第66話 猫と戯れる
「にゃあ!」
「「きゃああ! か、可愛い〜!!」」
「フフ……雛子さん、そして由香里さん。ウチのレオくんのこと、いくらでも可愛がっていいんですよ? さあ、遠慮なくどうぞ……!」
「ほ、ホントにいいの田中くん? それじゃあ……レオくん、こっちにきてごらん〜!?」
「にゃ〜ん! ゴロゴロ!」
「なにこれ! 可愛すぎでしょこの生き物……! 思わず抱っこしちゃう!」
「んにゃあ!」
「ず、ずるいよひなちゃん! 私にも抱っこさせて〜!」
やれやれ、姉ちゃんたちすっかり夢中になって骨抜きにされちゃって。レオくんはいわゆるキジトラで雑種のオスなのだが、甘え上手というか愛くるしい仕草と表情で人間の方が虜になってしまう。
あの多岐川第三との練習試合からあっという間に半月以上経過して今は春休み。
そして今日は野球部の練習も休みなので、しょーたの家の飼い猫レオくんに会いに来ているのだ。
それにしても本当に可愛いなあ。
実はオレ……こういう可愛い生き物やもふもふが結構好きなのだ。でも硬派なオレには似合わないと普段はあえてこの思いを封印しているが。
だからレオくんに会わせてくれると聞いたとき、しょーたは心の友だと思ったのに。
だが甘かった。しょーたは狡猾にも『レオくんに会いたければ……雛子さんと由香里さんを必ず連れてこい!』とオレに要求を突きつけたのだ。
しょーたのヤツ、なかなか姉ちゃんに相手にしてもらえないからって遂に最強かつ最終兵器を繰り出してきやがった。
そしてその思惑通りに姉ちゃんも由香里さんも二つ返事でOKした。やっぱり女子は可愛いものやもふもふが好きなのだ。
「あらあら、すっかり賑やかね。それにしてもこんなに可愛い女の子が2人も来てくれるなんて……おばさん、どちらかがしょーたの彼女さんかなってドキドキしちゃった」
「それはご心配には及びませんわ、おばさま。2人とも田中くんとはそういう関係ではありませんから。良いお友達です」
「そ、そうなの? でもこれからもしょーたと仲良くしてやってくださいね、おほほ」
姉ちゃんのヤツ、しょーたのお母さんにそんなハッキリ言わずにオブラートに包んでだな……。
まあいいか。しょーたの狙いはあくまで姉ちゃんたちとの距離を詰める切っ掛け作りでオレが協力できるのはここまでだし、あとはしょーたが自分で何とかするしかないのだ。
それはともかく姉ちゃんと由香里さんはお茶とお菓子を受け取って……レオくんから手を離した。
これはオレがレオくんと仲良くなれるチャンス……!
オレはレオくんと目を合わせるべく姿勢を動かしてその顔に向き合う。
そして目が合った。オレは笑顔で見つめる……これでレオくんの方から近づいてくるに違いない。
「……シャアァァーッ!!」
そ、そんな! どうしてオレの時だけそんな警戒を露わに……いやこの程度では諦めないぞ。
こんなこともあろうかとオレは予習してきたのだ。初対面の猫と仲良くなる方法を。
オレはおもむろに右手人差し指をレオくんの前に差し出す。
猫は嗅覚で……つまり匂いで相手を判断するという。だからこうやって警戒を解かせれば……。
「クンクン」
よし、これで成功したも同然。あとはレオくんから近づいてくるのを待つばかり。
「……ふにゃああーっ!!」
ガブッ!!
い! 痛ってええええっ!
指を、か、噛まれた!
な、なぜなんだレオくん……いやまだだ、まだ終わらんぞ!
こうなったら最後の手段……◯ウシカ作戦だ!
このまま痛みに耐えていれば、やがてレオくんの方から指を放して傷口をペロペロしてくれるはず。その後は……!
「レオくん。怖くない、怖くないからね?」
「ウウッ……」
よしきた、あとはペロペロと。
「うみゃあああっ!」
ガブッ!ガブッ!!
「ぎゃああああああーーっ!!」
ば、馬鹿な! レオくんは懐くどころか部屋の端っこに逃げていった。
そしてあとに残ったのはオレの人差し指の傷口のみ……。
「アハハハハハハハッ! オージロウには全然懐かないじゃない! お、可笑しすぎてお腹が痛いんだけど!」
「ギャハハハ! ◯ウシカ作戦失敗ってか! アヒャヒャヒャ!」
チクショー! 姉ちゃんとしょーた、オレを思いっきり笑いものにしやがって! 後で覚えてろよ!
「二人とも笑ってる場合じゃないでしょ! オージロウくん、すぐに傷口を洗って! 私は救急箱もらってくる!」
ああ、やっぱり由香里さんは優しいな。こんな時でもオレの味方になってくれる。
ちなみにあとでキチンと病院で診てもらい抗生物質も処方してもらったが、幸い何も影響は無かった。
「しょーた! それなら仲良くする手本とやらを飼い主として見せてみろよ!」
「ああいいともさ。さあレオくんおいで〜?」
「……みゃああっ!!」
「うわああっ! 何すんだよレオくん!」
バシィッ! とレオくんのネコパンチがしょーたの手を払いのけるようにヒットした!
「なんだよしょーたもダメじゃん」
「おかしいな。いつもは喜んで抱きついてくるのに」
「あっ! レオくん、わたしの元に逃げてきた! 怖かったね〜、だけどもう安心して!」
「にゃあ〜ん」
その後、姉ちゃんと由香里さんに甘えまくるレオくんを見ていたオレに一つのことわざがよぎった。
「ペットは飼い主に似る」
まあ、しょーただからな。確かに納得だ。
さて、4月になればオレたちは春季大会が、姉ちゃんたちはまず女子硬式野球部の立ち上げと部員集めが待っている。
束の間の休息を楽しんで、いよいよ甲子園に向かって本格的に動き出す。




