第47話 兄弟対決
「オージロウくんってスゴいよね〜! さっきは外野手、その前はキャッチャー。そもそも最初はDHだろ〜?」
右打席に入りながらオレに話しかけてくるのは、多岐川OBチーム不動の1番打者シンイチさんだ。
まあ、言われてみると自分でも驚く程の守備位置の変わりようだ。
いかに部内の練習試合とはいえ、よくこんな無茶苦茶なことをこなせてるなあと我ながら感心する。
しかし何が聞きたいんだ? 真意を計りかねたオレはまず褒めてもらったお礼を適当に返す。
「どうも、あざっす」
「しょーたの連れ……というかチームメイトにまさかここまでやる選手がいるとは思いもしなかったから、ホントビックリだよ〜!」
「は、はあ。それで、何の用っすか?」
「……そりゃあ決まってるだろ。キミの本職はいったいどれなんだい? あ、外野手は違うかな、あの守備じゃ。それともまだ隠してる守備位置があるとか?」
「いや、もう無いです。本職はピッチャーであとはサブポジってやつっす」
「ふーん。てっきりキャッチャーが本職……ってか本当はオージロウくんが正捕手でしょーたが控えなのかと思っちゃってさ。その方が辻褄合うでしょ。あの2塁への送球とか」
「違います、しょーたが正捕手です! オレは肩だけ強いんでワンポイントでやっただけっす」
「ワンポイント捕手……なかなか斬新な野球用語作るね〜。面白いよオージロウくん。で、ピッチャーが本職ってなら本気で相手しないといけないなぁ……!」
シンイチさんの雰囲気がガラリと変わった。
現役大学野球選手が本気で打ちにくるって言うなら、もちろんオレも全力でいかねばなるまい。
まあ、それはいいんだが……シンイチさんと本当に勝負したいヤツはすぐ後ろにいるんだけどね。
トボけてるのか本当に気にも留めていないのかはわからんが。これは余計なお世話だからオレは口に出さないけど。
そういうわけでキャッチャーボックスで静かに闘志を燃やしているしょーたのリード通りに投げると今決めた。
さあて、初球はどうする……そうきたか。
サイン交換が終わるまでそれほどかからずにノーワインドアップで投球を開始する。
安定した軸足から前に踏み出し、左腕をしならせて初球を投げ込む!
「うりゃっ!」
ズバンッ!
「ストライク!」
「ひょえ〜! ズバッと来たねぇ、胸元に!」
決まった! 内角高めにノビのあるストレートが!
しょーたのリードはいつになく強気だ。
いきなり挑発的な場所を選んで兄貴の関心を引くかのように、真っ向勝負を宣言したのだ。
さて2球目は……まあ意図はわかった。
「うりゃっ!」
「もらった……あれっ!?」
ズバンッ!!
「ストライク! ノーボールツーストライク!」
今度は外角高めにストレート……だがシュート回転してボールゾーンへ逃げていくのを空振りさせることに成功した。
そう、今のは意図的に早めに身体を開いてシュート回転『させた』のだ。
以前のオレは軸足が不安定で投げてみないとどんなボールが行くかわからなかった。
でも下半身の強化でそういうのをかなり減らして自在にボールを操れるようになったのである。
まあでもシンイチさんにはもうシュート回転は通じないだろう。このあとはより引きつけてコンパクトに振ってくるはず。
そういうわけで3球目はどこに……遊び無しでもう決めに行くのか。
それじゃあズバッと行こうじゃないの!
ズバンッ!
「ボール!」
「そんなミエミエの釣り球に引っかかんないよ〜!」
真ん中高めボールゾーンにノビのあるストレートを投げ込んだが、さすがに見透かされたか。
ここからはキャッチャーとバッターの駆け引き……どうリードするかで勝負が決まる。
4球目は揺さぶりをかけるってことか。
オレは1塁側に寄ってプレートを踏み、そこからクロス気味に投げ込む!
「うりゃっ!!」
「リードが単純! 今度こそっ!」
バコーンッ!
「ファウル!」
「あぶねっ! 自打球当たりかけた!」
内角低めのストレート……まあ確かに高めから低めストライクゾーンに決めにいったらわかりやすいか。
でもシンイチさんはしょーたの狙いを誤解している。
しょーたはこれで決めるつもりはなかった。
内角へ角度があるストレートを見せておきたかった、それだけだ。
そしてオレの球速ならあのコースを捉えられてもバットの内側に当てさせられると確信していたのだ。
だから詰まって3塁側ファウルになるしかなかった。
というわけでそろそろかな。
5球目は一気に外を高めに突き通す!
「うりゃああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! 空振り三振さね!」
「ちくしょう〜! わかってたのに振り遅れた〜!!」
「おっしゃあ!!」
「……グッ!」
難敵を打ち取って雄叫びをあげるオレとキャッチャーボックスから密かにサムズアップで応えるしょーた。
今回の勝負、しょーたが完全にシンイチさんを翻弄したと言っても過言じゃあない。
最後の外角高めへのノビのあるストレート、これを生かすために前フリを2段階やっていたのだ。
一つはシュート回転。先にこれを見せたので同じ外角高めでシンイチさんはタイミングが遅れた。
そして直前のクロス気味の内角低め。
それで仕留めるのが狙いじゃなく、先にプレートを1塁側寄りに踏んでおくのが真の狙いだった。
なので5球目は外角一杯をかすめるストレートをそのまま最短距離で投げることができたというわけだ。
「あ〜、今回は完敗! でも次の打席は……いや、この試合は6回で終わりだったな、しょーた」
「その通りだよ兄貴。だからおれらの勝ち逃げさ」
「じゃあ、次の合宿にもまた来てやる。その時は打ちまくってやるからな〜!」
「望むところだぜ」
兄弟間のコミュニケーションも上手くいってるみたいだしめでたしめでたし、と。
いやまだだ。
次はオレにとってのラスボス、姉ちゃんが打席で待ち構えているのだ。




