第136話 トドメ
これから11回裏の攻撃……現時点でスコアは2−3で甘岬が1点リード。
もちろんウチが追いつけなければ試合は終わるんだけど、どちらにしてもこの回で決着をつけたい。
ウチはもう全ての投手を出してしまった。その上、大岡はあまり長いイニングを投げた経験が無い。
対する甘岬高校は、リリーフエースの三矢を引っ張り出したものの他にもピッチャーは残っているはず。
そしてこの回の先頭バッターは途中から出場の原塚さん。前の打席では外角を狙い打ちで2塁打を放ったのだ。
打席に向かう前に監督から一言何か言われたみたいだけど……狙い球を変えるのだろうか。
逆に相手バッテリーはどう攻めてくる? と思ったら、初球は外角に!
「ボール!」
ふう。チェンジアップで落としてきたのを振らずに見送った。原塚さんってそんなに選球眼は良くないはずだが……まあいいや、しばらく様子を見よう。
しかし続けて内角に投げてきたスライダーを空振りしてあっという間に追い込まれてしまった。
どんな指示が出てるんだ? 原塚さんは内角は難しいってわかってるだろうに。
さて4球目は……外角のストライクゾーン内にストレート、いやチェンジアップか!
バコッ!
鈍い音とともにボールがキャッチャーの後方へと弾かれて転々と転がっていく。
ギリギリで当てて粘った……なんだ、結局は外角狙いなのか?
とオレが思うくらいだから相手バッテリーも迷いが出たらしく、その後は内角ボール球を見送られて……。
「ボール! フォアボール!」
うっしゃ! 粘って勝ち取ったぜ原塚さん!
後で監督に聞いたら、追い込まれるまでは内角を振って、そのあとは外角狙いに切り替えるという指示を出したんだと。
相手を迷わせつつ、最悪、三振してもゲッツーにさえならなければ良しという策だったのだ。
これで無死満塁……オレを申告敬遠することは無いだろう。延長戦で同点になれば、ヒットだけでなくエラーとかでもサヨナラになりかねない。
でもまあされたら、伝説くらいは一応残せるかな……などと考えながら左打席で構える。
申告敬遠の気配はない。勝負に来る……!
初球は……うわっ!
「ストライク!」
なんと、胸元へ目掛けて投げ込んできた……と思ったら大きくストライクゾーンへと曲がった。
なかなか大胆なフロントドアだな……と心の中で身構えると、三矢が関西弁でまくしたてる。
「前の打席、ある意味お前をナメとったわ。チビやから俺のスライダーを外角に投げとけば安パイやろうって……だから今回は内角を攻め倒したる!」
一方的にそう言って、三矢はすぐにセットポジションに入る。
さっきのをそのまま受け取っていいものか。そう言いながら結局外角攻めだったなんて、野球の試合ではゴマンとある話だと思う。
とはいえ、オレの得意な内角に打ち頃のボールが来れば逃さずに打ってやる。
さあ、2球目は……。
内角、しかもボールゾーン! またフロントドアか!
「うりゃああっ!」
スカッ!
「ストライク! カウント0−2!」
「おっしゃ! モロに引っ掛かったわ!」
ちくしょう!
まさかの、更に食い込んでくるチェンジアップとは!
スライダーを予測して振ったバットの軌道は、全く的外れの場所を通り過ぎたのだった。
こんな簡単に追い込まれるとは。
三矢はこのあと無限に選択肢を握ったと言っても過言じゃない。
オレは……何をどのコースで待つべきか、とても絞りきれない。
それでもなんとかしないと。次の打者は途中出場の近海……バッティングは悪くはないけど、三矢を打つのは難しいと思う。
オレは自分を落ち着かせようとゆっくりと構える。その間に考えを整理して……。
3球目は何が来る!?
「そりゃっ! トドメじゃ!」
……また内角!
ズバッ!!
「ボール! カウント1−2!」
ふう〜。さっきと同じようなコースでストレート。振っていたら振り遅れで空振りだったと思う。
「惜しかったのう〜。せやけどまだまだ俺が有利や!」
すかさずマウントを取ってくる三矢。こういうのも投球術として生かすのが上手いタイプだ。
だけどオレもそう簡単には引き下がれないのだよ。
4球目……オレは賭けに出る!
「今度こそ終わりじゃい!」
ズバンッ!!
「ボール! カウント2−2!」
今度は外角で更に逃げていくスライダー……オレは外角なら見送ると決めていた。
三矢も少し考える顔に戻った。当初のプランは使い切って、このあとの組み立てが必要なのだろう。
まあ、まだボール球を一つ使えるから、もう一度外角に誘い球を投げる手もあるが……見送られたらフルカウントで逆にバッテリーも追い込まれる。
さあ来い、5球目!
「そりゃあっ! これでどないや!」
外角……!
「うりゃあああっ!!」
バシィーーンッ!!
外角低め、ギリギリのところを思いっきり振り抜いた打球は、センター方向へ大きな放物線を描いていく。
そしてオレが1塁ベースに到着する前には……いや、本当は打った瞬間には確信していたけど。
バックスクリーンに、サヨナラ満塁ホームランだ!
オレが打ったのは、バックドアでボールゾーンから中に入ってきたチェンジアップ。
三矢が『トドメ』とは言わなかったのがむしろ、見逃し三振を狙っていることを確信させたのだ。
こうして、苦しかった2回戦を連合チームは勝ち上がることができたのであった。




