第57話 タイミングのズレ
チッ!
ドスンッ!
「ストライク!」
「よっしゃ! 今のはいいボールだったぞマイク!」
「……うい〜す」
ちくしょう! 初球のストレート、カスってファウルチップにしちまった!
真ん中低め、ミットが構えた場所にほぼそのまま来たっぽいボールだったのに。
制球が荒れ気味のピッチャーだからこそチャンスをモノにしたかったなあ。
それにしても捉えたと思ったのがミートできなかったのは何でだろう?
津々木の背が高いから、どうしてもリリースポイントが見切りにくい……のもあるだろう。
でもなんかまだ足りないような。バットを構えつつ考えるが喉に引っ掛かったように出てこない。
もう2球目を投げようとしているし。とにかく狙い球を絞らねーと。
「おらあっ!」
ヤツが雄叫びと共に投げたのは高くスッポ抜け……いや外角に落ちてくるナックルカーブか!
ブンッ! とスイングしたがボールを捉えられず空を切る。
「ストライク! ノーボールツーストライク!」
「いいぞマイク! 要求通りだ!」
バックドア気味に外角低めいっぱいに決まりやがった。まあその前に空振りなんだが。
それにしてもなんなんだアイツ。
制御が難しそうなナックルカーブの方が制球が安定しててストレートの方が荒れるとか意味わからん。
ちょっとヤバいなこれ。簡単には……それによく考えたら持ち球はこの2種類だけなのか?
このあと別のを出されたら打てる気がしない。
……いや捨てよう、別のやつは。まだ初回の第一打席で一発勝負じゃねえんだ。
狙いを絞りながら再度構えて待つ!
津々木はワインドアップから右腕を豪快にテイクバックして、それを引き戻すように力強く振り下ろす!
ストレート来た! 真ん中高め!
「うりゃああ!」
バチィッ!
「ファウル!」
捉えたと思ったが結果は3塁側スタンドへフライが飛んでいった。
またタイミングがズレた。今までこんなことなかったのになあ。
でも決定的にズレてはいない。捉える寸前って感じだ。
さて4球目はどうするんだろう。そろそろボール球使うのか?
津々木のキャラ的にはストライクで真っ向勝負してきそうだけど、ここまではキャッチャーのリード通りに投げてるみたいだし。
オレが構えると間もなく津々木も淡々と投球動作に入る。そして……。
「おらあっ!」
……何となくカーブな気がする。そして読み通りに手前で落ちてきて内角に食い込んでくる!
「うりゃああっ!」
バコーンッ!
「ファウル!」
今度は1塁線の外側へボールが転がっていく。
でも引っ張ったと言うよりは先にバットの内側へ入られたって感じだ。カーブの曲がり切ったところを捉えきれてない。
「ふうーっ。もう少しだったのにー」
オレはワザと聞こえよがしに呟いてみた。なんか反応があってこの淡々とした投球に揺さぶりをかけられたら……と思ったが。
津々木もキャッチャーも何も反応がなく5球目の準備に入る。なんかやりにくいな。
それにしてもタイミングがどうしてもズレるのは……あっ、そっか。
オレはふとマウンドを見て、ようやく気づくことができた。そういうことか、だったら感覚を微調整して……。
準備完了っと。ワクワクして構えるオレ。
あとはあのコースにボールが来てくれたら嬉しいなあ。
津々木はやはり淡々と動き出し、でも力強く投げた5球目は。
内角高めストレート! 来たっ!
「うりゃああっ!!」
バシィーーン!!
得意なコースを気持ちよく振り抜いたオレは右中間深くへ飛んでいった打球の行方を見守る。
「オージロウくん! 一応は全力疾走だ!」
おっと、ネクストバッターズサークルの別府さんから注意が飛んできた。大丈夫だろうけど念の為に走ろう。
でもまあスタンドに入るのは明らかだ。何故ならタイミングのズレを修正できたから。
オレはマウンドでヤツが足を踏み出す位置を見てようやくわかった。そうだ、津々木はオレよりずっと手足が長いんだって。
だからボールをリリースする位置が打者に近くなる……その分振り始めるタイミングを微妙に変えないといけないのだ。
などと思いながら1塁ベースに向かって駆けていると。
ドカァッ!
フェンスに何かが激突したような音が……って打球が当たってグラウンド側へ跳ね返ってるじゃん!
「や、ヤバい! 急がねーと!」
本気の全力疾走に切り替えたオレ。セカンドベースに滑り込むと同時にボールが戻ってきて……!
「せ、セーフ!」
「あ〜。ヤバかった!」
「……チッ」
なんとか間に合った。それにしても塁審は多岐川第三側の1年生部員なのに公平に判断してくれた。
そこはさすが強豪私学というべきか、それともあちらの渡監督のご指導の賜物か。
とにかく今はそれよりも別府さんに怒られずに済むという安堵感でいっぱいのオレであった。
そういやさっきの舌打ちってやっぱり津々木かな? 走塁のことか、それともフェンスまで運ばれたことかはわからんがようやく感情を出してきた。
そしてオレも悔しさが込み上げてきた。
ちくしょう、行ったと思ったのがフェンス手前で失速しやがった。
あと一押し足りなかった……久々に力負けみたいな感覚を味わって落ち着かないが、この借りは2回表にまず返してやるぜ。




