第182話 大胆なリード
「さっきのはどっちが捕球するか、キャッチャーの俺が指示出すべきだった。ゴメンなオージロウ!」
勝崎さんが謝っているのは、さっきの白城さんの送りバントを処理する際にオレとファーストの原塚さんが衝突寸前となった件だ。
まあ、こういう連携は連合チームの弱点としてどうしてもつきまとう。
そして問題が発生するたびに都度改善していくしかないのだ。
で、それはともかくとして。
ノーアウトでランナーが二人……2塁に別府さん、1塁に白城さん。
どちらも盗塁を狙うタイプではないので、ここはバッターとの対戦に集中できる。
ただ、右打席に迎えるのは1年生ながら4番を任されている田村……パワーだけでなく右におっつけるバッティングが得意な、打ち取るのが厄介な相手だ。
「……オージロウさんからなんとしてでも勝ち越し点をもぎ取るんで!」
ヤツはバットを構えながらその決意をオレにぶつけてきた。
なんか熱いぜ……そして暑い。3回からこの8回表までロングリリーフ中のオレにとって、既に猛暑と言っていいマウンドで投げるのは消耗が激しい。
だけどこの場面は全て全力投球が必要だ。後先なんて考えていられねえ。
まあ送りバントは無いだろうけど、4番にさせるのであればアウト一つ取らせてもらえるのだからむしろ有り難い。処理を誤らなければいいだけ。
というわけでセットポジション……一応は目でランナーを牽制しつつ、力強く踏み込んで。
左腕を地面スレスレまで振り切る!
「うりゃあああっ!!」
「高い……でも狙うんで!」
バコォッ!!
「ファウル!」
内角を狙ったが、力が入って中に寄ってしまった。
その分おっつけやすくなって一塁線の横をライナーがすっ飛んでいって……でも予定通り。
田村は甘く入ったボール以外は右打ちに徹する、というのがこれでハッキリした。
「またすげえの出たぞ!」
「当てたバッターもとんでもねえ……」
スタンドがざわついている……球速表示だな、と見てみると。
162キロ!
今日最速タイ……確かに当てた田村もすごい。
オレがストレートしか投げないからタイミングを合わせやすいとはいえ……。
もう、この打席はこれ以上遅いボールを投げると打たれてしまいそうだ。
であれば遊びのボールを投げる余裕はない。
2球目をどこに投げてストライクを取るか、それがとても重要だ。勝崎さんはどうする?
……意外だけどそれも有りかな。
今回はサイン交換がスムーズに済む……おかげで1塁ランナーをじっくり見る余裕ができた。
大してリードはしてないけど、けん制を入れとくか……いや、リズムを崩したくはない。
2球目を投げる……!
「うりゃあああっ!!」
「同じコースだと!? ぬあああっ!!」
バコォーン!
さっきよりは確実に捉えた打球音……だけど押し勝って今度も1塁線の横へとファウル。
そして3球目……!
バッコーン!!
「ファウル!」
3回連続で同じコースに田村は戸惑いつつ、その打球は確実にフェアゾーンへと近づいている。
というわけで前フリは終わった。
次が田村への最後の一球……になる予定だが、もちろん何事もフタを開けるまでわからない。
そして田村は……さすがに頭にきたのか無言でグッと睨みつけてきた。
いやいや、今回は全て勝崎さんの指示通り……文句は勝崎さんに言ってくれ。
それにしても、勝崎さんは時々覚悟を決めたかのような大胆なリードをしてくるんだよな。
しょーたも時々冴え渡るが、こうやって違うキャッチャーと組むのも参考になって面白い。
それに、ここまでオレの最速をキチンとキャッチしてくれている。きっと、試合の合間の日も猛練習しているんだろうな。
これで肩が強くて打撃が良ければしょーたが控えなのだが……全て揃うなんてのは難しい。
さて、それじゃあ行きますか。
4球目、オレは力強く踏み込んで体重を乗せて。
全力で腕を振り切る!
「うりゃあああっ!!!」
「……今までより低い、けど打ちごろなんで!」
バシィッ!!
うん、今までよりもベルト付近の引っ張りやすいところに投げた。
だけど威力は今までより強いと思うよ?
そして打球は捕球しやすい速度とバウンドでサードの田白のほぼ正面へ。
ダブルプレー狙いの注文通りってやつだ!
勝崎さんの狙いはまさにコレ……ツーアウトを取ればいろいろと気にせずに5番の本所と全力で対戦できる。
「セカン!」
そして流れるような……いやセカンドベースのカバーが!
「ちょっと遅れたです!」
ひょ〜ろくくんが珍しくポカを……間に合うか?
「アウト!」
よっしゃセカンドはアウト!
ファーストは……。
「セーフ!」
間一髪、田村の足が先にベースを駆け抜けた。
ガッシリした体格とは裏腹に結構速いんだよな。
「ゴメンなさいです……ショートと感覚を勘違いしちゃって」
そうだった、今日はショートとして先発してもらったんだった。
オレとしょーたはドンマイとだけ声をかけて次へと意識を向ける。
まだ田村と遜色ない強打者との対戦が残っているのだから。




