第56話 ボールが落ちてくる
これから1回裏でウチの攻撃が始まる。
1番はしょーた、そしてオレは……2番DHで先発ピッチャー。
つまりいわゆる◯谷ルール適用者なのだ!
これはもちろん今度のセンバツからDH制及び◯谷ルールが導入されるのに合わせて、この練習試合でも適用することで両チーム合意済み。
オレもずっと憧れていたこのポジション……やっぱり胸が躍る思いでちょっと落ち着かない。
でも任されたからにはホームラン量産してやるぜ! といいたいところだが。
マウンドには多岐川第三のピッチャーとして津々木マイクが立ち、投球練習を開始しようとしている。
そう、津々木も4番DHとしてルール適用されているのだ。
それはともかく、190センチ超えの長身で筋肉質の身体から繰り出されるボールはどの程度のものか、オレたちは注目しているのだが。
ドスンッ!
あまり聞いたことのない捕球音が聞こえてきた。
予想通りの『上から投げ下ろす』ストレートは角度があってまさにボールが落ちてくるようだ。
そして簡単には打ち返せそうにない重さみたいなのが感じられる。
ボール自体の重さが変わるわけじゃないのに、そこに体重がのしかかってると思うほどだ。
だが……球速だけで言えば明らかにオレのほうが速い。もちろん津々木も150キロは越えてるだろうけど、それでもだ。
あと、制球が安定してないような気も……キャッチャーが構えたところにいってないボールのほうが多い。
あの球威で当てられたらたまったもんじゃないから気をつけねば。
やっとプロテクターを外し終えてやや駆け足で右打席に向かうしょーたに声をかけておこう。
「しょーた! 一応は気をつけろよ!」
「ん? ああ、とにかくそうする!」
わかってんのかね、ちょっと不安になる返答だなあ。
しょーたが構えたところで津々木は振りかぶる。今どきワインドアップとは珍しい。
そこから右腕を大きく動かして力を込めるかのようにダイナミックに左足を踏み出し、腕を振り下ろす!
「うわっ! ボールがこっちに!」
ドスンッ!
「ボール!」
「あー、ごめんな。ウチのピッチャー、ちょっとボール荒れる時あるから注意して!」
相手キャッチャーは大したことないように言ってるけど、内角高め……というか顔に近いところに剛球ストレートが飛んできたのだ。
あーもう、心配したとおりになってきた……だがしょーたは怯むことなくヘルメットの向きを右手で直しながら打席内で構え直す。
「さあ来いや!」
しょーたがあえて大きな声を出して気合を入れ直したところで津々木は2球目を投げてくる。
ドスンッ!
「ストライク! ワンボールワンストライク!」
今度は外角低めか。というか微妙なところを上手くフレーミングでストライクにした感もある。
控えの1年生主体のスタメンとか言ってたけど、キャッチャーは他の野手に対する態度から推測するに2年生っぽいな。
まあ、あの津々木を同学年のキャッチャーが制御するのは大変そうだし。
続いて3球目はベルト付近の高さだが内角ギリギリでストライク。
ここまでストレートだけだが、ホント荒れ狂うみたいな投球で的を絞りづらいな。
だけど追い込まれた以上は打っていかないと。
しょーたは振り遅れないようにバットを拳一つ分短く持って構える。
対するピッチャー津々木はこれまでと同じダイナミックなフォームで叫び声とともに右腕を振り下ろす!
「おらぁっ!」
「えっ? 暴投?」
4球目はボールがバッターの頭上より上に向かって……いや、ものすごいトップスピンで速いスピードのまま上から落下してくる!
ここに来て突然の変化球、しかも外角低めに決まりそうだ!
「クソッ! 当たれ!」
ガコッ! と鈍い打球音でボテボテのゴロが3塁の方へ転がっていく。
完全に引っ掛けさせられたが、弱い打球が幸いして内野安打になるんじゃ……と思った瞬間だった。
「うふふっ! さっきはマグレでボクを打ち取ったけど、打つ方は相変わらずからきしで弱い打球だねえ!」
サードの木崎がもう目の前に! どんだけ反応早いんだよ!
「そらっ! ボクの華麗な送球で必死に走るキミを仕留めてやろう!」
バシィッ!
「あ、アウト!」
「ちくしょう〜!」
「あっはっはっ! まずは一つお返ししたよ〜!」
内野安打どころかいとも簡単そうにアウトにされてしまった。
更に木崎は送球のフォロースルーをこれ見よがしに派手に決めやがった。
何やってもなんか腹立つ野郎だぜ全く。
それにしても津々木の最後の変化球……もしかしてナックルカーブとかだろうか。
ストレートとあまり変わらない腕の振りで一旦浮いてからあれだけ落ちてくるなんて……。
どうしようかな。威力のあるストレートでもいいだろうけど、あのナックルカーブも捨てがたいな。
スタンドに放り込んだ時の気持ちよさが……!




