第150話 夏の暑さと疲れ
「うりゃああっ!」
ズバンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
ふうっ。ここまで対戦したバッター8人、ヒットどころか出塁も許さずパーフェクトに抑え込んで、とりあえず一段落ついたって感じかな。
八ツ頭学園との準々決勝は早くも3回裏に突入して、現時点でツーアウト。
スコアは1−0で変わらず……オレが1回表に放ったホームランによる1得点のみ。
一気に相手エース坂平攻略かと思われたのだが、残念なことに後続は坂平のツーシームとカットボールを打ちあぐねている。
そんな状況なのでさすがにちょっと疲れてきた。
今日もただでさえ暑いのに、初回から全力で飛ばしすぎたかな……いや、せっかくの絶好調モードを簡単に終わらせてたまるか。
この回も三者凡退でサクッとおしまいにしてやる。
だがここで打席に迎えるのは9番バッターの瘤田。コイツは左打者で流し打ちが得意な、いわゆる走り打ちをしてくる厄介な相手だ。
練習試合の時は内角も強引に流し打ってきたが、弱点もやはり内角高め……それも強いストレートだった。
というわけで、この試合もそれで打ち取らせてもらうぜ!
「うりゃああ!」
ズバンッ!
「ストライク!」
よっしゃ! いいところにストレートが決まって瘤田は手が出ない。
続けてどんどん攻める!
「うりゃああ!」
「……同じところに来るとわかってりゃ打てるんだよぉ! ナメるな!」
いつもは走り出せるように比較的重心が高いフォームの瘤田が重心を低く構えている!
バシッ!!
クソッ、力負けせず強引に左へおっつけて打たれた!
打球は前進守備をしていたサード近海の頭上をフラフラと越えて、このままだと瘤田はセカンドベースまで行ってしまいそうだ。
「そう簡単に外野を転がせてたまるかよ!」
しかし、ショートの大岡がやってくれた!
驚異的な反応で打球に追いつき、外野深くまで転がっていくのを防いでくれたのだ。
「サンキューな大岡! お陰でシングルヒットに留められたぜ!」
「……いいから次のバッターで終わらせろ。守ってるのも暑い」
相変わらずなぶっきらぼうだが、表情はどこか照れているように思える。
それはいいとして、問題はその『次のバッター』だ。
「オージロウくんよぉ〜。今回はさっきみてーにはいかねーから。本気で点取りにいくからさぁ」
打順が1番バッターの坂平に回ったのだ。しかも不気味に自信ありげな挑発をしてきた。ここはちょっとそれにつきあって間を取るとしよう。
「へっ! オレだってギアを上げて簡単に終わらせてやるよ」
「嘘言え〜。ここまで俺らがほとんど振らずにどんどん投げさせたら、調子に乗ってガンガン全力で投げてたことくらいわかってるっつーの!」
「じゃあオレのスタミナを奪うためにワザと三振し続けたっていうのかよ?」
「そうだって言ってんじゃん。1つ目の策がダメでも、他にもお前を引きずり降ろす策はいくらでもあるんだよ!」
「1つ目ってなんだよ。そんなの仕掛けられた覚えないけど?」
「おっと。こまけーこと気にすんじゃねーよ。サッサと投げねーと余計に暑さで体力奪われるぜ!?」
まあ既に確信済みだけど、これではっきりしたな。オレの左腕を狙った事件の黒幕が誰だか。
オレは集中力の高まりを感じて、ファーストのランナーを牽制しつつ全力で投げ込んでいく!
「うりゃあああっ!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
内角低めのいいところに決まった!
威力も十分だし、まだ3回なのに問題なんてありはしない。
続けて外角低めにも決まって一気にヤツを追い込んだ。
トドメは内角高め……これで終わりだ!
「うりゃあああっ!」
「うおっと」
ヤバい、ストレートがスッポ抜けて身体の方へ!
「ボール! カウント1−2!」
「あっぶねーなー。気ぃつけろや!」
「……すみません」
坂平が避けたので言うほど危ない状況ではなかったが、気をつけないと。
さすがに気になったのか、次は外角高めで勝負のサインがしょーたから出た。
そこなら心理的に安心だ。オレの今の球威なら例え当てられても大丈夫、打ち取れる自信がある。
ということで、オレは力を込めて4球目を投げる!
「うりゃあああっ!」
「中に甘くシュート回転してきたぜ〜!? オラァッ!」
バシィーッ!!
芯で捉えられた打球がショートの頭を越えて左中間にクリーンヒット!
瘤田の足ならこれでもホームへ……!
「んなろう! 点はやらねーぞコラァ!」
守備範囲の広い阿戸さんが何とか追いついて、急いで中継プレーからのバックホーム……。
「セーフ!」
「おっしゃああ! 遂に追いついたぞ!」
「ここから一気に逆転といこう!」
「オージロウが早くも捕らえられるなんて」
ちくしょう。どんどん出てくる汗を拭いながらオレは後悔していた。さすがに調子に乗りすぎたことを。
夏のこの暑さ、気づいたときには相当な体力を奪われている。




