第17話 顔合わせ
「……このままでは待ち合わせ時間に遅れそうです。仕方がありません、ギリギリまで攻めます!」
「ちょっ! 中原先生、安全運転で……ぎやあああっ!!」
「スゴーい! ホントにガードレールギリギリでコーナー抜けてってる! もっと行けー! ひゃっほー!!」
文化祭と中間テストが終わって慌ただしかった日々が一段落してすぐの土曜日のことだ。
オレは朝から中原先生のクルマに乗せてもらって、今は峠を下っている。
行き先は多岐川高校のグラウンド。
春夏1度ずつ甲子園出場の実績を誇る、この県内では強豪私学として知られて……いたそうだ。
だけど近年の生徒数の減少と『スポーツから進学重視へ』という学校の経営方針変更により、ここ数年は連合チームでの地区予選参加を余儀なくされている……という。
まあ、このあたりの話は全てしょーたからの受け売りだ。
で、今回はここともう一つの学校で構成された連合チームへの参加のために、あちらの監督さんからの要請で『顔合わせ』に行くところなのである。
まあ、実際にはさしずめ『入団テスト』なんだろうなってプンプン匂うけど。
ちなみに秋季地区大会に連合チームで参加していたもう一つのグループにも先に声をかけたのだが、断られてしまった。
そのグループの3校は全て公立校で、うち2校はウチから比較的近いのでこちらが本命だったのだが……。
指導歴の浅い監督さんばかりで、オレたちまで面倒を見るのは難しいというのが理由だった。
まあ、監督不在でしかもまだ再加盟申請中の学校と無理してまで一緒にやりたくはないよねー。
オレが逆の立場でもそう思うし、もちろん断られたことを責めるつもりはない。
というわけでとりあえず受け入れてくれた多岐川高校のグループには感謝しかない。
それはいいが……かなり田舎にある学校らしく、クルマで送ってもらわないと行くのが難しいから中原先生に頼んだのだが。
学生時代はスポーツ全然ダメだったのにクルマの運転だけは自信があるという先生の正体は『ハンドルを握ると人格が変わる人』だった。
オレは怖くて仕方がない……はしゃいでいるのは何故か一緒に乗り込んでいる姉ちゃんだけだ。
同じくはしゃぎそうなしょーたは何故か浮かない顔で……珍しく緊張しているようだ。
それはともかく、一刻でも早く到着してこの状況から解放されたい……うわああっ!
◇
「あー。やっとクルマを降りられた」
「あの程度で疲れるなんてまだまだわたしが面倒を見ないといけないわね、オージロウ」
「うっせー。それよりも何で姉ちゃんまでついてきたんだよ」
「オージロウの『父兄として』に決まってるじゃない! リトルリーグの時だってお父さんお母さんが練習の手伝いに来てたでしょ」
「その割には遠足気分ではしゃいでたくせに……。だいたい、オレがやってるのは高校野球だぞ?」
「細かいことは気にしない! いざ行かん、修羅の待ち構える地へ!」
「何を大袈裟な……はあ」
指定された駐車場から見えるグラウンド、というかどう見ても球場に向かって歩くこと5分。
その入口の横で待っているのは……恐らくあれが姉ちゃんの言う修羅、多岐川高校の監督さんだろう。
40代半ばくらいでがっしりした体格のユニフォーム姿、日焼けしたちょっと強面の顔と、いかにも高校野球の監督といった風貌の人だ。
「中原先生と生徒さんたちですか? 初めまして、私は多岐川高校野球部の監督を務めている蒼田と申します。本日はよろしくお願いします」
「あっ、こちらこそ、よ、よろしくお願いいたします!」
「さあどうぞグラウンドの中へ……ん? 君はもしかして」
蒼田監督はしょーたの顔を見るなり、知っているかのような反応を示した。
どういうことだ? 実は親戚の叔父さんとか?
などと勝手に想像したオレの直感は的外れであり、しょーたにとってはあまり喜ばしくない再会だったようだ。
「田中くん……田中シンイチ君の弟さんじゃないのかい?」
「……はい、どうもお久しぶりです、監督さん」
「いやあ、シンイチ君はウチに在学中、走攻守3拍子揃った好打者で学業も優秀だった。試合の時によく応援に来ていた弟くんに、こんな場面で出会えるとはね〜!」
「その節は、どうも」
2人のやり取りと反応を見て、しょーたが浮かない顔をしていた理由をオレはやっと理解した。
しょーたの兄貴がそんな優秀な人だとは。それを知っている人に比べられるのは、そりゃあ嫌だよね。
なんかもう、いきなり波乱を予感してしまうが……どうなることやら。




