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部員2名から目指す甲子園〜人数足りないなら連合チームを組めばいいじゃない〜  作者: ウエス 端
連合チーム参加編

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第21話 意地を通す

「キャッチャーって……オレ、やったこともないんですけど?」


 突然の話に、オレはさすがに戸惑いというか拒否反応を隠せない。


 しかし松花まつはな高校の上中野かみなかの監督はちょっとした用事を頼むかのようにその話を続ける。


「いやさ、泉にあまり返球させ続けるわけにもいかないから。本格的にやれって言うわけじゃなくて」


「……だけどオレ左利きですよ?」


「うん、だから今回はファーストミットでやってもらって構わない。捕れそうにないボールは無理しなくていいし、そもそもスピードも球威もそんなに無いピッチャーだから安心していいよ」


「お待たせ……。監督〜、俺が居ない間にボロクソ言われてた気がするんだけど?」


 横から会話に入ってきたのは、松花高校1年生の大岡だ。


 髪型はショートウルフっていうやつかな?


 チャラそうなのは同じだけど、喋り方は生意気な感じっていえばいいのだろうか。ちょいヤンキー系の阿戸さんとは違うタイプだ。


 確かポジションはショートって言ってたけど……ピッチャーも兼務してるってことか。


「ボロクソじゃないよ、事実を言っただけさね」


「俺はキレで勝負するタイプなんで」


「そうだね、キレとコントロールはなかなかのもんだ。それをオージロウ君に見せてやりなよ」


「……いいぜ」


 上中野監督は、こういうタイプの人を乗せるのがなんか上手いなあ。素直じゃなさそうな大岡だがスッとマウンドへ向かっていく。


 オレは借りたファーストミットを右手にはめてボックスに座る。


 ホントに全く分からないから、ピッチャーが投げたボールをとにかく捕る、それしかない。


 大岡はプレートの右端を踏むと、背中を屈めるようにしてセットポジションで構える。


 練習でいきなりってことは普段からランナー関係なくセットで投げるタイプなんだろうか。


 そして左足をややインステップで踏み出すと、上半身を沈めて……アンダースローか!


 右手が地面スレスレになるくらいから振り抜いて投げてきたボールは浮き上がってくる!


「うわあっ!」


 オレは浮き上がってくるボールにミットを合わせられず、盛大にパスボールしてしまった。


 急いで追いかけてボールを左手に持つと、そこから大岡に返球して駆け足でボックスに戻る。


「わりい! 捕り損ねた!」


「……まだそんなに力入れて投げてねーんだけど。あれが捕れないようじゃ、まだまだだな!」


「まあまあ、オージロウ君はキャッチャー初体験なんだから大目に見てやんなよ?」


 くそっ、大岡のやつ。どっかで聞いたような上から目線のセリフで偉そうに。


 監督の慰めがかえって惨めだ。次こそは絶対に捕ってやる。


 しかし……。


「あっ! やっちまった!」


「やれやれ、今日は練習になんねーな」


「オージロウ君。無理言って悪かったね、もうやめとくかい?」


 あれから30球程投げてもらって、結局まともに捕れたのは2、3割くらい。


 監督もああ言ってるし、そもそも本職じゃないんだから……いや、だけど!


「あの、もう少しだけお願いします!」


「わかった。それじゃあと5球全部捕れたら続けよう。ダメなら今日はアタシが捕るよ。こう見えて現役の時はキャッチャーやってたんだ」


 やっぱりこの監督、自身もソフトボール選手だったんだな。


 だけどそんなこと言われちゃ益々譲れねぇ。意地でも全部捕ってやる。


「さあ来やがれ!」


「じゃあ、ちょっと本気出してくぜー?」


 ビシッと音が出そうなくらいキレのいい腕の振りから浮き上がってくるボールが……。


 ここまでやって、少しだけわかったことがある。今までは腕を前に伸ばして手先だけ動かしてキャッチしようとしていた。


 それじゃノビてくるボールについていけない。


 だから、ノビてくるのを見計らって遅れないように気をつけつつ、ギリギリまで見極めてミットと身体を動かす!


 バシィッ!!


「よっしゃ!! 捕ったぞー!!」


「うん、今のは良かった。でもまだ4球残ってるよ!」


 おっと、まだ浮かれてられない。


 返球するか……でもいちいち立って座るの面倒だなあ。しょーたも、他のキャッチャーもよく何度もやってられるな。


 そうだ、プロのキャッチャーみたいに膝立ちで返せばいいよな。ナイスアイディア!


「うりゃ!」


 おっ、なんかイメージだけでやったら思ったより強く鋭く返せた。我ながらなかなかの強肩だぜ。


 それから2球、浮き上がってくるボールをなんとか捕ったのだが。


 4球目は、地を這うような低めのボールが!


 ひええ〜、高低差で揺さぶられる!


 しかし反射的にミットがボールを捕りにいって、パーン! と小気味よい音とともにボールを収めることができた。


 よし、あと1球!


「……オージロウ。次はホントに本気でいくから。ちゃんと捕れよ?」


 大岡が真剣な眼差しに……そして右腕から繰り出されたのは、右打者の外角高めへのボール。


 それはもう見切ったぜ、うりゃっ!


 ミットでボールを迎えにいって、バシッと捕球……する寸前に、まるでフリスビーのような軌道で浮き上がりながら外へ変化していく。


 もしかしてスライダー?


 こなくそ! 逃がすか!


 今度こそバシッと捕った……と思ったがポロッと落としてしまった。


「クソッ! もう少しだったのに!」


 落ち込むオレを横目で見ながら監督は大岡に尋ねる。


「今のはどーだい?」


「……ギリ、合格ってトコじゃないすか」


「ホントに? よっしゃーっ!!」


 嬉しいぜ、まだ続けられる!


 あれ、オレ何で喜んでるんだ? 本職はピッチャーだってのに。


 意地を通せたからかな。まあいっか、細かいことは。


 それにしても結局オレがキャッチャーをやった意味って……そうか、立場を入れ替えた視点を体験するってやつか!


 つまりオレ……ピッチャーとしてかなり期待されてるってことだよなあ!


 嬉しさのあまり調子に乗ったオレは大岡の投げ込みを最後まで捕球した。まあ、あの独特な軌道の決め球スライダーは何度かポロッとしちゃったけど。


 あれは左打者でも初見で簡単には打てないと思う。人数は少ないが面白いチームだぜ。


 そして丁度昼休みの時間を迎えて、オレは弁当を用意してくれた姉ちゃんの元に駆けつけたのであった。

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