第152話 粘ってみる
「ファウル!」
3回裏に逆転を許した直後の4回表。
先頭バッターはしょーた。
既にツーストライクと追い込まれているが、落ちるカットボールに食らいつき出塁を諦めていない。
次はオレなのでサークルで待っているのだが……。
待ってるだけでも暑い。その上、調子に乗ってマウンドで飛ばし過ぎたので、早く打席に立ってベンチに戻り休憩したいという思いも頭をもたげる。
だがしょーたに出塁してほしいという矛盾した気持ちでモヤモヤし始めたのだが……。
バコッ!
残念ながらツーシームを引っ掛けてセカンドゴロに終わった。
「オージロウ! 1発決めてさっさと帰ってこいよ!」
ベンチへと戻っていくしょーたが明るく声をかけてきた。
というか、オレが疲れた表情をしていたんだろう。あえて粘らずに打ちにいったというのがそれでわかった……ありがとよ。
「まずは同点、一発頼むぞ〜!」
「デカいの期待してるからなー!」
準々決勝進出、そして夏休みに入ったというのもあって、我らが連合チーム側のスタンドもそこそこ応援の観客が入っている。
前の試合までは正直寂しかったけど、こうやって応援してもらえると力が湧いてくる。
まあ、できれば野郎だけじゃなく女子の声援も欲しいのだが……いや、微かに聞こえる。
たぶんスタンドで見守っている笹木先生と泉さんだな。よっしゃ、気合いがみなぎってきたぜ!
と、機嫌よく左打席に立つとマウンドから八ツ頭学園エース坂平が絡んできた。
「何をへらへらニヤついてんだ〜お前? まだそんな余裕あんなら、ここでもっと追い込んでやらねーとなあ!?」
何を言ってんだコイツ……と思いつつ、面倒なので無視していると坂平は投球モーションに入った。
初球は何が来る?
「ボール!」
普通にカットボールが外角ボールゾーンに逃げていった。
まあ、前の打席でホームランを打たれたバッターには投げにくいよねと特に気にしなかったのだが……。
その後も2つ続けて同じようなコースにボール球を投げてきたのだ。
「おっかしいな〜。急にストライクが入んなくなっちまったぜ〜!?」
わざとらしいこと呟きやがって。狙いはオレをあえて塁に出して、この酷暑の中で更に消耗させようって魂胆なのがミエミエだ。
ランナー無しでさすがに申告敬遠しにくいからって面倒この上ない……ならばこちらも少しは粘ってみるか。
4球目が来た……が、外角ボールゾーンに完全に外れたボール。というか待ってた!
「うりゃああっ!」
スカッ!
「す、ストライク! カウント3−1!」
ちっ! 当たらなかったか。
右足を思い切り踏み込んで、これでもかと腕を伸ばして打ちに行ったんだけどな。
さすがに観客席からもどよめきが聞こえてくる。誰が見てもフォアボール流れだったのをぶった切ったのだから。
さあ、次はどう来る?
完全にウエストしてくるか、今からでも申告敬遠にするか、それとも……。
「……ホント面倒くせーなあ! もういい。お望み通りにこれで終わらてやるよ!」
坂平がオレの挑発に乗ってきた。マウンド上は本当に暑いから、どうしても冷静に考えるってのが難しいんだよな。
「行くぞオラァッ!」
マジ本気で内角低め、キター!
「うりゃあああっ!」
バシィーーンッ!!
オーバースローで角度のあるストレートだったけど、気持ちいいくらい振り切れた。
あとは切れなければ……。
「ファウル!」
強烈な打球だったけど、残念ながら一塁側スタンドへと早々に吸い込まれていく。
カミソリシュートをイメージしていたから、振るタイミングが早くなってしまった……というかどっちにしろ早過ぎた。
だけど次は打つ。少し動揺した形跡のある表情の坂平は、次も勝負できるかな?
「ただでさえコスパ悪ぃのに……これで今度こそ終わらせる!」
来るか、あれが!
「オラァッ!!」
ほぼサイドスローで左腕から、内角高め!
「うりゃあああっ!!」
スカッ!!
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
身体が完全に一塁側を向く程に引っ張りにかかったオレのバットにはかすった手応えすらなかった。
そしてボールが収まったキャッチャーミットの位置を見ると……外角ギリギリだと!?
「俺をナメてんじゃねえぞオージロウ! 本気だしゃいつでもコイツで打ちとれんだよ!」
マウンドで吠える坂平。
この状況で考えられる最後のボールは……スライダー、いやスイーパーってことか!
本当にベースの幅を真横に曲がっていくようなレベルの。
しかもフォームはカミソリシュートと同じ……どうやって見分ければいいのか。
頭の中でブツブツ考えながらベンチへ戻ると、今日の記録員としてベンチ入りしている埜邑工業女子マネ鯉沼さんの声が聞こえてきた。
「オージロウさん! ネッククーラー着けて、あとドリンク用意しときましたから!」
「あ、ありがと」
そうだ、早いところ身体を冷やして少しでも回復しないと。
「オージロウ! とにかくこれにでも当たれ!」
チームメイトたちはベンチ内に設置された送風機をオレの方に向きを変え、手持ちの物をうちわ代わりに風を送ってくれる。
そして打席に立った阿戸さんはいつもより短くバットを持って、坂平の変化球に食らいついている。
バシィッ!!
よっしゃ! 三遊間深いところへの強いゴロで内野安打を勝ち取ってくれた!
そして続く中地さんも、普段は早打ちで淡白なのにここは粘る。
顔にもイラつきが見えてきた坂平は遂にアレを投げる!
「うっとーしいんだよお前らはよお! オラァッ!」
ズバンッ!
「ストライク、バッターアウト!」
最後はカミソリシュートで三振だったけど……お陰様でオレの身体はクールダウンして、再び投げたくて身体がウズウズしてきたのだ。
「オージロウくん! 次の回、行ける?」
「はいバッチリです、古池監督!」
同点に追いつくことはできなかったけど……みんなが支えてくれて、オレはマウンドへと戻ることができた。
さあ、こっから流れを引き戻してやるぜ!




