第18話 期待感と不安
「それでは田中君と……山田君だったかな。2人は先に更衣室で練習着に着替えて。それからグラウンドでウチの選手たちと挨拶とお互いに自己紹介ということで」
「「わかりました」」
多岐川高校の蒼田監督からしょーたの兄貴の話をちょっと聞かされたあと、オレたちはロッカールームの空いてるところを好きに使っていいからと練習の準備を促された。
いきなり試されるのか……まあ時間も限られてるのだからむしろ望むところだ。
それはいいのだが。
「あの、監督さん! わたしもジャージに着替えたいんですけど!」
「……そちらのマネージャーさんかな?」
「違います、父兄です」
「……えっ? ふ、父兄?」
「そこの山田オージロウの姉です! 今日は練習の手伝いにやって参りました!」
「あ、そ、そうですか。それなら、ウチのマネージャーに案内させますので。ちょっと待っててください」
「はーい!」
あーもう姉ちゃんの奴、いきなり監督さんを戸惑わせてどーすんだ!
ウチの姉が失礼でスミマセンと心の中で謝りつつ、オレとしょーたはロッカールームへ向かう。
「……なあしょーた。さっきの話だとここに何度も来たことあるのか?」
「何度もってほどじゃないけど。兄貴がおれをチームメイトや監督さんに紹介したりしてたから、それで覚えてるんだと思う」
「そうか。それはともかく……なんかここ、ボロくないか?」
「言っただろ、ここはもう進学に力を入れてるって。野球部もずっと前にスカウトとかセレクションはやめちゃったみたいだし、この球場も手入れされてないんじゃないかな」
「じゃあお前の兄貴って」
「普通に一般組で入学して野球部に入ったよ。それでも兄貴がいたときはまだ単独チームで出られたんだけど」
「時代の流れって残酷だなあ」
「オージロウがそんなこと言っても」
こんな感じで雑談しながら練習ユニフォームに着替えて戻ると中原先生が待っていてくれた。
ほぼ同時に別のルートから女子たちの喧しい……もとい華やかな話し声が聞こえてくる。
「またあとでねー!」
「うん! グラウンドで待ってるよ、ひーちゃん!」
「向こうでもっと沢山喋りたいです!」
姉ちゃんが他の女子2人と、まるで以前から親友であったかのように談笑しながら歩いてきた。
さすがはコミュ力お化け、もうこの環境に馴染んでやがる。
さて、全員揃ったところでグラウンドへと歩いていくと、そこに待ち構えていたのは……!
「ようこそ〜! 我らが連合チームへ!」
「遠いところからご苦労だったな〜!」
「今日は楽しくやろうぜ〜!」
拍手とともに、恐らく全員でのお出迎え。
嬉しいなあ。正直言えば邪険にされないかと不安だったが、それはいっぺんに消し飛んだ。
「それでは改めて私から。多岐川高校監督の蒼田です」
「アタシは松花高校野球部の監督を務める上中野っていいます」
松花高校……連合チームのもう一つの高校だが、驚いたのは監督が女性……アラフィフくらいかな?
「あー、高校野球で女性監督って珍しいから戸惑っちゃうよね〜!」
「い、いえ。そういうわけじゃ」
「いーよ別に。アタシは元々ソフトボール部の監督でね。若い監督とコーチに任せてのんびりしようと思ってたら、ウチのクソガキ共にこっちを頼まれちゃってさ。だからまあ、そういうことでヨロシク」
「監督〜、俺らいつも良い子にしてるってのにヒドくない〜?」
なんと、前はソフトボールの監督だったとは。
連合チームの相手校を下調べした時に、松花高校は公立だけどしばらく前まで女子校だったと資料にあったけど、それと関係あるのかな。
あとクソガキ共とか言ってたけど……さっきなんか言ってたのを含めて選手たちの何人かは確かにチャラい感じだ。
と、なんかこちら側への視線の集中を感じる。
そうだ、オレたちも挨拶しないと……緊張顔の中原先生にさりげなく合図を出す。
「あ、あの。わ、私は大化高校野球部の顧問を、務めています、中原と申します。以後、お見知りおきを」
最後はなんか変な挨拶になっちゃったけど、まあいいか。次はオレがいこう。
「オレは山田オージロウ、1年生です。野球歴はリトルリーグでピッチャーやってました!」
「……中学時代は野球部、それともシニアだったのかい? ポジションは?」
「いえ……帰宅部でした。だから高校で再開するまで3年のブランクがあります」
うーん、上中野監督の質問に答えたあと、あまり良くない感じのざわめきが。監督同士も顔を見合わせてちょっと困ってる感じだ。
だがオレだって約2ヶ月間練習を積んできたんだ。あとでその成果を見せてやる。
そしてしょーたの自己紹介が始まったのだが。
「田中しょーた、同じく1年生です。大化東中野球部ではすべてのポジションをこなしてました!」
しょーたが言い終えると同時に一気に期待感が込められたざわめきが。なんなんだこれは。
「全部って、キャッチャーもできるってこと?」
「はい、もちろん。それに高校ではオージロウ……山田君がピッチャーなのでメインはキャッチャーでやってます」
今度は選手たちからおおーっと大きなどよめきが湧き上がる。その理由はすぐに蒼田監督から説明があった。
「実はこの連合チーム、本職がキャッチャーの選手がいなくてね。君のような選手を待っていたんだ……!」
これはもう、しょーたのレギュラー入りがいきなり確定なんじゃないのか?
でもオレはどうなるんだろう。ちょっと不安の方が大きくなっちゃったな……。




