第63話 大胆なリード
パシーンッ!
「おっしゃ同点! まだまだ続けー!」
「木崎ぃー! この勢いで一気に逆転しろー!」
ちくしょう。多岐川第三にとうとう追いつかれてしまった。
「石元さん踏ん張ってー! 裏の攻撃でオレが取り返すからー!」
マウンドにいるのは我らが連合チームのエース石元さん。
オレはベンチから声を送るしかできないのがもどかしい。
練習試合は既に6回表まで進み、まだ第三側の攻撃が継続している。
ちなみにオレは予定通りに5回で降板した。
最後はスタミナが切れかけて三振は1つしか奪えなかったが、石元さんに無失点で継投することができたのは良かった。
石元さんも余裕で相手の8、9番をアウトに仕留めたのだが……そこで第三側の渡監督が業を煮やした感じで代打攻勢を仕掛けてきた。
言い忘れていたがこの試合は7回で終了する。つまりあと2回しかないので仕掛けるならここしか無いのだ。
で、出てきたのはもちろんレギュラーの2年生たち……と蒼田監督から教えてもらった。
さすがはセンバツ補欠校の強豪私学、2塁打にタイムリーヒットと立て続けに石元さんのボールを外野に運んで瞬く間に1点をもぎ取ったのだ。
しかもここで木崎か。これも聞いた話だがスタメンの1年生たちの中で木崎だけは既にレギュラーのサードということだ。
それはともかくとしてどうリードするよ、しょーた。
◇
「ボール! ツーボールノーストライク!」
やっぱりストライクは投げづらいのか。
下手にストレートを投げるとパッシングショットの如く強烈な打球で野手の間を抜かれかねない。
かといって変化球だとたぶんスライスショットでタイミングを合わせながら内野の頭を越えてくる。
ここでいうスライスショットはテニスみたいなバックスピンをかけるやつ。オレもヤツを内野フライに仕留めたと思ったら打球が伸びてヒットになったことがあった。
いっそのこと木崎とは勝負を避けて……でも次は津々木だしなあ。ランナー溜めてからまかり間違ってスタンドに放り込まれたら……。
3球目は何を投げさせるつもりなのか。
石元さんの顔が不安半分といった表情に……でも覚悟を決めたのかグッと目の前を見据えるような目つきとなった。
そしてセットポジションからクイックモーションで右腕を振り下ろす!
スパーン!
「ストライク!」
以外だな……外角高めボールゾーンから曲がってくるボール、バックドアのスライダーをそのまま見送った。
まあツーボールだから様子見したのだろうか。
しかし4球目も同じような……木崎が振ってきた!
「ファウル!」
打球はバックネット側に鋭く飛んでいったが明らかにミスショットだ。
おおっ! なんか知らんが追い込んだ!
ただ言えるのはさっきは3球目と同じように見えてストライクゾーンよりわずかに高かった。その分バットの上を擦ったのだろう。
そして5球目はまた外角に外れていく……いや違う!
「ストライク! バッターアウト!」
外角高めギリギリに外から落ちてくる速いカーブが決まった!
「よしっ! しょーたくんナイス!」
あまりガッツポーズなど見せない石元さんが珍しくはしゃぐほど。よっぽど集中して投げ続けたのだろう。
思わず球審の上中野監督を睨む木崎だが、さすがに何も言えずに悔しさを押し殺した表情でベンチへ引き揚げていく。
そしてしょーたも引き揚げてきた。ちょっと聞いてみよう。
「しょーた! すげー大胆なリードだったな! 意表を突いたってか?」
「それもあるけど……言っただろ、木崎の左打席はテニスのバックハンド打ちが原点だって。バックハンドは一般的に高めのバウンドが力が入りにくいんだよ。それでバックドアなら行けるかなって」
なるほどなあ。普通に外角高めなら打たれるだろうけど、ボール球と混ぜ合わせて翻弄したというわけか。
よし! これで相手の流れを断ち切ったから、今度はオレが打席で応える番だ。




