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第5話 久しぶりのマウンド

 パーン!


「おっ。いい音響かせてんじゃん、しょーた!」


「いてーよオージロウ! キャッチボール始めたばっかなのにそんなに力入れて投げてくるなって!」


 オレたちはストレッチをひと通りこなしてから野球の基本中の基本、キャッチボールを始めた。


 リトルリーグ以来かなり久しぶりに握る硬球の感触に懐かしさと不安を感じつつ、指先への引っ掛かりを気にしながらしょーたに向けて軽く投げた……はずなんだけど。


「オレはまだそんなに力入れてねーよ! しょーたの捕り方が悪いんじゃないのか?」


「悪かったら、あんないい音出ないだろっ!」


「うわっ! お前こそ全力じゃねえか!」


 しょーたの奴、何をムキになってんだよ。そんなこんなでオレたちの初練習は荒れ模様でスタートした。


 そして気がつくと何十回とそこそこ力を込めて続けてしまった……ウォーミングアップのつもりなのにこれじゃ本末転倒だ。


 まあいいか、どうせやれる練習は限られてる。肩と肘に負担がかからないように気をつければいい。


「それじゃこれがラストだ、しょーた!」


「おうよ! って速すぎるしどこ投げてんだ!」


 しょーたは頭の上を飛び越えようとしたボールに何とか腕を伸ばしてグローブに収めた……いや、ボコッと鈍い音をさせてボールを手前に落としてしまった。


 でも今回はオレのせいだ。昔はこんなことなかったのに、やっぱり感覚が戻っていない。


「わりぃ、つい力が入った」


「いてて……まあ別にいいんだけど、確かピッチャーやってたって言ってたよな? その時もこんなノーコンだったのか?」


「ノーコンじゃねーよ! 兄ちゃんみたいに精密なコントロールじゃなかったけど、ちゃんとストライクゾーンには入ってたんだ」


「もしかして『荒れ球』って言われてないか?」


「言われてなかったから!」


 といいつつも、リトルリーグではストレートでストライクさえ投げていれば大抵打ち取れていたという栄光の過去を思い出す。


 まあ、プレートからホームベースまでの距離が短かったし打者のレベルも違うから今でも同じ調子でいけるとは思っちゃいないけど。


 などと物思いにふけっていたら、しょーたが誘いをかけてきた。


「なあ、もう肩は温まってるよな? ちょっとマウンドから投げてみないか?」


「うーん。でも遠投してないし」


「この環境じゃ遠投はやりにくいし、2、30球メドにどうかな。おれ、オージロウが投げるボールを見てみたくなったんだ」


「いいけど、しょーたはキャッチャーできるのかよ?」


「おれ、中学時代は全ポジションこなしてたから。それがウリってやつだ」


「マジか! それ結構凄くない?」


「どうだろうね。おれはそうでもしないと試合に出れなかったから。そんなことよりどうするよ?」


「よし、やるか!」


「そうこなくっちゃな!」



 グラウンドの隅にある土の盛り上がり……ブルペンのマウンドに登ってみると、周りにところどころ雑草が生えてる。


 1年間使われないとこうなっちゃうんだな。目立つやつだけ抜いて横に置いてから、プレートにかぶってる土を足で払い除けた。


「さあオージロウ! どーんと来いや!」


 既にキャッチャーミットにつけ替えたしょーたが構えている。やっぱりリトルリーグ時代より遠く感じる……というか実際に遠いけど。


 それはともかく、座ってる位置が丁度バックネット裏の端になってる。そうなるように設計されてるのか偶然かはしらんが、暴投するとサッカー部の連中に当たる心配がある。


 久しぶりの投球だから不安になってきた。後ろに誰もいないのを確認して……プレートを踏み、ノーワインドで投球動作を始める。


 ブヨブヨの身体で動きは重いが、自然にスリークォーターのフォームとなって左腕を振り抜く。


「おりゃああ!!」


「うわああっ! 速ええっ!!」


 やっちまった、暴投!


 だけど腕を伸ばせば取れる位置だったはず。しょーたの奴、簡単に後ろに逸らしやがって!


 ボールは道路側とグラウンドを隔てるコンクリートのり面にドカッと派手に当たり、向こう側からざわめき声が聞こえてきた。


「おい、危ねーだろうが野球同好会! 今度やったら許さねーぞ!」


「すいません! 気をつけまーす!」


 しょーたが頭を下げて今回は注意だけで済んだが、もうヘマできねーな。


「しょーた! さっきのなんで捕れなかったんだ!」


「だってさ……お前の指先から見たことねえ速さで飛んでくるような感じで、怖かったんだよ!」


「お前本当にキャッチャーもやってたのか?」


「やってたさ! だけどこんなボール投げる奴はいなかった! 150キロは超えてたんじゃねーか?」


「んなアホな! オレだいぶブランクあるのにそんな球速……しょーたもしばらく生きたボール受けてないからそう感じるだけじゃねーの?」


「そうかなあ……じゃあ、対策やるしかねーな」


 結局トスバッティング用折りたたみ防球ネットをキャッチャー後ろの位置まで運んで広げるという余計な作業をする羽目になったオレたち。


 疲れちゃって、結局20球で投球練習をやめちゃった。そのうちストライクは半分もなく、しょーたは10球近く後ろに逸らしてた。


 やっぱり投球フォームが安定してないのかな。途中で足がグラついてきたし、走り込まねーとダメなのかも。


 ま、気を取り直して打撃練習でスッキリすることにしよう、そうしよう!

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