第48話 ボールの見極め
「オージロウ! なんだか調子に乗っているようだけれど……さっき言った通りヒネり潰してあげるから。かかってらっしゃい!」
「いいぞ雛子ちゃーん! もっとやれー!」
「オージロウをお姉ちゃんとして懲らしめてやってくれー!」
左打席に入った姉ちゃんから挑発され……たのはまあ分かる。
しかしそれに便乗してオレを懲らしめろとか無茶苦茶言ってやがるぜOBチームの連中。
まあ、そう言われるのも無理はないかもしれんが。
なにせこの試合、オレは2安打2打点1本塁打、盗塁阻止1回、そしてただいま2者連続奪三振と暴れ回っているからだ。
これだけ目立つと嫌がられても仕方がない。
でもまあ、存在を意識されないよりはマシってもんだ。
というわけでこの場面は姉ちゃんをサクッと打ち取って、この裏の攻撃でもう一本ホームランを打ってサヨナラ勝ちといこうじゃないか。
まず初球はどう攻めるか。しょーたはどうする気だ?
「雛子さ〜ん。今日は3回もすぐ傍にいられて、それだけでおれ幸せです〜」
なんかデレデレしながら姉ちゃんに話しかけてやがる。
こりゃダメだ。しょーたは当てにせず自分で投球を組み立てよう。
それにしても姉ちゃんはしょーたの方を振り向かずに反応無しとは、なんかしょーたが可哀想な気がしてきた。
とりあえずサイン交換……だがしょーたは頑なに内角高めを拒んでいる。
さすがにキャッチャーが構える気がない場所に投げるわけには……。
じゃあ妥協でここに投げよう。
「うりゃっ!」
「外角低め! だけど甘いわねっ!」
バコーンッ!
ポップフライだ! キャッチャー左後方!
「しょーた! 早く追いかけねーと!」
「えっ? ああ、そうだな」
全然ダメだ……結局はファウルになった。
せっかく打ち取れるチャンスだったのに〜。
姉ちゃんが最も得意な外角高めを避けたのだが、一度投げたコースは対応してくるだろうからどうしたものか。
姉ちゃんの反応は……なんかブツブツ言ってる。
「……思ったよりも差し込まれちゃった。ホームラン狙いは今のわたしには難しいかな。でもそうじゃないフリを続けないと」
「姉ちゃん! 言いたいことあるならハッキリ言えよ!」
「じゃあ言わせてもらう。さっきは打ち損じたけど次は無いから」
やっぱりそうだったか。まあ姉ちゃんも久しぶりだもんな、バッターボックスに入るのは。
ところで2球目はどうしようかな。内角が使えない以上、揺さぶれるのは高低差だけ。
どう組み立てようかな……。なんにせよ変化球が無いオレは全力をぶつけるのみだ。
それじゃ覚悟を決めてここで勝負を挑む。
「うりゃああっ!」
「……高い!」
「ボール!」
真ん中高め……だけどハズしてしまった。
いいとこ投げたんだけどな。ちょっとバット出かかってたし。
でも仕方がない、続けざまにどんどん投げ込んでいく!
「……んっ!!」
「ボール! ツーボールワンストライク!」
「イテテテ! ワンバウンドでプロテクター越しでも痛いぜオージロウ!」
「すまねえ、しょーた!」
3球目は真ん中低めで投げた瞬間にハズれたとわかるストレートだ。
「オージロウがビビってる! イケるぞ!」
「一気に攻略だー!」
OB側ベンチから押せ押せの声援が響き渡って雰囲気はちょっと良くない。
姉ちゃんはバッティングに集中してるみたいでいちいち反応せずに構える準備をしている。
しかしそんなものは関係なくオレの準備は整った。あとは結果を出すだけだ。
次の4球目……オレはここに全集中して挑む!
ノーワインドから右足を上げて……軸足で少しタメてから踏み出す。
そしてこれでもかとしならせた左腕を振り抜いた!
「うりゃあああ!!」
「そのコースはもらったあっ! うりゃあっ!」
バシィーンッ!
芯で捉えた打球音で鋭いライナーがレフト方向へ。
それはそのままの勢いで3塁側スタンドへ突き刺さり、ガコーン! と座席に強く当たった音がマウンドまで聞こえてきた。
「ファウル!」
「今のはもう少し押し込めてたら……惜しいことした〜!」
危なかった……でもここはオレの勝ちだ。
姉ちゃんが得意な外角高めに投げこんだストレート……ヘッドの遠心力を最大限に活かせる場所でバットと激突し、わずかな差で押し勝ったのだ。
明らかに打球の行方を惜しむ姉ちゃんを見て、オレは次で勝負を決める確信を得た。
ならば迷うことなくプラン通りに左腕を振り下ろす!
「うりゃあああっ!!」
「……! そこは次はないと言ったでしょ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
「いよっしゃああ!」
「そん……な。このわたしが完全に振り遅れる……なんて」
「外角低めにズバッと決まったーっ!」
「オージロウが力で押し切ったぞ!」
「ひ、雛子ちゃんまでやられるなんて〜!」
両ベンチはもうこれで試合が決まったかのような騒ぎようなんだけど、まだ同点で6回裏の攻撃が残ってるんだよな。
それはともかく、力で押し切るとかそんな単純な勝負じゃなかった。
でも4球目は本当に賭けだったんだよな。あれを押し込めなかったらそのまま長打を……いやあの打球だとスタンドまでもってかれてた。
最後の5球目は、3球目の低めボール球が前フリだったのだ。
姉ちゃんは腰高な構えなので元々低めは見切りにくいが、卓越したバットコントロールでカバーしてきた。
でも……やっぱりブランクで低めの見極めがだいぶ落ちていた。
だからワンバウンドになるようなボールでもすぐに見切れずジッと見ていた。それで確信した。
このあと外角低めギリギリに投げたら、一瞬戸惑って振り遅れるだろうなって。
結果はご覧の通り。悪いな姉ちゃん、純粋な力勝負じゃなくて。
さあ、次はオレのバットでこの試合に決着をつけてやるぜ!




