第177話 ズレを生み出す
「うりゃあああっ!」
「ドりああああっ!」
ズバンッ!!
「ストライク! カウント0−1!」
まずは初球を空振りさせてフッと息を吐く。
6回表の多岐川の先頭バッターは5番の本所だが、このあとは下位打線……もちろん打たれない保証は無いけど上位打線に比べれば集中力を張り詰めなくて済む。
その分この打席に力を注げる余裕がある。というわけで早速159キロが出たストレートは現在絶好調なのだ。
「あ゙〜、くっそ! 球速はどんどん差をつけられるわ、バットにカスリもしねーわで自分に腹立つわ〜あ!」
負けず嫌いの本所がイライラを溜めてきた。
そろそろ『怒りモード』が発動するのでは。
普通なら怒りの感情で冷静さを失ってボールに当てられなくなるけど、ヤツの場合は怒りが増す方が集中力が研ぎ澄まされてボールに食らいついてくるのだ。
案の定、打席で感情を爆発させてから構えたバットには何でも打ち返すような雰囲気が漂う。
「ふーっ。今ならどんな球でもスタンドに放り込める気がするぜ〜!」
なんなんだ、このマンガみてーなヤツは。
こうなると変化球の無いオレとしては……正確にはシュートがあるが、あれを使うとストレートがシュート回転し始めるので終盤のここぞという場面以外では使えないのだ。
かといって下手な小細工は逆効果だ。
つまり……パワーで上回るしかないのさ!
「うりゃあああっ!!」
「内角高め……どあ゙あ゙あ゙あ゙っ!!」
バッコーーンッ!!
この野郎! 振り遅れてつまりながらもライトポールのあたりに!
「ファウル!」
まあそうなるだろうと思ってはいたが、打球速度がとんでもないライナーでヒヤヒヤしたぜ。
身体の筋力をリミッター無しでバットに注ぎ込んでる感じなのか……これで芯に当てたらどんな打球になるってんだ。
ここでホームランなんて許したら、5回表をターニングポイントとして反撃の気運が出てきたウチにとってダメージが大きい。
ちなみにさっきのオレの球速は161キロ。これでも足りないというなら次はいよいよ……!
甲子園の高校最速記録163キロを突破するのみ!
「うりゃあああっ!!!」
「……外角高めかあ゙あ゙あ゙あ゙ーっ!!」
ズバンッ!!!
「……ボール! カウント1−2!」
ちくしょう! 神経研ぎ澄まされてるからボールになる釣り球を見極めて引っかかってくれねーんだよな。
皮肉にも162キロという今日の最速タイ記録出しちゃったし。
これ以上は出せるかどうかわからん。それならば……ここだ!
バコォーーッ!!
「ファウル!」
内角ベルト付近に……ボールになって食い込むストレートでバットの根本の方に当てさせ、ファウルを誘った。
本所は内角の方が得意なコースらしく、逆に少しボール球でも食いついてくる。
そしてここまでとの違いとして、プレートを1塁側に寄せて踏み、クロスするように横に角度をつけた。
その分少しタイミングもズレたと思う……そしてさらなるズレを生み出すためにも。
この角度でこれでもかとバックスピンをかけると……上手く行けば!
「うりゃあああっ!!!」
「また同じかあ゙あ゙あ゙! どあ゙あ゙あ゙ーっ!!」
バコォッ!!
派手な打球音……だが。
それとは裏腹に、振り切ったバットからはサードへのポップフライが高く上がる!
「オーライ〜!」
パシッ! と難なく田白がキャッチして、ようやくアウトだ!
「ぢぐじょう〜! なんでさっきよりつまって打ち上がんだよ〜!?」
またもや悔しさを全開にしながら引き上げていく本所。
今回は、要するにオレがクロスの角度で投げると真っスラ気味になってしまうのを利用しただけだ。
それもバックスピンを強くかけるほど打者の手前でホップしながら微妙に変化するので。
これもあまり多投すると慣れられるし、何よりもコントロールが乱れてくるので普段は投げないようにしてる。
それに球速はそれほど伸びないんだよな。最後は159キロ止まりとなった。
まあ、とにかく難敵を退けたオレは後続打者を連続三振に仕留めて、6回裏の味方の反撃を期待する。
◇
パコッ!
「あまり飛ばなかったです〜!」
6回裏は8番バッターから始まったのだがあっさりアウトで、今は9番のひょ〜ろくくんにベンチのみんなの期待が集まったのだが。
狙い球の指示は出たはずだけど、球威に押されてピッチャーフライに終わった。
まあ、いかに相手の球種やコースを読んだとしても、パワーというかスイングスピードが速くないとね……。
だからひょ〜ろくくんは右方向への打球が多いのだけど。
さて、次は1番に戻って近海か。
と、ここで古池監督がしょーたに何やらゴニョゴニョと。
そしてネクストバッターズサークルに向かうついでとばかりに球審の元へ使いに出されて……。
ここで原塚さんを代打に出すだと!?
ちょっと早くないか……それとも監督に秘策ありということなのか?




