第22話 閑話・昼休憩
「オージロウー! こっちこっち!」
姉ちゃんの呼び声が3塁側ベンチの方から聞こえる。
みんなそこに集まって各々昼メシを食べ始めているようだ……それはともかく!
「うぇーい! オージロウ君見てる〜? 今、キミのお姉ちゃんの隣に俺が座って一緒にメシ食ってっから! ゴメンな〜!」
阿戸の奴、何を馴れ馴れしくしてやがんだ!
そこはオレの場所だぞコノヤロー!
思わず怒りMAXになりかけたが……よく見ると、姉ちゃんと阿戸さんの間には空気の壁でも有るかのようにスキ間が空いている。
どうやらあのハッタリが効いているようだ、ざまあ見さらせ。
「姉ちゃん、オレの弁当は?」
「その前にちゃんと手を洗ってきなさい!」
別に素手で食べるわけじゃないからいいじゃん、と思いつつも洗面所で石鹸つけて洗い、ついでにうがいもしてから戻ると……。
「ねーねー、ひーちゃん! お弁当のおかず取り替えっこしようよ!」
「雛子さん! おれの華麗なワンバウンド処理、どーでした?」
「雛子ちゃんを見てるとアタシの若い頃みたいだ。どうだい、ウチに転校してソフトボール部に入らないか?」
「こんな素晴らしいお姉さんがいるなんてオージロウ君は幸せ者だね〜!」
姉ちゃんの前後左右は、右隣の阿戸さんだけでなく完全に埋まっていた。
左隣に多岐川高校2年の女子マネ仲尾さん、背後にはしょーたと中原先生、前は上中野監督に蒼田監督。
その周りにも選手たちが集まっていて……なんかもう、両監督すら差し置いて完全にこの場の中心として仕切ってやがる。
オレはとんでもないコミュ力モンスターを姉に持ってしまったのかもしれない……。
というわけで、姉ちゃんから弁当を受け取ったオレはベンチの端っこでひっそりと食べることにした。
ん? 端っこには既に先客が1人……確か多岐川の2年生で、誰だっけ?
まあいいか、向こうも黙々と食ってるから邪魔しないようにしよう。
「オージロウくん。隣、座ってもいい?」
誰だいきなり……って、松花高校1年で女子マネの泉さん!
女子から話しかけられるなんて嬉しい……いやいや、どうしてオレの方に?
と変に警戒しつつも、断る理由がないので了承することにした。
「別にいいけど」
「ありがとう。ところでオージロウくんのボール、本当に凄かった! 速すぎて捕れないって何度思ったか」
「そうかなぁ? その割には泉さんは余裕で捕ってたように見えたけど」
「そんなことない! わたし、顔にあまり感情が出ない方で、よくそんなふうに言われるんだけど。必死でミットを動かして食らいついてたんだから!」
「あ、ありがとう。自信になるよ」
なんかえらく褒めてくれるんだけど、素直に受け取っていいのかな? それともオレが捻くれてるだけか。
オレがそんなことを考えていると知ってかどうか、泉さんはやたらと積極的に話しかけてくる。
「オージロウくんたちはこのまま連合チームに入ってくれるんだよね?」
「オレは入りたいけど、そもそも蒼田監督と上中野監督がどう思ってるか」
「たぶんだけど入ってほしいって思ってるよ。もちろんわたしも」
「えっ? それって」
「……わたし、もうソフトボールで選手を続けられなくなったけど。監督に野球部を手伝ってほしいって言われて、やってみたら楽しくて。だから今のこのメンバーで甲子園に行けたらって強く思ってる。もちろんオージロウくんも一緒に」
なんだ、やっぱりそういうことか。要するに戦力として必要ってことだな。
まあ女子と野球の話題で楽しくお喋りできるだけでオレは幸せだよ。
だがそんな楽しい時間も終わりが告げられる。
「おーい優子ちゃ〜ん! ちょっとこっちに来てくれるかしら〜?」
姉ちゃんの声だ……オレのささやかな幸せを邪魔しやがって。
泉さんはオレの顔を見てるけど、別に気を使う必要はないのに。
「オレは大丈夫だから行っていいよ」
「……うん。それじゃあ、またあとで」
泉さんは姉ちゃんの方へと歩いていった。
なんだかやるせない気分のオレは弁当をかきこみ、休息を取るために目を閉じる。
午後からはいよいよバッティング練習だ。
普段は思うようにできない分、ここで思いきりバットを振って打撃でもアピールしてやる。




