第54話 試合前から波乱含み
「え〜。ボクは木崎 顕実、1年生でポジションはサード。出身中学は大化東ですね〜」
オレたちは到着したばかりの練習試合の相手、多岐川第三高校のメンバーをグラウンドで出迎えた。
今はお互いに簡単な自己紹介をやっている最中だ。
総勢30人弱と人数が多い……といっても今回遠征してきたのは部員全員ではなく今日と明日の練習試合に出場予定のメンバーだけらしい。
やはり強豪私学は部内の競争を勝ち抜くだけでも大変だなあ。
それはいいとして……気になったのが木崎という1年生の出身と態度だ。
髪型もなんというか◯輪くんみたいな横に流れるキザな感じなのだが、それよりも大化東中ってしょーたと同じじゃないか?
それにさっきからしょーたをチラチラと見ているが、視線が上から見ているというか。なんか気に食わねーな。
「あ〜、津々木マイク。1年生、ピッチャー。そんだけです」
おっと、次の奴……コイツはまた別の意味で態度がなあ。ダルそうにしてるけど目つきはギラギラしてるというか、ヤンキー漫画に出てきそうな雰囲気だ。
背丈は190センチ超えてるんじゃないか。ガッチリした筋肉質だし、見た目のインパクトもある。
名前からするとハーフの人かな……よくわからんけど。
あとはレギュラー格と思われる2年生たちも強い自信がうかがえる堂々とした態度だ。
オレたち連合チームも自己紹介を終えて、お互いにウォーミングアップの準備をするべく場は解散となった。
「なあしょーた。お前と同じ中学の奴がいたけどさあ」
「それは……」
「見覚えがあると思ったら『不動のベンチウォーマー』しょーたくんじゃあないか! まさか多岐川との連合チームに参加してるとは……まあ人数不足のチームならレギュラーの座を手に入れられるってわけだね、キミでもさ〜。アッハッハッ!」
「なんだよあの木崎ってヤツ、感じ悪いなあ。でも気にするなしょーた」
「わかってる。だけど、入部したての中学1年の頃は彼も含めてみんな仲良くやってたんだけどな……」
しょーたからはそれ以上は詳しく聞けなかったが、まあ何となくわかってきた。
確か中学時代の同じ学年の仲間はしょーたを含めて6人だって聞いたことあるが……少なくともその時はあまり雰囲気の良くない野球部だったのだろう。
「まあとにかくオレたちも一旦ベンチに戻って準備しようぜ」
「そうだな……痛てっ!」
「邪魔だ、どけっ!」
移動しようとしたしょーたの背中を小突いたのは津々木マイクだった。いきなり何すんだコイツ!
「何しやがんだテメー!」
「ウォーミングアップすんのに邪魔なんだよ」
「だったら普通にどいてくれって言えば済むだろーが!」
「……なんだこのチビ。モンクあんのかよ? あ〜ん!?」
津々木はオレを見下ろしながら顔を近づけてきたが負けてられるかってんだ!
「どーしたオージロウ! そいつになんかされたのか!」
「マイクやめろ! こんなとこで揉め事起こすな!」
こちらは阿戸さんが加勢に来てくれて、第三側は周りの連中が押さえようとしているのだが簡単には収まらない。
「おいテメェ……俺の弟分たちに何かしやがったらぁ!」
えっ? オレとしょーたはいつの間に阿戸さんの弟分ってことに……まあいいか、ここは素直に先輩を頼ろう。
しかし津々木も怯むどころか噛み付いてきやがる。
「何かしたとしたら、どうするってんだ? あぁ!?」
もう完全にヤンキーの掛け合いになっちまってる。このままじゃ……!
「いい加減にしないかお前ら!」
「なにやってんだい阿戸!」
「マイク! わざわざここに来たのは何をするためなんだ?」
蒼田監督と松花高校の上中野監督、それに第三側の年配の監督さんが間に入って一喝して、ようやく双方の動きが止まった。
その間に別府さんと石元さん、それに白城さんが阿戸さんを。
第三側はコーチたちが津々木を引き離して事なきを得たのだった。
それから蒼田監督は第三の監督さんに頭を下げたのだが、津々木が先に仕掛けてきたのにな。
「申し訳ありませんでした、渡先生。あとで当事者たちには注意しておきますので」
「いやいや、恐らくウチの暴れん坊……マイクの方が何か煽ったのだろう。こちらこそすまないな蒼田くん」
うーん、どうやらこの2人は上下関係みたいなのがあるらしい。
あとで聞いたことだが、蒼田監督が現役高校球児だった時代に渡監督は多岐川高校の野球部監督だったんだと。つまり師弟関係だったのだ。
そのあとは双方とも一見何事もなくウォーミングアップを始めたのだが……阿戸さんと津々木はずっとチラチラと睨み合いを続けていた。
のっけから波乱含みで始まったが、なんとか無事に14時ちょっと前から練習試合を始められたのは良かった。
そして先攻は第三側で……マウンドには今日の先発を任されたオレが立っている。




