第156話 できれば完投で
「おるああああっ!」
グワッシィーンッ!!
八ツ頭学園のエース坂平恐らく投げようとしたスイーパーがすっぽ抜け、右打者の頭上を越えようかという高く浮いたクソボールとなったのだが。
阿戸さんはなぜかそれをフルスイングして引っ張り、レフトスタンドへ大きな放物線を描いたのであった。
その前にオレが放った逆転ツーランとのアベックホームラン! なんと2試合続けてというのがこの試合の勝利を約束しているかのようだ。
「阿戸さん! 特大の一発で俺たちもスカッとしました!」
「坂平の悔しそうな顔を見れて満足です!」
阿戸さんがベースを一周してベンチに戻った時に真っ先に出迎えたのは、今日は共にベンチスタートの田白と能町の埜邑工業コンビである。
坂平とは中学時代からの縁があり、この大会直前にLINEグループの件でヤツから嫌がらせを受けた二人は、やはり試合で対峙するのが怖いということを正直に告白してくれたのだ。
だから交代要員が不足しない限りは試合に出さないということで監督たちにも了承をもらっている。
なのでベンチ内で鬱憤を晴らすくらいはいいと思うんだ。
さて、これで4−2とリードが広がって一気に押せ押せ! といきたかったのだが。
「ストライク! バッターアウト!」
次の中地さんも頑張ったんだが、ようやく落ち着きを取り戻した坂平のボールを打つことは叶わなかった。
まあでも、お陰でベンチ内で休息を取る時間を稼いでもらえた。優先的に使わせてもらってるネッククーラーを外して、帽子をかぶりなおして、いざ出撃!
「うりゃああっ!」
ズバンッ!
「身体の構造がどうなってるんだコイツ……一度はあれだけバテたのに、終盤になって逆に威力が増してるだと!?」
先頭バッターのバント職人、背尾にはここというところで的確にバントを決められてきたが。
今はそんなの全く気にせずに投げ込めるねぇ!
「うりゃああっ!!」
バコァッ!
「そんなぁ! バントで転がそうとしても、どうやってもできない!」
たとえ仕掛けられたところで、バットを完全に押し込んでポップフライに仕留めるまでだ。
続く3番の糖山、4番の棟上もリズムに乗って連続三振に仕留めたオレは、まさに絶好調と呼ぶにふさわしい投球内容で6回裏まで投げ終えたのだ。
「もう完全復活だなオージロウ! もうこのまま最後まで投げたらどうだ?」
「いや……それでもやっぱり暑すぎるぜマウンドの上は。しょーたも一回投げてみりゃわかる」
「冗談だって、オージロウのスタミナの限界はわかってるから。だけど接戦だし、あと一回はなんとか頼むよ」
「まあ、それくらいなら任せとけ」
しょーたとこんなふうに楽観して喋りながらベンチに戻ると、何やら慌ただしい雰囲気だ。
「鯉沼さん! ネッククーラーと、あとドリンクも用意しといて!」
「はい。送風機をこっちに向けてもらえますか?」
監督たちと女子マネ鯉沼さんが急いで用意しているけど、もう必要ないんだけどなあ。
「オレはもう立ち直ったからそこまでしてもらわなくて平気っすよ!」
「違うんだよオージロウくん。キミじゃなくて、大岡くんが」
「えっ!?」
「本当だ……おれも手伝ってきます!」
しょーたがグラウンドへと戻っていく先を見ると、確かにショートの大岡が阿戸さんに脇を支えられながらゆっくり歩いてくる。
どうしよう……オレも何か手伝わなければ、とあたふたしてしまった。
「オージロウもこれで扇いでやれ!」
田白から渡されたうちわ代わりのクリアファイルで用意して待ち構える。
そして大岡をベンチに座らせるとともに一斉に冷やしにかかるのだが……。
連合チーム部長役の松花高校上中野監督が大岡に話しかけて意識の様子を確認する。
「大岡! アタシと話できそうかい?」
「だ、大丈夫っす……それより、投げる準備しねーと」
「ちょっと意識朦朧としかけてる。古池監督、交代の準備しといて」
「わかりました」
大岡が熱中症になりかけてしまったらしい。
ベンチ裏の少しでも涼しいところへ運んでユニフォームを緩めたりと大変なことになったが、幸い受け答えはできてドリンクも自力で飲める状態なので、最悪の事態は免れたようだ。
さて、あとの問題はショートの交代……。
「しょーたくん、7回裏からショートに回って」
「いいですけどキャッチャーは」
「勝崎くん、もうオージロウくんのボールは捕れるよね?」
「まあ、なんとか」
「あと、オージロウくんは……申し訳ないがいけるところまで、できれば完投してほしい。もちろん無理はしないでほしいけど」
まあ、そうなるよな。この接戦で八ツ頭打線を轍くんに任せるのは荷が重そうだ。
「わかりました」
あとは行けるところまで全力で、と思っていたオレだが、あと3回投げるためにスタミナの消耗を抑えつつ相手の反撃をかわすという難しい投球を迫られることになった。




