第133話 前フリと決め球
ズバンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
「うっしゃ! この調子で最後までいこう、轍くん!」
市立甘岬高校との2回戦も大詰めの9回表、オレたち連合チームはツーアウトまで相手を追い詰めた。
2−1と僅かに1点だけのリードだが、もう勝利は目前……いやいや、まだ全然油断はできない。
なにせ最後に待ち構えているのが甘岬の中心である3番打者、湖岳だからだ。
さすがに最後の打席となるかもしれないという緊張した面持ちだが、それを誤魔化すようにゆったりと右打席に立つと、オレの方を向いてボソッと話しかけてきた。
「オージロウくん、キャッチャーまでやるとはなあ。ちょっとバケモンすぎないか?」
「別にそういうのじゃなくてですね。連合チームなんで単純に複数ポジこなせないと、ってだけなんですよ」
オレは既にマウンドから降りて、同時にDH解除もしてキャッチャーを務めている。
もっと点差に余裕があったら控えキャッチャーの勝崎さんに交代しても良かったのだが……大丈夫だとは思うけど、まあ万が一のことを考えてオレは打線に残された。
そしてこの回は轍くんに投げきってもらう。
実は湖岳を迎えたところで大岡に代わる予定だったのだが……大岡がショートから抜けたあとの代わりがいない。
ユーティリティプレイヤーのしょーたが負傷でベンチに引っ込んだので、ウチには代わりのショートがもういないのである。
正確にはいないことはないが……どうしても大岡としょーたよりだいぶ落ちてしまう。
でも湖岳を打ち取れば轍くんにとって大きな自信になるし……それに持ち球として縦スラがあるので、振り回すタイプの湖岳には轍くんの方が相性がいいと思う。
問題は変化球によってフォームが変わってしまうので、球種がバレバレにならないようにそれをどうカバーするか。
前の2人にはほとんどストレートでキメるところだけ縦スラを使ってもらった。
この打席の組み立ては……イメージが固まった。
さあ初球、どんと来い轍くん!
ノーワインドアップで始まり、動作を確かめながらのように慎重なモーションで……左のオーバースローからストレートがくる!
「外角低め……るおあああっ!」
ブンッ!!
「ストライク!」
パシッとボールを受け止めて、オレはようやくホッとした。
オレとは違って轍くんの低めは角度のあるストレート……簡単には当てられないと思いながらも怖さがある。
だけど轍くんの方がもっと緊張したはず……ちょっと声かけといてやろう。
「ナイスボールだ、轍くん! この調子でいけば大丈夫だよ!」
「は、はあ。わかりました」
オレに顔を向けたところで片膝ついたままボールを返す。MLBのキャッチャーの間で増加中という片膝つき捕球を取り入れたのだが、これは確かに足への負担が軽くなった。
それにこの方が姿勢が安定するし、ブロッキングも意外と問題なかった。これをやり始めるとやめられんなあ。
と悦に入っているところに湖岳がいきなり話しかけてきた。
「オージロウくん! あのピッチャーもなかなかいいボール投げるねえ。打ちがいのありそうなボールを」
「それはどうも」
うーん、やっぱり打つ気満々か。もちろんホームランを狙っているのだろう。
だが惑わされずプラン通りに進めるだけだ。
2球目は、今のうちに横の変化を見せておく。
フォームがほぼサイドになっちゃうけど……横滑りのスライダーで内角を攻める!
湖岳はストライクゾーンから切れ込んでくるボールを身体の回転で巻き込むように振ってきて……!
「るおあああっ!」
ブンッ!
「ストライク! カウント0−2!」
ふーっ。空振りはさせたけど、芯に当たってたら……レフトポール際か、ファウルになるかは状況次第だな。
このスライダーは完全にフォームでバレるし、もう使えないが。湖岳の意識には残って思い切った踏み込みはしづらいはず。
まあ、なんにしても追い込むことに成功した。
あとは仕留めるのみ……だが前フリも重要だ。
「ボール!」
3球目は真ん中高め、というか完全にボールゾーンに外したストレート。
轍くんの高めストレートはまだ空振りを誘えるレベルじゃないけど、これで視線も動かした。
続けて4球目、勝負をかける!
パシッ! と外角寄り低めギリギリストレートをすくい上げるようにミットに収め、静止して待つ。
「ボール!」
フレーミングでストライクにできないかとやってみたが……残念。
湖岳は手が出なかったのか見極めたのかわからんがバットを出さなかっただけに、余計に惜しい。
まあ仕方がない。これも前フリにするだけだ。
次で決めに行く。5球目のサインを出すと、轍くんは迷いなく頷いて投球モーションに移る。
今回はスリークォーターで、そこから左腕を縦に切るようにボールに回転をかけて放つ!
「外角低め……少し甘い!」
よし、かかった! 手前でストンと落ちる縦スライダー!
「まだ終わらん! るおああああっ!!」
バシィーーッ!!
当てられた……けど踏み込みが甘く体勢を崩して無理にすくい上げただけの打球だ。
センター方向へ向かってるけど、オレがホームランを打たれた時のような打球の勢いは無い。
これでゲームセット。やっと終わりだ。
ホッとして轍くんをねぎらいにマウンドへと歩き出したのだが……スタンドやベンチが段々と騒々しくなってきた。
それで打球の行方を追ってみると。
ポーン! とバックスクリーンに落ちた打球が跳ね上がった瞬間が目に飛び込んできた。
「う、嘘だろ。なんであんな体勢で打ち上げたのが……」
オレは言葉に詰まり、轍くんの顔が一瞬で引きつる。
ああ〜、ちくしょう! 同点のソロホームランをバックスクリーンに許してしまった。勝利目前で。




