第28話 コントロールとスタミナ
「ボール!」
シートバッティングでの初登板、今は連合チームキャプテンの別府さんと対戦中だ。
で、初球を外角低めに投げたんだが完全にハズレたのである。
というのも……滅茶苦茶投げづらい!
顔は元々威圧感があるのに加えて、なんかスキの無い構えというか。どこに投げてもすぐに反応されそうな集中力を感じてしまうのだ。
本当に打ち返す打力があるのか構えが上手いだけなのかはわからんが。
だけどこれで飲み込まれたら別府さんの思う壺だ。
なので次は攻め込む!
「うりゃあ!」
「おっと!」
「ボール! ツーボールナッシング!」
内角低めを果敢に突いていったのだが……こんな時に限って真っスラになって別府さんの足元に食い込んでしまった。
ストレートなのに自分の思うようにいかないというもどかしさ。
「オージロウくん! そんな硬くならないで、遠慮せず先輩に思いきりぶつかってきたまえ!」
おおっ、さすがキャプテン! なんて包容力のある……いやいや、どう考えても厳しい洗礼を浴びせるための誘い文句だ。
優しいだけではキャプテンは務まらない。
というわけでオレが返す言葉は次のとおりだ。
「あざっす別府さん。それじゃあ、遠慮なく行かせてもらうんで!」
「ん! さあ来い!」
別府さんの雰囲気が少し変わった。ただ威圧するだけでなく狙い球を必ず打つという気迫みたいなものを。
その狙いはわからないが、オレの球速でこのコースは簡単にはヒットを打てないはず。
「うりゃあ!」
ズバンッ!
「ストライク!」
気持ちいいくらいに外角高めに決まった。しかもシュート回転せずに。
「ん〜! さっきのは打ってもファウルかな!」
どこまで本心なのか……って疑い出すときりがない。ここはしょーたのサインに従って左腕を振るのみ。
さっきの対角線、内角低めに投げ込む!
「うりゃああ!」
そして真っスラで丁度コースギリギリに!
「ふんっ!」
バチィッ!
うわっ! 完全に狙い打たれて3塁線に!
「ファウル!」
「ん〜、ちょっとタイミングがズレたか」
真っスラ狙いだったってことか?
軌道を読んで当てたように見えた。
この打席は内角が真っスラになってしまうと見抜かれてる感じだ。
狙われてるとわかったから内角は……いや、それを逆手に取る!
「ボール!」
あっさり見逃された〜。
内角ギリギリからの真っスラ変化でボール球振らせようって狙い自体が読まれてたような。
カウント3−2、しょーたは外角低めを要求してるがこれも読まれてるんじゃないか?
だけど決まりさえすれば簡単には打てないコースだし思いきり投げるのみ。
額の汗をぬぐってから投球動作に……あれ、まだ10球目だぞ?
まあいい、とにかく左腕を振り下ろす!
「うりゃああっ!」
「んっ!」
「ボール! フォアボール!」
回りかけたバットが止まって無情にもボール判定。しょーたは一応スイングを確認したが判定は覆らなかった。
それにしてもなんか汗びっしょりで呼吸が少し速くなってるような気がする。
オレってこんなにスタミナ無かったっけ?
しかしそんなことを気にする余裕もなく次の打者を迎える。
さっきのロングティーで強いライナーを連発していた多岐川高校2年でサードの白城さんだ。
左打席に入ったということで右投げ左打ちか。
寡黙だが180センチはある長身でシュッとした出で立ち、整った顔の爽やかイケメン……学校ではモテるんだろうなあ。
「白城くーん! ここらで大きいのを一発期待してるよー!」
多岐川の女子マネ仲尾さんの声援……なんかわかりやすい。
「お、オージロウくんもしっかり投げてー!」
バランスを取るかのように松花の女子マネ泉さんから声援をもらった。
なんだか義理チョコをもらったような気分だがそれでも有り難い。
そういや姉ちゃんは……難しい顔で腕組みしてこっちを見てる。どこのベテランコーチかな?
まあいい、相手バッターに集中しないと。
両足の位置を決めるとこちらに一瞬だけバットを向けてから構えに入る白城さん。
ルーティーンぽいのが終わったところでオレもプレートを踏んで、ノーワインドからスリークォーターで左腕を振り下ろす!
「うりゃああ!」
ズバンッ!
「ボール!」
勢いよく外角低めに決まったと思ったが、まだ真っスラは直っていなかった。
「おい、オージロウ!」
ん? なんかしょーたが怒ってる。
そしてみんなの視線がオレの背後に……振り返ると余裕で2塁ベースに走り込んだ別府さんの姿が。
「し、しまった〜! セットポジション忘れてた!」
みんなから苦笑混じりの声が……蒼田監督も呆れ気味だ。
「まあ、ブランクがあると言ってたし。次はしっかり頼んだぞ!」
うーん、多岐川の選手だったらもっとどやされていただろうな。
次は同じ過ちをしないように、セットポジションで静止して、と。
「うりゃああ!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
今度は左打者の内角でもスライダーとなって結果的にはフロントドアとなった。
それにしても白城さんは少し腰を引いただけでリアクションが薄い。どうも狙いが分かりにくい人だ。
続いて3球目、もう一度外角低めを狙うと何故かスライダーとならずにビシッと決まってワンボールツーストライク。
もうホント、自分でも制御できないな……これは課題として取り組まないと。
それはともかく追い込んだから次でキメに行く。
内角高めで三振狙いか、しょーたもここは強気だな。
オレは威力のあるボールを投げることだけ考えて思いきり左腕を振り下ろす!
「うりゃああっ!!」
ノビのあるストレート……だが真ん中高めに!
スパーンッ!
上手く上からかぶせるようにしてラケットの面で捉えるかのようにミートされた!
打球は3塁手の横を抜けてレフト線からファウルゾーンへ転がっていく。
「フェア!」
上中野監督からの無情な宣告……あれは2塁打確定の打球だ。
「うーん。これは1点入ったねー。オージロウくん、お疲れさま!」
蒼田監督からの交代指示。
オレはたった14球しか投げていないのに肩で息をしながらマウンドを降りた。
コントロールもスタミナも全然足りない……嫌でも痛感させられた登板だった。




