第25話 シートバッティングで対決
バシィーンッ!
またもやサク越えだ!
20回トスしてもらってその内の6本、オレが打った打球はフェンスを越えていった。
リトルリーグ以来の強い手応えと何ともいえない快感というか、また打ちたくなるような中毒性というか。
練習とはいえ、ホームランはやっぱりプレイヤーも観客も強烈に惹きつけられるものがある。
それにしても3年のブランクがあってこれだけ打てるとは思ってもいなかった。
2ヶ月とはいえ、しょーたと一緒に姉ちゃんが作った練習メニューを頑張ってやってきた成果だろう。
野球部に誘ってくれたしょーたには感謝しかない。
「思ったよりやるじゃねーか、オージロウくんよぉ〜! ま、俺にはまだまだ及ばねえけどなあ〜!」
「ブランクがあると言ってたがこんなに早く順応してしまうとは……先が楽しみなバッターだ」
阿戸さんと別府さんからお褒めの言葉をもらった。なんだかんだいって先輩に認められるってのは嬉しいもんだ。
さあ、気分がいいところで引き上げようかな。
「オージロウくん! 球拾いの方も頼んだよ〜!」
上中野監督から呼びかけられてハッとした……うっかり忘れるところだった。
すぐにグローブをはめて外野へ駆けていき、球拾いとして出ずっぱりの姉ちゃんと交代する。
「ナ〜イスバッティング!」
姉ちゃんはそう言いながらすれ違いざまにオレの頭を軽く撫でていった。
小学生じゃねーんだぞまったく……まあいいけど。
◇
ふう。ようやく全員がロングティーを終えて休憩タイムだ。
いつ来るか分からない打球を待ち続けるってのは、きつい練習やってるよりもある意味疲れた。
でも次はいよいよシートバッティング……最後のお楽しみだ。
野手が守備位置について投手が投げるボールを打ち返す……実戦形式でやるこの練習はしょーたと2人だけの我らが野球部では絶対にできない。
だからこれが本当に楽しみで仕方がなかった。
そんな浮かれてるオレにしょーたが話しかけてきた。
「オージロウ。お前があんなに飛ばす打者だったなんてな〜。おれはキャッチャーとして対戦するのが怖いよ」
「ふふふ。悪いけど打たせてもらうぜ〜!?」
「そう簡単に打たせるかっての。というか石元さんのボールはお前でも簡単には打てねーよ」
しょーたは午前中にブルペンで石元さんのボールを受けていたからその実力はよく分かっている。
だけどやるからにはオレも狙っていかないとな。
ところでオレは何処を守れば……外野ならできなくはないと思うけど、リトルリーグ時代はピッチャー以外ほとんどやったことないのだ。
ベンチでしょーたとそれを話してると、それを察したかのように蒼田監督が覗き込んできて指示を出した。
「オージロウくん! キミはとりあえず指示があるまで守備につかなくていいから。それとトップバッターいくかい?」
「えっ!? いいんですか?」
「みんなキミの打席を早く見たがってるよ」
「……わかりました!」
「じゃあ10分後によろしく」
そこまで期待されたら、それに応えないとな。派手にホームランをかっ飛ばしてやる。
ロングティーでの感触を忘れないようにとイメージしながら10分間を過ごし、いよいよ低反発バットを手にとって打席へと向かう。
みんなもぞろぞろと出てきて守備位置に付き始める。
しょーたはキャッチャー、別府さんはセカンド、大岡がショート。
阿戸さんはセンターか。意外だが俊足で守備範囲も広いらしい。
サードが白城さん……寡黙で強打ということ以外は謎の人だ。
そしてピッチャーはもちろんエース石元さんだ。あのキレのいいストレートを打ってみたい。
「お願いします!」
「こちらこそ」
左打席に入って挨拶すると丁寧に返してくれた石元さん。さあ開始だ……と構えかけたところで思わぬ横入りが。
「石元さん。コイツの相手は俺がやりますよ」
大岡がマウンドにツカツカと歩み寄りながら自分が投げると言い始めたのだ。
どういうつもりだ……オレなんぞエースが出るまでもないとでも言いたいのかコノヤロー。
そして大岡は蒼田監督にも許可を求める。
「監督〜! 俺、コイツと勝負したいんで。いいですよね?」
「……まあいいだろう。それじゃ石元はレフトに回って」
苦笑しながらも大岡の要望を受け入れた蒼田監督。このチームだとこういうのはよくあることなんだろう。
「それじゃあ大岡くん、オージロウくん! 打席は連続で3回、全てランナー無しの設定で行くから。存分に勝負したまえ!」
「……あざっす、監督」
「了解です」
「すみません、ちょっとタイムです」
しょーたがマウンドへ駆け寄っていく。持ち球の確認ってところだな。
大岡はアンダースローで特にスライダーの軌道が独特だからしょーたは結構大変だと思う。
まあ実戦みたいに振り逃げとかやるわけじゃないから大丈夫だろうけど。
さて、しょーたが戻ってきたところで改めて再開!
「なあしょーた。初球はどこに何を投げてくるんだよ?」
「さすがにそれは言えねーだろ」
うーむ、逆ささやき戦術失敗。しょーたは普段は適当なところもあるがやる時は締める男なのだ。
さて真面目な話、何がくる?
大岡の性格的に自慢のスライダーで来そうな気がする。それに的を絞るか。
考えているうちに大岡はセットから投球を始めた。
「っらあ!」
アンダースローからの低いリリースポイントで初球!
「ストライク!」
審判役の上中野監督の声が響き渡る。
地を這うようなストレートが外角低めに決まったのだ。
大岡の生意気そうな見た目と違う慎重な入り方にちょっと驚いた。
アイツ、ホントのマジ勝負でもする気かよ?
まあいい、それでもオレの狙いは変わらない。
2球目は……外角に少し緩いボールだが外れそう。
と思わせてのバックドアでこれまた外角低めにストライク。
キレもコントロールもいいカーブでこれも簡単には打てないな。
でもこの配球だと、もう何でキメてくるかはあからさまだ。
オレは内角高めにあのボールが来るのを待つ。
大岡はセットで少し長めに静止したあと、スッと身を屈めてややインステップに踏み込み腕を振り上げる。
「っっらあ!」
力の入った雄叫びと共に地面ギリギリのポイントから放った3球目は、浮き上がってくるボール!
そしてフリスビーのように浮き上がりながらこっちに曲がってくるスライダーだ。
「うりゃああっ!」
待ってたボール、捉えた!
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
あれ? 捉えたと思ったのに。
ボールはオレが思ったよりも更に浮き上がりつつ食い込んできていたのだ。
必死で食らいついてキャッチしたしょーたの姿がそれを物語っている。
手前に見えた段階ではストライクゾーンだったのに……むしろ左打席の方が見極めにくいんじゃないかこれ?
「……まずは一つ。でも、まだまだだぜ……!」
大岡のヤツ、不敵な笑みで挑発しやがって。
だけど次こそは必ずスタンドに放り込んでやる。




