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部員2名から目指す甲子園〜人数足りないなら連合チームを組めばいいじゃない〜  作者: ウエス 端
夏の地方予選・準決勝

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185/186

第185話 絶対的な決め球

 ふぃ〜。ホント暑いなあ。


 8回裏の攻撃、多岐川ベンチはマウンドに伝令を送ったのでこちらも水分補給。


 さて、多岐川は……石元さんはオレとの勝負をするのだろうか。


 1点差で8回裏……オレを敬遠してあとの打者を全て仕留めれば、もうオレと対戦することはない。


 まあ、勝負を避けるのが普通だよね、この場面。


 6回裏は3点差があって、しかもピッチャーが負けず嫌いの1年生、本所ほんじょだったから……でも石元さんは3年生だし、まずはチームのことを考える人だ。


 だけど悲観することはない。みんなここまで頑張ってきたんだ……オレが打たなくてもなんとかしてくれるはず。


 それでダメならチームとしての総合力で及ばなかったというだけの話。


 そんな達観した考えが頭をよぎった頃に伝令が引き上げていく。


 一応は打席に向かうが、オレは1塁に歩くつもりでいた。


「バッター、さっさと打席に入りなさい!」


「えっ!? ほ、本当ですか?」


「何を言ってるのかねキミは。とにかく早く!」


 信じられないが球審に促されて慌てて左打席に入って構える。


「オージロウくん! もちろん俺は打たれない自信があるから勝負する。だから全力で来ないと後悔するよ!」


 珍しく石元さんが闘志全開で挑発してきた。


 それだけオレとの対戦に全力を尽くすってことなんだろう。


 オレは黙ってグッとグリップを握る。


 で、石元さんの配球予想だが……オレを仕留めるのはやはりシュート方向へ落ちるフォークボールで間違いない。


 バッター手前で鋭く曲がって落ちていく……ベースの角をかすめながら左打者から逃げるこの絶対的な決め球は、リーチが長くないオレにとっては打ちにくいボールだ。


 左ピッチャーのスライダーと似たような軌道だが……鋭く落ちていく分、左に流し打ちしにくいんだよな。


 対策としては打席内でできるだけ前に足を置いて、逃げていくボールの軌道にバットが届くようにすることくらいか。


 でも球速が速い石元さんにこのやり方が通じるかどうか。


 まあ初球を見てから具体的な狙い球とコースを決めよう。


 石元さんがセットポジションから始動して。


 振り下ろした右腕から放たれたボールは、やや外よりだが甘いストレート……いや違う。


 いきなりの鋭い変化がベースの角をかすめて逃げていく!


 ズバンッ!


 球審の判定はどっちだ……それによって今日のこのフォークのストライクゾーンが決まる……!


「……ストライク!」


「うおおおおー!! いける! これなら打ち取れる!」

「ここでオージロウを仕留めればウチの勝ちだーーっ!!」


 コールの瞬間、多岐川のスタンドからまさにごう音のような大歓声が発生して、耳が痛く感じるほどだ。


 うーん。手が出なかったな……次はどう揺さぶってくる?


 石元さん2球目……なんかさっきと同じコースだと!?


 ズバンッ!!


「ストライク! カウント0−2!」


 今度はさっきよりも、まさに耳をつんざくような大歓声が。まだ終わってねーってのに。


 まさかの連続フォークボール……自信があるのはわかるけど。


 というか本所だって最後の三段ドロップの前にいろいろと揺さぶってきたのに、あの石元さんが。


 このまま3球目も続けて勝負してくるのか……そして放たれたボールは。


 やっぱりさっきとほぼ同じ、少し外寄りか。


 そして手前で……おっと!


 バコーン!


「ファウル!」


 なんとか反射的に当てて逃げたけど……ストレートだった!


 そういうことか。最初の2球で完全にフォークボールの軌道をオレの頭に焼き付けておくのが狙いとは……。


 3球目以降はスローカーブ以外のどれを投げてもフォークボールと惑わせてまともに打たせない。


 なんならフォークですら、迷って振り遅れかねない。


 これまでよりもギリギリ、キワのキワまで見極めるしかない。


 そして最終的にはアレで仕留めに来るはず……上手くいくかわからんが、あの打ち方でそれを。


 だからそれまでは悟られないように振らねば。


 4球目は……さっきよりもやや内側寄りか?


 つまり!


 ガコォーッ!!


「ファウル!」


 ふう。身体全体の回転でなぎ払うようにスライダーを打ち返した。


 少なくとも3球目よりは力強く打ち返せた……これでスライダーを封じられたらいいのだが。


 石元さんは額の汗をぬぐってからセットポジションにつく。


 5球目は……内角だと?


 ボールになるスライダー、と思わせての!


 バシィーッ!!


 ストレートを思いきり引っ張った打球はライトポール際へとライナーでかっ飛んでいく。これは!


「ファウル!」


 期待は一瞬……結局どんどん右へ切れていった。


 さて、執拗に内角を攻めてきたってことは、いよいよかな。


 自信はあるだろうけど、少しでも踏み込ませないようにという田村の念の入ったリードには感服する。


 だけどオレにだって……!


 今度は帽子を取って額の汗を完全にふき取った石元さんは、静かにセットポジションにつく。


 本所がマウンド上でも終始やかましかったので、対比で余計に静寂を感じる。


 それが勝負の時が来たことを否が応でも感じさせて……オレは右手にグッと力を入れる。


 そして投じられた6球目は!


 初球2球目よりやや外寄り……ここから外へ曲がったらボールになるか?


 いや微妙だ……球審がどう判断してもおかしくない。


 オレはある程度落下地点を予測しつつ、手前で曲がり落ちた瞬間に。


 右腕を伸ばしながらヘッドの遠心力をこれでもかと効かせる!


「うりゃあああっ!!!」


 バッシィーーーン!!!


 外に逃げながら鋭く落ちるフォークを、落ち切る手前で……伸ばした右腕一本で振り回したバットの芯で捉えた打球は。


 高い放物線を描いてセンターからややレフト側へと切れながらバックスクリーンへと飛んで行って……。


 やがて打球がスライスしながらフェンスの向こうへ消えると、塁審がグルグル腕を回すのが見えた。


「ぎゃ、逆転ツーランだぁーーーっ!!」

「土壇場で、またデカいのでひっくり返しやがった!」

「……エース石元が、あのフォークが、まさか」


 スタンドの大歓声も最高潮ってところかな。そしてホームランを打った快感が徐々に身体の奥から湧いてくる。


「バッター! いつまでもそうしてないで回ってきなさい!」


 おっと、オレは打球の行方に見とれてまだ打席に立っていた。確信歩きどころじゃねえや。


 それから石元さんの方をあまり見ないようにしながら淡々とベースを一周して。


 しょーたに迎えられて逆転のホームを踏んだのであった。

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