第161話 準決勝前日と開始直前
「行けー!姉ちゃーん!そこだぁー!!」
「雛子さんに由香里さん……おれはどちらをメインに応援したらいいんだぁー!?」
「雛子さま〜! 今日も凛々しいユニフォーム姿を見れて、ぼくは幸せです〜!」
オレとしょーた、ひょ〜ろくくんは練習帰りにしょーたの家に寄らせてもらい、とある動画配信を見て盛り上がっている。
まあ練習と言っても、準々決勝での疲れを考慮して軽めのメニューで切り上げたんだけど。
で、見ているのはその最中に行われた野球の試合の見逃し配信……つまり。
女子硬式野球全国選手権の3回戦、姉ちゃんと由香里さんたちのチームが出場した試合なのである。
まあ、結果は先にわかっていて姉ちゃんたちが4回戦に勝ち上がったのだが。
やっぱり身内が出ている試合というのはついつい熱くなって見てしまうのだ。
内容的には投打の大黒柱である姉ちゃんが、打っては猛打賞で投げては完封と八面六臂の活躍だったけど。
由香里さんもキャッチャーとして好リード、打つ方でもチャンスメークと、確実にチームと姉ちゃんをサポートするプレーが光っていた。
そして我らが大化高校女子硬式野球部の面々……2年生の保志野さん、共に1年生の大山さん、沢田さんも堅実な守備とたまに出るヒットでみんな活躍していた。
思い返せば3人とも、姉ちゃんが春先に行った部員募集に応じて入部した当時は野球経験が無く、それどころか保志野さん以外は運動部自体が初めてだったのに……。
一緒にバックネット裏で練習した仲だけにオレたちまでなんか嬉しくなったぜ。
それにしても、姉ちゃんのスパルタなやり方は今どきどうなのかと思っていたが……。
実際には怪我しないように気を配りつつ効率よくレベルアップする練習メニューが組まれていたようで、一概にどのやり方がいいのか断定できない……というかよくわからん。
「オージロウ、そういえばさあ」
「へっ!? な、なんだよいきなり?」
考えにふけっていたところで突然しょーたに話を振られて、オレは挙動不審な反応を……!
だが、しょーたはそんなことを気にするでもなく質問を続ける。
「どうして雛子さんの背番号が『9』なのさ? エースなんだから『1』を着けるべきなんじゃ」
「それはぼくも不思議に思ってたです」
あー、それね。本人から直接聞いたわけじゃないけど……オレにはなんとなくわかるから、それを説明すればいいや。
「まあ、女子硬式野球で『1』が必ずエースナンバーなのかどうかはオレも知らんのだが。あの『9』にはもちろん意味がある」
「意味……雛子さんと『9』にいったいどんな重大な秘密が!?」
「なんかドキドキしてきたです〜!」
「そんな大層な話じゃないよ。『9』はウチの家族にとって兄ちゃんを象徴する番号……あれは兄ちゃんへのメッセージってわけだ」
「オージロウさんの兄ちゃんってなんですか?」
「ひょ〜ろくくんにはまだ話してなかったっけ。オージロウには雛子さんよりも年の離れたお兄さんがいて……数年前に突然行方不明になったんだ」
「そ、そうだったんですか〜?」
「うん、しょーたの説明通り。つまり姉ちゃんは兄ちゃんが戻ってくる事をまだ諦めてない。兄ちゃんがどこかで見ているって信じているんだよ」
「そういうオージロウはどうなのさ?」
「オレは……オレだって今も兄ちゃんが戻ってくる事を願っている。だけど心の中の順番としては、連合チームで甲子園に出場することが優先だよ」
「オージロウ、お前ってやつは……感激して思わず抱きついちまうぜ〜!」
「ぼくもです〜! えいっ!」
「うわあっ! やめろお前ら! オレは野郎どもに抱きつかれて喜ぶ趣味はねえんだ!」
「あら、元気にはしゃいじゃって。でもちょっと休憩してお菓子とジュースをどうぞ」
「あ、ありがとうママ……いやお袋」
「ありがとうございます! では遠慮なく!」
「ぼくも〜!」
「お前らなあ! ちょっとは遠慮というものを」
「遠慮せずにどんどん食べてね。こうやってしょーたがお友達を連れてくるようになって、おばさん嬉しくて。中学時代は、最初のうちは連れてきたのに3年生になる頃にはパッタリ誰も来なくなっちゃったから」
うーん。しょーたは多岐川第三の木崎たちと色々あったみたいだからそれは仕方がないんだけど。
オレはこの場でそれには触れずに美味しくいただいた。それで喜んでもらえたのだからいいじゃないか。
それから少しくつろいだあと、オレとひょ〜ろくくんはおいとまして帰路についた。
なぜなら明日はいよいよ準決勝。
その前の試合……準々決勝から中二日の休息日があったとはいえ、朝から球場に移動しなきゃならないし、早めに帰って準備と休息が必要なのだ。
そしてその相手は昨日決まった。
オレたちとは縁深い相手……多岐川高校に!
遂に公式戦で別府さん、石元さん、白城さんたちと激突する。ワクワクするのとやりにくさとが同居して心が落ち着かないけど……胸を借りるつもりで全力でぶつかっていくまでだ。
さて、食事と風呂を手早く終えて、さっさと寝よう。
◇
「近くで見ると結構すげー球場だな」
オレたち5校連合チームは、準決勝と決勝の会場となる球場に隣接する広場に集合したのだが。
この県の中心都市のやや街外れにあるこの球場は、今まで試合した市民球場のどれよりも大きいというか立派というか。
普段は独立地域リーグの本拠地であり、プロ野球のオープン戦や地方での主催試合で使用されることもあるこの球場は間違いなく今までとは別格だ。
まあ、プレーする側にとっては設備がきちっとしているのは大歓迎だし、入る前からワクワクが止まらない。
「やあ! オージロウくんたち、おはよう!」
爽やかに親しく話しかけてきた声……この人は!
「石元さん、おはようございます!」
「ん! みんな元気そうで何よりだ」
「……眠い」
「別府さんこそ! 白城さんは相変わらずっすね」
多岐川高校の3年生たち……だけでなくその後ろに20名以上の部員が見える。
これが復活した強豪私学、多岐川高校のフルメンバーってわけか。練習試合の時には見かけなかった顔が何人かいる……いったいどんな選手たちなんだろう?
「ん! それじゃあ今のうちに、1年生で既に主力のレギュラーを掴んだ選手を紹介しよう」
「田村くんならもう済んでるっすよ」
「彼とは違う2人だ。おーい、こっちに来てくれ!」
「へーい」
「なんかだりーなァ」
田村くん以外にも2人もいるのかよ。しかもなんか生意気そうだ。
「ん! 彼が噂のオージロウくんだ。さあお前たちも自己紹介を頼むぞ」
「えーと。蒼田。蒼田カケルっていいまーす。ポジションはライト」
「アンタがオージロウさんか。へえ〜。俺は本所、ピッチャーなんでアンタと対決するの楽しみだァ」
どっちも自信満々って感じで、なかなかいいねえ。対戦しがいがありそうだぜ。
それにしても蒼田って蒼田監督と同じ苗字だけど、ひょっとして……!




