第59話 なんとか出塁しろ
「ストライク! バッターアウト!」
3回表、多岐川第三側の攻撃。
オレは見事に三者三振に切って取り初回からの9連続奪三振を達成したのである!
第三側の渡監督もさすがに渋い表情だ。なんか悪い気もするけどこれは勝負なので仕方がない。
あ、言っとくけどオレは渡監督には割と良い印象を持ってるよ。
試合前に津々木がしょーたの背中を小突いた件、本人は結局ふて腐れて謝らなかったが代わりに渡監督が謝りに来てくれたからだ。
それはともかく持ち球はストレートだけ、それで押しまくったのだから我ながら大したもんだ。
あとはどれだけ続けられるか。二巡目に入ったら今まで通りとはいかないだろうし、スタミナがどこまで持つか。
ちなみに今日は先発として最低5回まで投げるのが目標。
現時点でどこまで投げられるのかを見定めるのが目的の一つだ。
だけどまだ寒さも感じる時期なのに、だいぶ汗をかいちまった。想定よりも多くのスタミナを消耗している気がする……。
ベンチの奥でアンダーシャツを着替えている間にあれこれ考えてしまったが、終わったところで気持ちを切り替えよう。
「ストライク! バッターアウト!」
ゲゲッ! もうツーアウトかよ!
津々木も剛球ストレートで押してナックルカーブを振らせるかゴロを打たせるというパターンで効率よくアウトを積み重ねていく。
見た感じ汗もあまりかいてないし、オレも先発で投げるのならヤツみたいな投げ方でスタミナの消耗を抑えるべきなんだろうけど……。
なかなか実戦で使える変化球が身につかないのが今の悩みだ。
おっと、物思いにふけってる場合じゃない。
次は1番打者のしょーただからネクストバッターズサークルに行かねば。
「しょーた! なんとか出塁しろー!」
「わかってるって!」
これはもちろんオレの前にランナーを溜めて欲しいのもあるけど。
次の回にオレが先頭打者になるのは慌ただしくなるからやっぱり避けたいんだよなー。
だが期待とは裏腹にすぐさまノーボールツーストライクと追い込まれてしまった。
「しょーたー! ちゃんとボールをよく見てコンパクトに振り抜けー!」
「わーってるよそれくらい!」
うーん。激を飛ばしつつも、こんなわかりきってること言われても……って内容だし、実際にしょーたの反応はそういうものだった。
津々木は性格はともかく、投球スタイルとしては剛球ストレートを程よくストライクゾーン内に散りばめて落差の大きい変化球で打ち取るというオーソドックスなもの。
シンプルゆえにストレートが荒れ気味なこと以外は目立った穴が見当たらないんだよな。だからしょーたのやり方を見守るのみ。
さあ3球目が来る……ストレートか変化球かどっちだ?
「おらあっ!」
「……!」
「ボール!」
普通に外角のボールゾーンへナックルカーブが落ちていった。
カーブとしては球速が速いので見切りにくいがしょーたは振りたくなるのをよく我慢した。
でもまだ終わりじゃない。せめてどっちかに絞れたら……。
だが考える間を与えないつもりか津々木は早くも投球フォームに入って4球目。
ガコッ!
「ファウル!」
コースとしては甘かったが、さっきのカーブと同じようなところに投げ込まれたストレートをカットして逃れた。
この打席のしょーたはまだ集中力が切れていない。読みさえ当たればもしかして……。
だが5球目も早いテンポで投げてくる。
ドスンッ!
「ボール! ツーボールツーストライク!」
内角の胸元にズバッと……と言うにはアレな、ちょっと抜け気味のストレートだった。
怖えな、あんなボールが身体に向かって来たら。しょーたはなんかわかってたみたいに後ろに避けたけど。
さて向こうのキャッチャーはどうするつもりだろう。もう1球ボールを使ってくるのかそれとも……。
少し時間を使って投球モーションに入った津々木。注目の6球目は何だ?
「ぉらあっ!」
「……でやぁっ!」
バシィッ!!
しょーたは少しタメてから身体を鋭く回転させ……内角低めに落ちてくるボールを捉えた!
「クソッ! しょーた如きにボクの守備位置を抜かせるか!」
叫びながら必死にジャンプして左腕を伸ばしたサード木崎だったが、あざ笑うかのようにそのすぐ上をライナーが越えていき外野へと抜けていった。
よっしゃ、2塁打コース!
1塁ベースを駆け抜けていったしょーたは滑り込みはしたが悠々セーフ。
6球目は要するにフロントドア……内角ボールからストライクゾーンに曲がってくる速いカーブだったのだが、バットを縦にしてのアッパースイングが見事キマった。
5球目と同じようなコースから曲がっていったから怖かったと思うが結構思いきり打ったな。
まるでわかっていたみたいに……。
そういえば。気がついたらわかりやすいのだが、多岐川第三は誰も津々木に指摘しないのか。
それともわかっていても直らないのか。
何にせよ修正しないのならオレも遠慮なく打たせてもらおうかな。




