第82話 前向きに解散する
「ど、どういうことですか解散って! そんなことをいきなり言われても納得できませんよ!!」
オレは思わず立ち上がって激しく詰め寄った。
相手は、連合チーム解散をモニター越しに伝えた多岐川高校の蒼田監督。
もちろん失礼なのは承知しているが……だってここまで一緒にやってきた別府さん、阿戸さんたちと夏も一緒に甲子園を目指すんだと信じていたのに。
「落ち着いてオージロウくん」
「そんなこと言ったって古池監督!」
「私は大丈夫です。もちろんさっきの話だけで納得してもらおうとは思っていない。これから理由を含めて詳しく話すから、まずは席に着いてほしい」
「……はい」
オレはまだ気持ちが収まっていないが、それでも話を先に進めないと理由も聞けないと思い直して腰を下ろした。
それを見守っていた蒼田監督は軽く咳払いしてからおもむろに説明を始めた。
「ありがとうオージロウくん。それじゃあまずは理由を話そう。端的に言うと、ウチ……多岐川高校野球部への入部希望者が沢山いるから。今週に入ってから新入生20人が立て続けにね」
「えっ? でもこの前の試合の時、別府さんからは『入部希望者はキャッチャー経験者1人だけ、しかもバレーボール部と迷ってて下手したらゼロ人かも』って聞いてましたけど」
「その時点ではキミの言う通り。だけど、どこからか分からないが校内で『野球部が春季県大会ベスト4進出』って話が広まって、久々の快挙だって注目を集めた。その後はさっき説明した通りなんだ」
「そ、そんな……ウチなんてオレとしょーたがそれとなく校内でそのことをアピールしても無駄だったのに。甲子園じゃないじゃんって」
「まあ、学校ごとに状況は違うからね。ウチの場合……少なくとも多岐川の今年度の新入生には、野球経験者だけど『他のスポーツに転向しよう』または『進学の勉強に専念するつもり』という生徒が結構居たようだ」
「つまり、潜在的な野球部希望者20人が快挙を聞いて心変わりしたと」
「まあそんなところかなと思います、古池監督。彼らには念の為に『現在は連合チームを組んでいる状況で単独として強い訳ではない』と説明したんだが、みんなそれでも希望を曲げなかった。むしろ自分たちで強豪校として復活だって燃えている」
「……」
「だから私は全員受け入れることにして……その上で県高野連に相談したんだけれどね。『人数が揃った以上、夏の大会は規定通りに単独チームとして登録してください』と取りつく島もない返答しか得られなかった」
「……春季大会も、もう終わりってことですか?」
「いや、それは今登録している連合チームとして出場し続けるのは可能だよオージロウくん」
「それじゃあせめて」
「だが、このまま続けてもシード権は放棄せざるを得ないし、お互いの再出発が遅くなってしまう」
「……」
「何よりも、大化高校と松花高校の新たな連合チーム結成が遅くなれば、その分夏の予選の準備に影響が出る。ウチはまあ何とかなるとしても……。だからよく考えて結論を出してほしい」
「オージロウくん、しょーたくん。納得いかないかもしれないけど……蒼田監督はこちらのことを心配して解散を決断したんだ」
「……どうするしょーた」
「おれは……悔しいけど結論は出している。おれたちの目標はそもそも何だろうって考えたらさ」
「……そうだったな。オレの方で言っちゃっていいか?」
黙ってコクリと頷くしょーたの表情は既に次を見据えてスッキリとしていた。
「オレたちも連合チーム解散に同意します」
「……ありがとう、オージロウくん、しょーたくん。そして松花高校の選手たち。キミたちと一緒に練習して、試合で勝利を目指した月日のことを私たちは忘れないだろう。夏は新たな連合チームと対戦できることを楽しみにしている」
「わかりました蒼田監督。オレたちの新たな目標として『打倒多岐川高校』が加わりました」
「こちらこそ。手強いライバルチームになりそうで楽しみ半分不安半分ってところだな」
緊張感が張り詰めていた場の空気がやっと緩んできた。もうオレたちに迷いはない。新たなチームで甲子園を目指す、その最終目標に向かっていくだけなのだ。
その後、テレビ会議はウチと松花高校の上中野監督とで続けた。議題はもちろん新たな連合チーム結成について。
「アタシらのとこは、新入生1人を合わせても5人。そちらはどうなんだい?」
「ウチも新入生は1人だけで3人です。つまり……」
「合計8人。あと1人足りない……他のチームを引っ張り込まないとダメってわけさね」
「まずは情報を集めましょう。それから再度話し合った方がいいかと思います」
「わかったよ。とりあえず次の週明けにまたテレビ会議の予定入れとくからそちらもヨロシク、古池監督」
こうして波乱と激動の会議が終了した。
さすがに今日は練習を頑張る気持ちが湧かず、ひょ〜ろくくんにもそれを伝えて軽いメニューだけで切り上げちゃったよ。
姉ちゃんも事情を聞いて何も言わずにいてくれたし……下校時間も迫っているから帰ろう。
「おーい! 3人とも一緒に帰ろう! おごってやるからさ」
「古池監督……でもどうせ激安中華店の一番安いラーメンでしょ? もう飽きた!」
「そうか? 俺はラーメンだったら何でも飽きないけどな。さあ行こう!」
「自分がラーメン好きだから食いたいだけっしょ!」
オレたちは文句を言ったけど、なんだかんだいって気を使ってくれてるのだろう。
だからまあ、付き合ってやるか。




