第30話 結論と指摘
「まずは結論からですが。オージロウくんとしょーたくんには我々の連合チームに是非参加してほしいと思っています」
「アタシも……ウチの方も大歓迎だし期待しているよ!」
多岐川高校の蒼田監督、松花高校の上中野監督からの歓迎の言葉にオレとしょーたと姉ちゃんは顔を見合わせて……。
「うおっしゃああー! やったぜこんちきしょー!」
「しょーた! 遂にお前の目標が叶ったな! オレもメチャ嬉しいぜ〜!」
「オージロウも、田中くんも! よく頑張った! えらいっ!」
「ちょっと3人とも、ここで騒いでは」
「まあいいですよ中原先生。それで、今後のことですが」
「あ、はい。まずはウチが県高野連に再加盟申請ですね。連合チームへの参加も並行で協議という形で」
「そういうことです。具体的には週明けにそちらの教頭先生、校長先生も交えてお話させていただきたいのですが。もちろん松花高校さんもお願いします」
「ウチはアタシからハナシ通しとくよ」
「こちらも話を伝えてからそちらへご連絡します」
「お願いします」
「あの……今日は本当に、ありがとうございました。これでオージロウくんたちが心置きなく野球に打ち込めます」
「いえいえ、こちらこそ良い出会いをさせてもらいました。それでちょっとオージロウくんたちに個別に話があるのですが」
「わかりました。あなたたち、いつまでも騒いでちゃダメですよ!」
「えっ?」
「あっ! す、すみません」
「もう、2人ともコドモなんだから!」
姉ちゃんのヤツ、一番はしゃいでたくせにしれっと注意する側に回りやがって!
それはともかく手続きとかの話は終わったようだ。ああいうのは苦手なんだよな。
そしてふと蒼田監督の顔を見ると真剣な眼差しでこちらを見てる。
オレとしょーたは姿勢を正して話を聞く体勢を取った。
「えーと、まずはオージロウくんからちょっと話をさせてもらうよ。単刀直入に言えば……今のままではピッチャーとしての起用は難しいかな」
監督のド直球な言葉にオレは心をズキューンッ! と撃ち抜かれたような衝撃を感じた。
「そ、そんな! オレ、ピッチャー失格なんですか?」
「いやそうじゃないよ。計測はしてないが球速は恐らく150キロをゆうに超えていた。だがキミも薄々わかってると思うけど……まずコントロールが問題だ」
「は、はあ」
「見た限り、狙ったところに行かずに結果オーライなボールがいくつもあった。それにシュート回転や真っスラみたいな変化……逆にそれを武器にできていればいいんだけど、どう見ても制御できていなかった」
「……」
「それよりもっと問題なのがスタミナ不足。ブルペンだとそれなりに球数投げてるだろうけど、練習でも打者を相手にしたら消耗の度合いが違う。ましてや実戦となれば、現状では1回ももたないと思うよ」
オレは何も言い返せずにうつむくしかなかった。今日のシートバッティングの登板で身にしみたことが全て言い当てられたのだ。
「あ、あの、オレ」
「そのあたりは冬場に鍛えなおしてほしい。それともう一つ……これは要望なのだが、複数ポジションをこなせるようになってほしいんだ」
「ピッチャー以外ってことですか? オレは左利きだからファーストか外野になると思うんですけど」
「いや、こちらの要望は『キャッチャー』だ」
「ん?」
「聞き間違いかな」
あまりに意外な話で、直接言われたオレだけでなく姉ちゃんもしょーたも驚きのリアクションを隠せない。
それでも一呼吸置いたあと、オレはワザと念の為に確認するみたいな口ぶりで聞き返す。
「ええっ! 今日のは人手不足の臨時でしょ?」
「最初に話したけど、この連合チームにはまともなキャッチャーがいなくて。しょーたくんがいるとはいえ、控えキャッチャーも1人はいないとね」
「いやいや、さっきも言いましたけど左利きですよ?」
「練習で見てた限り、キミは意外とキャッチャーの素養もありそうだ。配球も悪くなかったし、何よりあの強肩は魅力的だよ。左利きという点を考慮してもね」
「でもですね、これまでキャッチャー務めてた人がチーム内にいるんでしょ?」
「秋の新チームになってからは、リトルで少しだけ経験があるサードの白城にやらせてたんだけどね。彼は技術的にも性格的にもキャッチャーに全く向いてないんだよ、これが」
技術面はわからんが、寡黙でマイペースっぽい人だもんな……一番声だしてチームを引っ張らなきゃいけないポジションなのに、確かに不向きな性格だ。
「別府にも練習させたんだが、彼は肩がねえ」
まあ別府さんの肩だと走られまくるだろう。
チーム事情はわかったけどキャッチャーはやっぱり大変なポジション。できれば回避したいと最後の抵抗を試みる。
「キャッチャーミット! 左利きのなんてたぶん売ってないし特注しないといけないですよ」
「それなら心配ない。実はウチのOBで一人だけ左利きのキャッチャーがいたんだ。彼に連絡して、もし今でもミットを保管してたら貸してもらえないか交渉するから」
ええ〜! そんな偶然が……悪いほうに都合良すぎる。
そして蒼田監督はトドメに外堀を埋めてきたのだ。
「さっきも言ったが、ピッチャーとしてはなかなか出番がないかもしれない。でもキャッチャーも練習しておけば、キミの打力を生かせるチャンスは格段に増える。それにしょーたくんの負担も減らせるよ?」
なんか上手いこと囁くなあ、この監督。
チラッとしょーたの方を見ると少し硬い表情をしているが……でもオレはやっぱり出番が少しでもほしい。
「わかりました。一応は練習やってみます」
「ありがとう。具体的な練習の仕方は、また後日相談させてもらうよ」
ふう、やっと話が終わった。
ちなみにしょーたへの話の内容だが……正捕手としての起用を考えているが、打力不足、パワー不足が気になるとはっきりした指摘があった。
監督からすると、どうしても兄貴と比べて物足りないんだろうなとは思う。
しょーたは一瞬うつむいて唇を噛んだけど、すぐに監督の顔を見て『わかりました、頑張ります』とだけ答えた。
練習環境とか色々言いたいことはあったんだろうけど、いつもの前向きなしょーたの顔に戻って良かった。
オレもしょーたも受けた指摘を改善して、もっとレベルアップして……2人でレギュラーになって甲子園を目指すんだ。
全ての話が終わって、監督たちから今日はお疲れさんだと片付け作業を免除された。確かに心身ともにクタクタなのでお言葉に甘えさせてもらおう。
そして中原先生のクルマに乗っての帰路、またもや峠のコーナーギリギリを攻める運転に余計に疲れが溜まったのであった。




