第70話 クセつよ中軸打者たち
「うりゃあああっ!」
「ぬううんっ!!」
ガコォーンッ!
よっしゃ詰まらせた!
今は2回裏、スコアは0-0で橘商業の攻撃中。
そして先頭打者の4番DH・谷下さんのパワフルなスイングに真っ向から……いや正確じゃない。
内角を引っ張るのが得意という左のプルヒッター谷下さんに対して外角攻めで打ち取ったのだ。
しかし無茶苦茶だなこの人。同じ『外角を引っ張る』でも津々木マイクみたいにスイングの軌道がそこに合うというよりは、無理にでも力ずくで引っ張りにかかるというか。
オレのボールの軌道も見えてるみたいだし、橘商業は中軸打者が打ちやすいようにそれぞれが役目を果たしているってことか。
それはともかく、そろそろアウトになってもいいはずだけど、どこまで飛んでいくんだ?
シフトでライト寄りに守っているセンターが右中間最深部へと半身のまま足を止めない……まさか!
パシッ!
「アウト!」
ふう〜。センターフライではあるけど、フェンスの手前まで飛んでいった。
もし芯を食っていたら……。
「フンッ、打ち損なってしもうたわ。評判の爆弾みたいなストレートがどれほどのもんかと楽しみにしとったが……アレならウチのタケシのボールの方がよっぽど上じゃのう!」
なんか昔のヤンキー漫画の登場人物みたいな喋り方する人だな。
それにしても爆弾みたいって……オレのボールのこと? いつの間にかそんな評判を立てられてるとは。
ただ聞き捨てならねーのはオレより相手エースの山之口さんのボールが上だという発言。
クソッ、次は三振にしてそれが間違いだって分からせてやるぜ。
「まずは一つ! 次もしまってこー!」
しょーたの声が外野まで響き渡る。そうだ、まだ安心できないんだった。
5番打者は大根さん。だいこんさんじゃなくておおねさんな。
この人も左打ちか。ホームランは高校通算で3本らしいがOPSが8割超え……つまり出塁率が高く2塁打と3塁打が多いってことじゃん。
「……さあ来なよ」
谷下さんとは違って静かというか、細身なのも相まって逆に凄みを感じるというか。
まあでも見た目通りのパワーなら力勝負で捻じ伏せるのみ。内角高めで詰まらせてやる!
「うりゃあああっ!」
「そう来るのは分かっとるわい!」
バコーンッ!
うわっ! 脇を締めて逆方向にそのまま弾き返しやがった!
詰まりぎみだが強烈なライナーがショート大岡の正面に……やや左に切れていく!
「……抜かせるか!」
バシッ!
おおっ! 大岡のヤツ、足を止めずに逆シングルで上手いことキャッチしてくれた!
「アウト!」
「ナイスキャッチ大岡! 助かったぜ」
「……この程度のライナーどうってことないぜ」
いやいや、本人が言うほど簡単じゃなかったと思うけど……まあいいか。
「押し込めきれんかったか。まあ次は楽しみにしとけや小僧」
負け惜しみかよ大根さん……というには表情に余裕が感じられた。なんなんだよここの中軸打者たちの不気味さは。
それにしても左打者二人にこうもヒット性の当たりを許すとは……というか苦も無くバットに当てられてる。
クソッ。なんかモヤモヤするなあ。
さて次は右の6番打者、キャッチャーの吉高さんか。勝負強いがそれほど強打者ではないと聞いているが……。
「まあお手柔らかにしてや〜、オージロウくんさぁ〜!」
一見丁寧な口調だがいきなり名前呼びかよ。
まあいい、さっさと三振に仕留めてやる。
「うりゃああ!」
ズバン!
「ストライク!」
「ほうほう。やっぱり高めのボールは伸びてくるか」
なんだコイツ、打席でそんなことを呟くかフツー! 本当に早く終わらせよう。
「おりゃああ!」
ズバン!
「ツーストライク!」
「外角低めにキチッと決まってる。でも高めより威力がなあ」
ごちゃごちゃうるせーな。これで終わりだ!
「うりゃあああっ!」
ズバンッ!!
「ストライク、バッターアウト!」
「いや〜、最後の真ん中高めは痺れるくらいノビとった。良いもの見せてもらったわ」
結局一度も振らずに呟きまくられた!
やたらとクセのある中軸打者たちだったぜ。なんか疲れた。
それよりも3回表の攻撃。上手く行けばオレにも回ってくる。
でも勝負を避けられたら……どうしてやろうかな。




