第4話 練習開始!だが出鼻を挫かれる
「えーとね。一応、野球部の活動再開が認められました。今日からグラウンドで練習することも許可する……そうです」
「ほ、本当ですか!? やったぜコンチクショー!!」
オレにとっては激動であった日の翌日。
授業が終わって掃除当番を終えると、オレとしょーたはすぐに職員室へ行き、野球部顧問である中原先生の元へ結果を聞きに行った。
思ったよりも早い満額回答に、しょーたは思わずガッツポーズで大声を出すほどの喜びっぷりだ。
それはいいとして、やっぱり中原先生には決定の権限なんて何もないんだろうなあ。顧問なのに『認められた』『……そうです』って口調はまるで他人事だ。
やる気もあまり見えないし、こんなんで試合になったら部長兼監督なんて務まるのだろうか。
それともそういうのは連合チームを組む他所のチームにお任せになるのか……って、こんなの気にするのは早い。そもそも連合チームに参加させてもらえるかどうかもわからんのに。
などとじっくり考える余裕をしょーたは持たせてくれなかった。
「オージロウ! すぐに練習始めるぞ!」
「そんなこと言ったってボールもグローブも持ってきてないぞ」
「大丈夫。体育倉庫室の奥に使い古しの野球用具がまとめて置かれてる。使っていいですよね先生?」
「まあ、問題ないと思いますが使い終わったらキチンと元通りに直しておいてくださいね? グラウンドの使用については、他の運動部の先生方に話は通しています」
「ありがとうございます! 行くぞオージロウ!」
「そんなに慌てなくてもいいだろうに……やれやれ」
◇
ふう、疲れた。
体育倉庫室の本当に奥の奥……野球用具や小型の防球ネットやらが押し込まれていた。
そこからとりあえずバットとグローブ、ボール数個に、バッティング練習用ネットを1つだけ運び終えたところだ。
グラウンドの道路側に面している2隅のうちの1箇所に、高さ15メートル程の柱が何本も並んでネットが張られた立派なバックネットがある。
真ん中で曲線を描いて1塁、3塁側にも比較的広く設置されていて、かつては野球部が人気の運動部だったとわからせてくれる。
倉庫からここまで距離があり、特にネットを運ぶのは2人でも大変だった。まあ、それはともかくとして。
「ところでしょーた。マウンドが見当たらねーんだけど」
「実はさ、夏休み中に工事があって削られて均されちゃった。ホームベースも埋め込まれてたのが取り外されたし。たぶん他の部が使えるようにだと思う」
「じゃあどうすんだよ、練習」
「今のところは2人だからそんな大した練習できないし、このままでやろう。もっと部員が増えたら、その時はその時だ」
出たとこ勝負の行き当たりばったりかよ。まあオレたちにはどうにもできないし仕方がないけど。
それでも気を取り直し、とにかく練習を始めようとしたところでいきなり出鼻を挫かれた。
「おいお前ら、そこで何やってんだ。今から俺らサッカー部がここで練習するんだ、すぐどいてくれよ」
「いや、おれたち野球部で今から練習始めるところなんだ」
「はあ〜!? 野球部は去年潰れたはずだろ、ウソつくな!」
「復活させたんだよ。顧問の先生にも練習の許可もらって、他の運動部の先生方にも話は通してあるって」
「そんなワケあるか! いいからそこをどけ!」
「やなこったい、せっかく用具を運び出したのにそっちこそふざけんな!」
結局オレも加わって言い合いになり、ヒートアップしてきたのだが。
「お前たち何を揉めてんだ!」
「あっ、キャプテン。それがですね」
サッカー部のキャプテンが出てきた。言い合っていた奴らはこれまでの経緯を彼に説明する。
そしてひと通り説明を聞いたそのキャプテンはオレたちに冷たく言い放った。
「君たちにはわりぃけどさあ、俺らその話なんも聞いてねーから。それに夏休み中から俺らここでずっと練習してるし今さら譲れねーよ」
「そ、そんな。じゃあオレたちにどうしろと」
「うーん。そこのバックネット裏なら邪魔になんねーから丁度いいんじゃねーの? 2人だけならそれで十分でしょ」
「さあどいたどいた! これ以上邪魔すんな野球同好会!」
最後はヤツらにイヤミまで言われる始末で、多勢に無勢のオレたちは引き下がらざるをえなかった。
後で聞いた話だが、この高校は近年サッカー部やバレーボール部の方が勢いがあり、そもそもそっち志望の入学者が多いんだと。しょーたがいくら勧誘しても誰も応じないわけだ。
◇
「よいしょっと。でもまあこれだけのスペースがあれば何とかなるかな」
「しょーたはよくそんなに前向きでいられるな」
「しょうがないだろ、キャッチボールでも始めよーぜ」
幸いにもバックネット裏はそこそこの広さがある。かつては荷物置き場とか練習試合でベンチ代わりに使われてたスペースなんだろう。
2人で練習するだけならこれで何とかなりそうだ。
それに良いものを見つけた。それはなんとブルペンである!
隅っこのあたりが盛り上がっていて、もしかしたらと覗き込むと……あった、ピッチャープレートが!
夏休みの工事でここは対象から省かれたのだろう。工事費をケチったのだろうが、そのおかげで残ったというわけだ。
そこから1塁側へ向かって投げ込むようになっており、これなら投球練習は問題なくできる。
リトルリーグ時代はこれでもエース格だったオレは、ちょいと疼いてきちゃったぜ。左腕が……!