第77話 一か八か
「タケシー! まずはコイツをキッチリとアウトに仕留めようやー!」
「おう、任せとけ! すぐ終わらせる!」
橘商業のエース山之口とキャッチャー吉高がオレを目の前にして軽く言葉を交わしている。
クソッ、打席でこんなに軽い扱いを受けたのは久しぶりだ。
見てろよ、絶対に打ってやるからな。
といいつつも実は山之口を打つ算段なんてできちゃいない。
それにしてもどうして山之口のボールは打席だとあんなに速く感じるのか。
横から見てると確かにオレより速いかもしれないが、全く捉えられないほどじゃあないのに。
考えながら打席についたがやっぱりわからん。
ウチの監督たちも投げる時のクセとかを探してくれたが何も見当たらなかった。
そうこうするうちに山之口がノーワインドアップから投球モーションに移った。
オレもバットを握る手に力が入る。
山之口はまるで右腕を地面に叩きつけるように身体全体で投げ下ろす!
「えりゃあっ!」
外角高め……見極める前に振っていく!
「うりゃああっ!」
ズバーンッ!!
「ストライク!」
「ふふっ。今のはボール球なのに振ってくれて助かるわ〜!」
キャッチャーの吉高から皮肉っぽく言われてしまい、オレは愕然とした。
うーん、全くどうにもできていない。
このままじゃ前の打席と同じだ。どうすればいい?
何かボールを捉える方法は……。
しかし山之口は容赦なく2球目を投げ込んでくる!
「えりゃあっ!」
今度は内角低め! とにかく振っていこう!
「うりゃあああっ!」
……パシッ!
「ストライク! ノーボールツーストライク!」
「全然タイミング合ってないな〜。当てずっぽうで振ってもタケシのチェンジアップは打てんよ!」
またもや皮肉を。くぅ〜っ!
そうはいっても山之口のチェンジアップは初速がストレートと同じように見えるから引っ掛かってしまうのだ。
もうこうなったらヤケだ。見極められそうなポイントで見切って振るしかない。
オレは最短距離で強く振り抜くために少し重心を下げて構え、次のボールを待つ。
緩急を使って仕留めにくるならば次は……!
「そんな、今さら構えをちょっと変えたからって何ともならんでのう!」
「もうさっさと仕留めよう。球数かけたくないしな」
吉高と山之口にいいように言われているが無視。
そしておもむろに投球モーションに入る山之口。
トドメを刺すが如く力を込め、身体ごと前に倒れ込むように右腕を振り抜く!
「えりゃあっ!!」
……見えた! 真ん中高めストレート!
「うりゃあああっ!!」
バシィーーンッ!!
遂に捉えた! レフト方向……ポール際へと強くていい角度の打球を飛ばすことに成功したのだ!
オレはもう、一か八かで投手のリリースポイントよりもホームベース付近に視線のポイントを合わせたのだ。
そして見切った瞬間に迷いなくインサイドアウトでバットを振り切った。
あとは打球の行方を見守るだけ……だけど手応えがあった。
その感触通りにレフトポール際のスタンドに吸い込まれるのが見えた。あとは……。
塁審がグルグル腕を回すのが見えた。ホームランだ!
とうとうぶち込んでやった。
ここまでの鬱憤晴らす一振りで……飛び上がりそうな程嬉しいが派手な喜び方はマナーとして控えておく。
呆然と立ち尽くす山之口。ウチを相手にここまで無双しちゃって油断がでたよね、コースが甘かった。
オレはホームベースをポンと踏んで別府さんとハイタッチを交わす。
兎にも角にも1−1の同点に追いついたんだ。
この試合、ウチはもちろん勝ちに行くからよろしく。




