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部員2名から目指す甲子園〜人数足りないなら連合チームを組めばいいじゃない〜  作者: ウエス 端
夏の地方予選・準決勝

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第184話 裏をかく

「オージロウくん! よく1失点で凌いだ!」


 8回表の多岐川の攻撃は本所ほんじょの執念のような犠牲フライによって1点を勝ち越されてしまった。


 まあ、後続は抑えたけど……試合終盤にリードを許したのは正直キツい。


 それでも笑顔で出迎えてくれた古池監督と部長役の上中野監督、副部長役の惣司監督たちのおかげで少しは気が楽になった。


 さて、とにかく反撃に移らねばならない。


 この回の先頭は9番のひょ〜ろくくん。


 三者凡退だとオレには回らない……まあ、9回裏は先頭で回ってくるけど当然だがランナーがいない。


 できればこの回、ランナーがいる状況で打席に立ちたいのだが……。


「ストライク、バッターアウト!」


 アンダーシャツを着替えている間にひょ〜ろくくんが三振に倒れた。


 それにしてもこう、何枚もシャツを替えなきゃならないというのは……あとを考えると憂鬱だ。


 なぜなら濡れて重くなってるのを全部持ち帰って、明日の朝から自分で洗わねばならないから。


 さすがに他校の女子マネである泉さんや鯉沼さんに手伝ってもらうわけにいかないし。夏なのですぐ乾くのだけはマシだけど。


 そんなことを考えながらドリンクで水分補給しているうちに、打席の原塚さんがもう追い込まれている。


 2球ポンポンと内角でストライクを取られて……石元さんはここからどうする?


 原塚さんが内角を打てないのを確実に見抜いているなら3球目も……でもさっき強烈なクリーンヒットを放ったバッター相手にそれはやっぱり怖い。


 基本的に慎重なリードの田村なら、やっぱり外角を1球は投げさせるだろうけど……。


 だけど石元さんはこっちから見てる限りは迷いなく田村のサインに頷いて、投球モーションに入る。


 自然な動きでテイクバックした右腕をしならせて勢いよく振り下ろすと、外角やや高めに糸を引くようなストレートが放たれた。


 それなら狙っていけ原塚さん!


「フンッ!!」


 スカッ! とバットが空を切ると、ボールはシュート方向に鋭く落ちていく。


 そのままパシッと低めに構えた田村のミットに収まって……。


「ストライク! バッターアウト!」


「石元さん! いいトコ決まったんで!」


 田村から返球を受けながら、ちょっとはにかむような笑みをこぼす石元さん。


 あれは……フォークボール!


 この前の練習試合でも見せてもらったけど、あの時よりもシュート方向への変化が強くなってキレも増している。


「オージロウ! あれ、雛子さんが投げたのと完全に同じじゃねーか!?」


 オレの近くで見ていた阿戸さんが叫ぶように同意を求めてきた。


 そうだな。あれはもう旧連合チームの冬期合宿で行った紅白試合で、姉ちゃんが見せたのと同じレベル……!


 ちなみに姉ちゃんは、あれはフォークボールではなくチェンジアップだと今でも言い張っているけど。


 それはともかく、その紅白試合の後に石元さんは姉ちゃんから握り方とか教わったので当然といえばそうなのだが……。


「いや、やっぱり同じじゃないですよ」


 オレは阿戸さんにそう返答した。


 なぜって、ストレートの球速は石元さんが10キロ以上上回っている……フォークもその分速く、実質的には強化版と言っても過言じゃない。


 新変化球のスローカーブで緩急と目先の幻惑を見せて揺さぶり、左打者から外に逃げていくフォークボール……打てるのかちょっと不安になってきた。


「オージロウくん! そろそろ行かないと」


 おっと、オレもネクストバッターズサークルに行かないと。古池監督に促されてベンチを出る。


 そして次のバッターはしょーた。


 なんとしても出塁してほしい……だけど紅白試合で姉ちゃんと対戦したしょーたは、フォークとスライダーのコンビネーションにキリキリ舞いにさせられたのだ。


 あの時の二の舞になるか、それとも。


「ストライク!」


 初球からスローカーブか。しょーたは反応せずに見送った。


 石元さんも旧連合チームでバッテリーを組んだしょーたのことはそれなりに警戒してるはず。


 そして2球目……緩急を生かすなら速いボールだと思うが。


 またもやスローカーブ……しょーたの身体に向かっていくようなフロントドアで投げてきたけど。


「ボール!」


 しょーたは姿勢を背中側に傾けるも足は動かさずに見送った。


 誘いに乗る様子がないしょーたには、さすがに次は違うボールを投げるはず。それがどれなのか。


 3球目は外角ストレート……いやスライダー!


 スカッ!


「ストライク! カウント1−2!」


 あー、だめだこりゃ。完全に腰が引けて、身体を開きながら外へ逃げるボールを追いかけてる。


 外角スライダーを空振りする手本みたいな打ち方じゃないか……。


 そして4球目……さっきと同じのが来るかな?


「……ボール!」


 内角の胸元にストレートとは……少し踏み込みかけたしょーたはやや身体をのけぞるようにして避けたが、際どいコースでどっちに判定されてもおかしくなかった。


 もう一度外角スライダーの前フリだろうか。


 なんとも言えないけどオレなら……。


 遂に5球目。石元さんは表情を変えず、しかし気迫のある投球フォームで投げ込むと。


 真ん中のストレート……そこから踏み込むしょーたに向かってシュートしながら落ちていく!


 だめだ、裏をかかれてまたもやキリキリ舞いに……と思ったオレはしょーたを舐めていた。


「向かってくるなら、こうだ!」


 しょーたはボールが足元に向かってくるのに踏み込みをやめず、角度を会わせて右におっつける。


 バシィーン!


「ん! 予測と違う打球だ!」


 低めをバットの遠心力で強く弾き返したゴロは、別府さんの横をあっという間に抜いていく打球となってライトの蒼田カケルの前に転がっていく。


「まだまだ! ライトゴロいけそう〜!」


 くそっ、打球が速すぎた。あとはヤツの強肩との競争……。


「セーフ!」


「おっしゃー! オージロウの前にランナー出た〜!」

「そんな! スリーアウトだって思ったのに!」


 スタンドからの歓声の中、しょーたは息を切らせながらオレの方に視線を向けてきた。


 しょーたはちゃんと、あの時みたいなキリキリ舞いを繰り返さないように考えていたんだ。


 自分が踏み込むのを相手が予測してフォークを投げてくるのを、裏をかいて……!


 それじゃ次はオレが頑張る番だな。

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