第39話 対OB戦開始直前
「先輩方、今日はわざわざ来ていただいてありがとうございます。自分は現チームのキャプテンを務める別府です」
「初めまして、ピッチャーの石元です」
「……ども、白城です」
「そか、キミらとは入れ違いで卒業しちゃったから初めましてだな」
「今年は期待できる選手が揃ってるって聞いてるよ〜」
多岐川の別府さんたちも初めて会うOBたちなのか。
だけどしょーたの兄貴であるシンイチさんと同学年ってことは現役大学生の選手たち……そんなの相手じゃ勝負にならねーんじゃないのか?
「今日はお手柔らかに頼みます先輩方」
「いやこちらこそ手加減頼むわ〜別府くん。なんせこの7人のうち現役の大学野球部員は2人だけだし」
「俺は一応やってるけど軟式の同好会なんだわ」
「こっちは実家の豆腐屋の手伝いで草野球もままならねーし」
OBたちの意外な現状にオレたちはざわざわとざわめいた。
これじゃ思ったほどの真剣勝負にならないんじゃ……でも逆に言えば2人も現役なんだし丁度いいくらいなのかも。
などと考えながらふと横を見るとしょーたがいない。
どこへ行ったのかと見回すと後から歩いてきたシンイチさんの方へ近づきながら何やら話しかけてる。
「兄貴……どうして今日ここに来るってことを黙ってたんだよ?」
「……」
「おい、おれの話を聞いてんのかよ兄貴!」
「……」
ど、どうなってんだ? しょーたが呼びかけてもシンイチさんはすまし顔で何も言わない。
この兄弟ってそんなに仲が悪いのか?
「シンイチ! イヤホンのノイキャンがオンになってないか?」
OBの一人が耳の穴を指しながら呼びかけると、シンイチさんはようやくハッとした顔になって両耳からワイヤレスイヤホンを取り外した。
「いや〜、聞いてた曲がちょうどサビだったんでそっち気がいっちゃってた。監督くらいデカい声だと、それでも聞こえるんだけど〜」
「お前なあ、俺をなんだと思ってるんだ?」
「もちろん監督さんですよ〜知ってますって」
シンイチさんと監督の漫才みたいなやりとりに場は爆笑の渦に包まれてオレも笑い転げそうになった。
なんなんだこの人……走攻守三拍子揃った好打者で学業も成績優秀だったって聞いてたから、もっとピシッとした人だと思ってたのに。
実際には間延びした話し方も含めてなんかいろいろとユルユルな人だなあ。
しばらく続いた笑い声がようやく収まった頃に蒼田監督が話を……しかけたところでまたしょーたが大声でシンイチさんに詰め寄っている。
「兄貴! さっきははぐらかされたけどなんで黙ってたのさ! おれとキャッチボールしようって約束すっぽかして帰ったくせに!」
なるほど、たまにしか帰省しないのに約束破られたら腹立つのは無理もない。
でもサプライズのために内緒にしてたってだけだろう……という予想は簡単に裏切られた。
「それがさ〜、駅に向かってたら、そこの池下にバッタリ会ってさ〜。麻雀のメンツ足りないからって付き合わされて、気がついたら徹マンしてたんだけど。そこへ監督から電話があって捕まっちゃったんだよな〜、これが」
「おいおい、確かに誘ったけどさあ。シンイチが勝ち続けて面白くないから帰れっつったのに居座ってたくせに」
「いいじゃないか〜、たまにしか会わないんだし〜」
「……呆れて物が言えないぜ兄貴」
「そんな怒るなよ〜」
「しょーたくん、そういうわけでシンイチは黙ってたンじゃないよ。そうだ、今日はヒット1本打たせてあげるから勘弁してやって」
「いやです、真剣勝負してください!」
「えっと……すまないが話を進めていいか?」
「あ……すみません監督」
蒼田監督のとりなしでやっと話が一段落した。しょーたの気持ちもわかるがグズグズしてるとすぐ夕方になっちまう。
「あー、それじゃ一言。今日の対OB戦、聞いての通り現役で続けている者は少ないがそれでも少し前までは高校球児だったわけで、十分以上の練習相手になるかと思う。というわけで高校チームも気を引き締めて臨んでくれ」
「はいっ!」
「ちなみに大学で現役の人は誰ですか?」
「シンイチは地方だが有力なリーグの1部所属チーム、あと池下のところは……もう1部に上がったんだっけ?」
「まだ2部ですよ〜。今年こそ1部昇格目指してますンで!」
「このピッチャー池下がもう1人だ」
2部とはいえピッチャーも現役なのか。それじゃ簡単には打たせてもらえないだろうな。
でもまあそれでこそ面白くなるってもんだ。
それからオレを含めた多岐川以外のメンバーとも気さくに挨拶してくれたOBたちは更衣室で着替えと準備に入った。
その前に姉ちゃんにやたらと声をかけてたのはちょっと気に入らねえけど……ここはナンパするところじゃねえっての。
なお、試合は6回までの変則イニングで木製バット使用、OB側には監督も入るという条件での開始となる。
そしてこちらの投手だが……3回までは石元さん、そこから2回は大岡、そしてラスト1イニングはオレの予定だ……!
クローザーに抜擢だぜひゃっほう!
と言いたいが単純に信用が高い順に登板だということくらいはわかってるよ。
だからこそビシッと三者凡退で抑えて監督たちの信頼度を上げるチャンスでもあるわけだ。
先攻はOB側。池下さんが肩をつくるのに時間がほしいということでそう決まったのだ。
つまりOB側トップバッターのシンイチさんと、キャッチャーとしてスタメン出場のしょーたとの対決がいきなり実現したのである。




