第76話 みんなと繋がる
「オージロウくん。まずはひと息ついて、落ち着いて一つずつアウトを取っていこう。まだ試合は中盤……必ず反撃のチャンスはあるよ」
「ん! 無理に三振ばかり狙わなくても打たせて取るという手もある」
5回裏の橘商業の攻撃で連打を食らって1点を失ったオレだが。
伝令の石元さん、セカンド別府さんからのアドバイスで冷静となって自分のピッチングを見直すことができた。
それにオレがもし打たれたって、後には頼れる先輩のエース石元さんが救援として控えている。
だからやれるだけのことをしてダメなら後はお任せすればいい。一人で試合を何とかしようと気負う必要はないのだ。
「向こうはこれから下位打線に回るけど揺さぶりには気を付けろよ。それじゃあな!」
最後にしょーたからの注意を聞いて、オレはまた一人でマウンドに立つ。だが心の中ではみんなと繋がっている、そう感じながらプレートを踏んだ。
まだノーアウトでランナー1塁。相手はもちろん追加点を取りに来る……で、こういう時に仕掛けてくる戦術と言えば。
右打ちの7番打者はオレがセットポジションを取るとサッとバットを寝かせて送りバントの構えを見せる。
しかしその通りに受け取っていいものか。どうしようかな……。
しょーたからの要求は内角……低め?
高めじゃないのか。何か考えがあるのかそれとも。
いやここはその通りで行こう。オレに別の妙案があるわけでなし。
というわけで集中力を高めて慎重かつ大胆に初球を投げる!
ズバンッ!
「ストライク!」
バッターはオレがボールを投げた直後にサッとバットを引いて見送った。
どっちなんだろう。最初から揺さぶるだけのつもりだったのか、それともボールになると思ったのか。
さて次は……そう来るか。さっきよりも集中力が必要だな、気合い入れていこう。
というわけで2球目は内角ベルト付近!
「うりゃあっ!」
ズバンッ!
「ストライク! ノーボールツーストライク!」
うっしゃ! 見事にキマったぜ。
あえてシュート回転させてのフロントドアが!
またバントの構えを見せたバッターだったが思わずバットを引っ込めてしまい、さすがに苦渋の表情を見せている。
これで追い込んだ……いやまだ油断できない。スリーバントを仕掛けてくるのかそれとも。
ランナーの吉高は単独で仕掛けるほどの足は無さそうだけど、隙は見せないようにして。
3球目はここだっ!
ガコッ!
オレが投げたのは、程よく力を抜いてゾーンギリギリを突いた真ん中低めストレート。
見送るか一瞬迷ったバッターが中途半端に振り抜いたバットが鈍い音を放ち、打球はオレの右足の少し先を小刻みにバウンドしていく。
でもオレが無理に捕りに行く必要はない。
そこそこの速度で2遊間へ転がっていった打球は、待ち構えていたショート大岡の正面へと誘い込まれる。
そこから流れるようにセカンドベースに入った別府さんへ……そしてファーストへとボールが送られていく!
「アウト!」
おっしゃ! 注文通りのダブルプレーが見事にキマった!
といってもオレは結局相手の狙いを分からないままリード通りに投げたのだが。
後でしょーたに聞くと……バントの構えを見せて揺さぶりカウントを悪くしたらエンドラン、追い込まれそうなら送りバントと2段構えの策だったと思う、ってことだった。
逆に言えばどっちつかずの策でもあり、初球の内角低めがズバッとキマったところでダブルプレーへの道筋が見えたんだとさ。
ホントしょーたってヤツは……普段はアレだが時折冴えてる、よくわからねーけど頼りになる男だ。
これで立ち直って勢いに乗ったオレは続く8番打者を三球三振に切って取り、そのまま6回表の先頭打者として左打席に向かう。
マウンドにはもちろん相手エース山之口が立って待ち構えている。
改めて打席で見ると、背はピッチャーとしては低いのにガッシリした体格で大きく見えるんだよね。
それに比べるとオレはまだまだ……。
それはともかく、山之口の最大の武器は投げたと思ったらキャッチャーミットに収まっていて軌道が見極められない豪速球ストレート。
だけどこの打席で点を取り返す。相手に取られた直後にってのは野球の鉄則だからな。
ベンチで見続けたから目が慣れてきたとはいえ見切れるかは分からんが……それでも何としてでも打ち返してやる。




