第186話 お前が決めろ
「ここはどうする? どうしたい?」
オレのツーランで再逆転した直後の9回表。
多岐川は7番からという下位打線で、勝利は目前かと思われたのだが。
8番の鬼石くんが諦めずにオレのストレートをバットに当て、その打球がサードへの絶妙なボテボテ具合のゴロとなってファーストへの送球が間に合わず。
続く9番が、これも執念でオレのストレートに吹き飛ばされずに送りバントを成功させた。
つまり二死二塁という場面で1番バッターの蒼田カケルに回ってしまい、そこでウチのベンチから大岡が伝令としてやってきたのが、今の状況である。
で、大岡からの問いかけは……意味はわかってるが、あえてトボけて聞き返すことにした。
「伝令なのになんでこっちに聞いてくんだよ?」
マウンドに集まったみんなは、わかりきってるくせに……と言いたげな表情をしているけど構うもんか。
そして聞き返された大岡は、はあっとため息をついたあと面倒くさそうに言い返してきた。
「オージロウ、お前がそこまでバカとは思わなかったぜ……じゃあ1回だけ説明してやる。蒼田カケルを歩かせるか勝負するか。どっちか選べ」
「……オレにだけ聞いて決めるのか?」
「古池監督はハナからそういうつもりで俺を送り込んだ……俺もそれで構わない」
「……しょーたは? お前こそキャプテンだろうが?」
「おれはキャプテンだからって優先して決めるつもりはない。ただ、個人的には歩かせたほうがいいと思う。勝崎さんはキャッチャーとしてどうなのさ?」
「俺は……2番の別府くんと勝負するのは必ずしも安全じゃないと思う。さっきセーフティバント決められてるし、そのあとの白城くんも含めて旧連合チームでオージロウのことを知り尽くしている相手だし」
「つまり、かえってピンチが広がるかもってことですね。ひょ〜ろくくんと原塚さんは?」
「ぼくは……とにかくオージロウさんが決めた通りでいいです。オージロウさんにはそれを決めるだけのチームへの貢献があると思うです」
「自分もだ。オージロウの活躍がなければこの試合は大敗していたかも……そもそもここまで勝ち上がれなかっただろう」
「ということだオージロウ。結局お前が決めるしかない……まあおれは意見を言ったから参考にはしてくれよな」
しょーたから突き放されるようなことを言われて、オレは正直いって怖くなってきた……自分で決めるってことに。
せっかくここまで、もう少しで甲子園に行けるってところまで来てるのに。
失敗したら連合チームのみんなの頑張りを無駄にしてしまう。
でもベンチもマウンドに集まったみんなも、オレが決めろと言う。
いや、普通なら大事な試合ほどオレだけの意見をここまで通してくれない。だけどここまで言ってくれているのだ。
もう腹を決めよう。オレは自分の意見を述べることにした。
「オレは蒼田カケルと勝負したい。一つはヤツと決着をつけたい……対戦して完全に勝ちたいっていうオレのわがままだ」
ここでいったん話を切ったが、みんなは何も言い返してこないので再開する。
「あとは、多岐川は2回オレを敬遠する機会があったのにオレとの勝負を選んだ。ならばこっちも勝負する。まあ、これも結局はチームのためというよりオレの意地だな」
あえてあけすけにその理由を話した。恐らく反発されるだろう。それはそれでみんなで決め直したらいい。
しかし意外な結果となった。
「わかった! まあオージロウならそう言うと思ってたから。今さらおれは驚かない」
「キャッチャーとしては気持ちは複雑だけど……それなら全力で打ち取るリードをするだけさ」
「ぼくはオージロウさんらしくていいと思うです〜!」
「自分も納得した」
「じゃあ勝負ってことで監督に伝えるから。その代わり絶対に抑えろよな」
「ああ、伝達よろしくな大岡」
「キミたち! もう時間だよ!」
「あ、はい。丁度ベンチへ引き上げるところだったんで」
球審から促されて野手のみんなもマウンドから戻っていった。
あとはオレがキメるだけだ。そう考えながらマウンドを足でならしていると、右打席から蒼田カケルの声が聞こえてきた。
「てっきり歩かされると思ってたから、意外だけど嬉しいよ〜。だってさ〜、せっかくオージロウさんのストレートをスタンドに叩き込める感触を掴めてきたところだから!」
おーおー、1年坊主が生意気を言いなさってくれやがって。
ここはもう、三振を奪ってやるしかないよねえ。




