くて」
「いま正解を言ったぞ」
「はぁ? 背が高いのが何が悪いってんだ!」
「長い棒と短い棒、どっちが回転させやすい?」
「あっ……!」
「正解だ。自分は高校に入学して早々に急激に背が伸びてしまってな。それまで出来ていた技が決まらなくなって、選手になるのを断念した」
「そうだったのか、聞いてすみません。じゃあ今でも未練があると」
「無いと言えば嘘になるが……この高校に2年生の春、つまり去年に転入した時、グラウンドで楽しそうにキャッチボールやってた先輩たちを見て野球部に入った。だから野球を楽しんでいるのも本当なんだ」
「転入?」
「自分の父親は警官でこの島へ異動になったのだ」
親父さん警官なのか。まあ確かにそんな雰囲気だ。
「で、本題に戻るけど。野球を楽しくやれてるならウチの連合に入ったらいいと思います」
「そうはいかない。上を目指すチームに自分のようなド下手な素人が入っても迷惑になるだけ……そういうのが耐えられないんだ」
「そんなに難しく考えなくても。オレたち確かに甲子園を目指してますけど、その前に野球を楽しんで公式戦に出られるのが何よりも嬉しいんです」
「しかしだな」
「ド下手って言ってますけど転向して1年ちょっとじゃないですか。それにまだ練習する期間はあるんで」
「……守備はまあ、確かに少しずつ向上している。だがバッティングが壊滅的にセンスが無いのだ。全然バットに当たらないし、当たっても前に飛んでいかない」
「その体格で前に飛ばないって……そこまで言われたら逆に見たくなってきた。一度素振りしてくださいよ」
何か決定的な欠陥があるんだろうか。それとも違う競技経験者にはそんなに難しいのか。
「それでは振ってみるぞ! フンッ!」
そしてブオンッ! と原塚さんの豪快なスイングによる風切り音を聞いたあと、オレたち4人は思わず互いに顔を見合わせて苦笑いした。
「あれ、完全にドアスイングじゃないですか古池監督」
「それも典型的な……確かにあれじゃあね」
「だけどドアスイングでも活躍している選手だっているんじゃないのかい? やり方次第で何とかならないもんかね」
「確かにMLBのスタ◯トン選手とかはそうですけど……あれは強靭な肉体と並外れたセンスあっての芸当ですよ」
「あの、松笠先生。スイングの矯正はなさらなかったのですか?」
「すみません……私、野球経験者といっても中学高校の野球部ではベンチにも入れない有り様だったので、指導が行き届かないことは多いかと」
「今まで参加していた連合チームで練習した時も何も言われなかったのですか?」
「一度、『始動する時にもっと左脇を締めるように』と指摘されたことはありました。ですが本人はそれだと窮屈で振りにくくて仕方がないということで。それ以上の指導は見送られました」
「なんでそんなに振りにくいんですかね、監督」
「見た感じだけど元体操選手だけに大胸筋と上腕筋が発達し過ぎてるかな。矯正は可能だろうけど時間は掛かるかも」
「……どうやら難しいようだな。自分でもこれ以上見込みが無いと薄々感じている。それなら今からでも陸上部に参加しようかと。個人競技なら自分だけの責任で済むからな」
もう諦めるべきか。いや、バッティングの楽しさを知れば気が変わるかも。
やれるだけのことはやってみよう……後で悔いが残らないように。
「原塚さん。オレたちもせっかくここまで来て何もせずに引き下がりたくないんで。どうでしょう、オレのボールを打ってみるっていうのは」
「オージロウ、キミは凄いボールを投げるピッチャーだと聞いている。それこそ自分は余計に自信を無くすだけだ」
「もしも、こちらの言う通りにやるとオレのボールをかっ飛ばせるとしたら、どうですか?」
「……いきなりそんなことを言われても」
「いやできます。なあしょーた?」
「え? あ、ああそうだな」
急に無茶振りして悪いなしょーた。でも今のところ他にあてはない……だから協力たのんだぜ。




