第174話 サインに首を振って勝負する
さて、どうする。
今は5回表の多岐川の攻撃中で、一死三塁のピンチ。
打席には3番の白城さん……内野ゴロも許したくない状況で、正直言ってピンチだ。
1−4と3点差のリードを許したままで、これ以上の失点は避けたい……。
そういえば前進守備とか手は打たないのだろうか。今のところベンチからもしょーたからもそんな指示は出ていない。
つまりベンチもしょーたも1点はやむ無しという方針なわけだ。その方が傷口をむやみに広げなくて済む……現実的な判断だとは思う。
ならばオレの方から内野に……いやいや、そんなことしたらみんなが混乱するだけ。
つまりオレにできることは、なんとしてでも白城さんから三振を奪うこと。
そうと腹をくくったら、まずはしょーたのサインを見てみよう。
……うーん。外角低めか。
イマイチ意図が見えねーな。ただの安全策にしか思えんが。それともファウルを打たせるつもりか?
でも白城さんならボールに逆らわないバッティングかつ強い打球で3塁線を抜いてくるのでは……かといってサード田白の守備位置は普通だし。
どっちにしろオレは首を振ることにした。
それから何度かサイン交換して、ようやく決まったというか折れてもらって。
まあ外角低めの意図が少しだけ見えたが、それにも対応できると思う。
じゃあ行くぜ……初球はここだ!
「うりゃあああっ!!」
「……!」
バントの構え。スクイズか!?
「ボール!」
結局バットを引っ込めて見送った。まあ、真ん中とは言え高くハズレたボール球だからな。
なんにせよ、三塁ランナーはスタートを切っていなかった。セーフティスクイズなのか、それとも揺さぶる目的だったのか。
それからオレは更に2球続けてボールゾーンへと投げ込んだ。
白城さんはどっちもやはりバントの構えを見せて……多岐川としては、揺さぶってカウントを悪くさせるという狙いは成功したってわけだが。
カウント3−0で、次はどう出てくるか。
しょーたはいっそのこと歩かせよう……とサインを出してきたが。オレは明確に拒んで勝負に出る。
オレの狙いはもちろん三振……そこは変わらないのだ。
それじゃあこの打席で最も集中して投げ込む!
セットポジションからいつも通りに力強く右足を踏み出して。
バックスピンを強くかけながら、地面に叩きつけるようなイメージで。
左腕を振り下ろす!
「うりゃあああっ!!」
「内角……低い!」
ズバンッ!!
割とギリギリを突いたが……球審の判定は!?
「……ストライク!」
ふう〜。今日一番緊張した場面だった〜。
低めボールゾーンからノビてホップするストレート……ストライクゾーンに入っているのは確信しているが。
◯ワプロみたいにストライクゾーンを通過してれば必ずストライクを取ってくれればいいのだが、実際の球審は人間……判定に絶対はない。
でもしょーたのフレーミングが良かった。
姿勢を低くして、ストライクゾーンでミットを動かさず、かつ先端をできるだけ上に向けてバシッと捕球してくれた……球審からも見やすくて、その印象は大きい。
そして白城さんは無理せず見送り、多岐川のベンチも動く様子は無さそうだ。
それなら……次はここだ!
オレは相手に打席で考えさせる余裕を与えないように、今日最速のクイックモーションで投げ込む!
「うりゃああっ!!」
「真ん中、低め……!」
ズバンッ!!
「ストライク! カウント2−3!」
さっきと同じくボールゾーンへのストレート……ただしあまりノビずホップしないやつ。
つまりボール球だ。
微妙でも同じようなコースに来たら、ストライクの軌道を予測してつい振ってしまう。しかも3−1で一応はバッティングカウントだから。
多岐川ベンチも今さら白城さんにスクイズのサインは出しにくい。そんなにバントが得意ってわけでもないし。
これでこっちに勢いが出て、白城さんの方が心理的に追い込まれた。
では最後のトドメ……これで仕留める!
「うりゃあああっ!!!」
「……外角、高め……!」
ズバンッ!!!
「ストライク! バッターアウト!」
うっしゃあああっ!!
キレイにノビるストレートで空振り三振に仕留めた!
白城さん、最後は迷いが出ながらのスイングとなって振り遅れた。得意なコースだけになおさら。
さあ、これで内野ゴロでも気にする必要はなくなった。
あとは4番の田村を仕留めれば、この回を無失点で切り抜けられる……!




