第144話 打たれない工夫
「ぬううっ! ワシがこの回でトドメを刺してやるから覚悟せい、オージロウ!」
いや、まだ6回表で1−1の同点だからトドメ刺すっていうのはおかしいだろう……と今回も心の中でだけツッコんでおく。
それはともかく一死一塁のピンチ……という程ではないが相手に勝ち越しのランナーがいる状況で橘商業の1番バッター谷下さんを左打席に迎えている。
バットは前の打席と同じく拳ひとつ分短く持っており、構えもいつもよりややコンパクトだ。
オレのストレートを確実に捉えることを重視しているわけだが、それでも引っ張って強烈な打球を放てるのは谷下さんのパワーが成せる技である。
さて攻め方はどうしよう。
前の打席では外角狙いと見せかけて内角をずっと待っていたので……今回は逆だろうか?
そのあたりを探るべく、初球はここだ!
「うりゃああっ!」
「内角……膝上!」
ズバンッ!!
「ボール!」
うーん。もちろんわざとストライクゾーンを外したんだけど、簡単に見送ったなー。
でも反応はあったから……だが演技かもしれない。
……よく考えたらこんなことで悩むなんてオレらしくない。
相手がオレを打つために工夫してきてるのだから、オレだって打たれないように工夫すればいいのだ。
セットポジションから右足を上げて、軸足の安定をいつもより気をつけて。
そこから踏み出すのを、いつもよりもゆったりと……左腕のテイクバックが上がらないように我慢する。
右足を力強く踏み込む瞬間に、コンパクトに一気に左腕を引き上げて、その勢いのまま投げ下ろす!
「うりゃあああっ!」
「ぬうううっ! 外角高め……速い!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
よっしゃ! 振り遅れさせることに成功した!
球速がいきなり変わったわけじゃなく、投げるまでの動きと腕を振るタイミングを変えてみた。
あんまりやると本来のフォームを見失うけど。ここから続く橘商業の中心打者には集中してやってやる。
次は一塁ランナーを目で牽制してから。
一転してクイックモーションで投げ込む!
「うりゃああっ!」
「それでワシを惑わせておるつもりかあ! ぬうううっ!!」
バコォーッ!
「ファウル! カウント1−2!」
内角胸元に投げたストレートをバックネットにファウルされた……いや、させた。
クイックだけどテイクバックをやや大きくして、投げ下ろす時に体重をより強く乗せたのだ。
そしてランナーが盗塁するタイミングを取りにくくする。
さて次はどうしようかな。
谷下さんは自分の感覚よりも振り遅れや力負けが続いた。ならばここはとにかく力を込めて振るしかない。
これでもらったあ!
「うりゃあああっ!!」
「真ん中高め……ナメおって! ぬうううっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
今度こそ仕留めた! いつも通りのフォームで
、いつも通りにバックスピンをこれでもかとかけて。
ボールゾーンにノビるストレートを振らせたのだ!
これでツーアウト……だが、まだ終わってはいない。
「小僧……谷下を仕留めたくらいで頭に乗るなよ」
ひええ……顔つきが怖い大根さんを仕留めなければこの回は終わらないのだ。




