第69話 似たタイプ
「あっ! 今日は応援に駆けつけてくれたんだね、ひーちゃん!」
「お久しぶりです、雛子さん」
「二人とも久しぶり〜! ごめんね、全然手伝いに来れなくて」
多岐川高校女子マネの仲尾さん、松花高校女子マネの泉さんと姉ちゃんが再会を喜び合っている。
今日は春季県大会のベスト16の試合……橘商業高校との夏のシード権をかけた対戦なのだ。
球場まで応援に来てくれたのは姉ちゃんと中原先生、それに由香里さん。
どちらも女子硬式野球部の立ち上げは順調に進み一段落したということで、駆けつけてくれたのは素直に嬉しい。
中原先生とウチの新監督古池先生は蒼田監督、上中野監督と挨拶中だが、こちらでは不穏な空気が……。
「で、この子はゆかりん。わたしの幼馴染でリトルリーグ時代はチームメイト……バッテリー組んでたんだよ!」
「あの。河合 由香里です、初めまして。ひなちゃんとは連合チームを組んで夏の大会への出場……決勝の甲子園を目指してます」
「……ふーん、やっぱりお互い愛称呼びなんだ。ひーちゃん、あたしたちも半年以上のお付き合いなんだから愛称で呼んでくれていいんだよ?」
「え、いいの? それじゃあ仲尾彩乃さんだから……あっちゃん、でいいかな?」
「うふふ、いいよもちろん!」
「……ひなちゃん、そろそろ観客席に行こうよ」
「ええ、そうね。それじゃあね、あっちゃん、優子ちゃん」
なんか女子の複雑な友情関係を垣間見たというか。姉ちゃんのヤツ、気づいてないのかトボケているのか……なんだかなあ。
まあいいか。こういうことに関わってもロクなことはないしオレも気づかないフリっと。
それよりも今日の対戦相手……速球派のエースというのがやっぱり気になる。
「なあしょーた。あのさ……」
「相手エースのことだろ? 丁度今から話すところだ」
「さすがはオレの心の友だぜ」
「まあそれは置いといて」
置いとくってどういうことだよ! クソッ、オレの一方的な感情だったのか……いやいや、今は試合のことに集中しろってことだな、そうに違いない。
「3年生の山之口 武志さん。まずは体格だけど公称175センチ……だが実際はもっと低いって噂だ。でもオージロウよりは高いってところかな」
「それじゃオレがチビみたいじゃないか」
「高くはないだろ、160センチ台……」
「170センチ弱! だから!!」
「はいはいわかったよ。で、投球の80パーセントはストレートらしい」
「相当自信があるっていうか実際に打ち取れてるわけだな」
「奪三振率も高い。特に高めのストレートは捉えきれない……実際の球速表示よりもかなり速く感じるそうだ」
「どれくらい速いんだ?」
「160キロ以上に見えるって」
「ま、マジかよ! そんなの打てるのかオレたち!?」
「まあ慌てるなって。あくまでそう言われてるだけで、実際に見てみないと。それに恐らく先発はしない」
「どういうことだよ」
「理由は分からない。スタミナに不安があるのかも……とにかく試合の中盤からリリーフで出てくるパターンがほとんどなんだ」
「なんか不気味だな」
「でもおれたちはオージロウのボールを見慣れている。だから山之口さんが出てきても何とか捉えられると思うから安心しろって。結構似たタイプだし」
「そうか? それにオレは160キロなんて」
「なんでそう自信持ちきれないんだよ!? 阿戸さんの言う通りにもっと胸を張れって!」
バシッと背中を叩かれて思わず胸を張る形になったが、やっぱりオレなんて兄ちゃんに比べたら……。
そんなことを考えながらウォーミングアップを済ませてブルペンでの投げ込みをしているうちに試合開始時間となった。
ウチが先行なので今日も『2番DH』のオレは早速左打席に立つ。
相手先発ピッチャーはストレートが130キロ台の控え投手……しょーたが言った通りの継投策を取るらしい。
それはいいんだけど。
「ボール! フォアボール!」
露骨な敬遠はされなかったけど、全てアウトコースで勝負を避けられたのがよくわかる投球内容だった。
もちろんシード権がかかっている以上、真剣勝負だからこういう策もありだろうけど。
次の打席はどうしようかな。
オレは3塁まで進んだが、相手バッテリーの巧みな配球でタイムリーが出ずに残塁となって無得点に終わった。
仕方がない、まずは相手を無得点に抑えることに専念しますか。
「うりゃああああっ!」
ズバンッ!!
「ストライク、バッターアウト!」
よっしゃ!
オレは鬱憤を晴らすかのように三者連続三振に切って取った。
まあ橘商業の場合、4、5番が要注意らしいので油断はできないけど。
3番までは味方に球筋を見させるかのようにあまり振ってこなかったし。
だけどここは素直に好発進を喜んでおこう。そして早いところ山之口投手を引きずり出してやる。




