第130話 継投のタイミング
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
ふぃ〜っ! 何とか7回表までオレは投げ抜いた。
この回もゼロに抑えて、1回表に甘岬打線の中心、湖岳に打たれたホームランによる1失点だけで踏ん張っている。
しかし、まだ午前中だというのに高い気温と湿度でマウンド上はサウナみたいな状態だ。
今日はまだ日差しがあまりないからマシだけど、これで容赦なく強烈な夏の太陽光線を浴びたら……。
改めて、みんなこんなのによく耐えて投げてると思う。しばらく前まではエースが完投、連投が当たり前だったけど……今の時代にそれを求めるのは相当キツい。
強豪私学じゃなくても、継投策を全く考えずに大会に臨むのは現実的じゃなくなっている。
などとぼーっと考えつつ、疲れ切って汗をダラダラかきながらトボトボとベンチへ戻ると、古池監督からねぎらいの言葉をかけられた。
「オージロウくん、お疲れ! 今日も素晴らしいピッチングだけど……もう、そろそろ限界かな?」
「……とにかく座って休みたいです」
「うん、わかった。次はどうするか、こっちで考えるよ」
遂に継投の準備か。そういえば轍くんと勝崎さんの姿が見えない。ブルペンに行っているのかな。
オレはDHだから、継投してもそのまま打席には入れるが……もうマウンドに立つことができなくなる。
DH解除しても守備につくしかできないので、継投のタイミングがとても重要であり、監督の腕の見せどころというわけだ。
なので、先発投手がDHで大谷ルール適用になるのは、チーム事情によってはかえって足枷になるかもしれない。
従来のようにエースが一旦野手についてまた戻ることを想定しているチームは、むしろDHを使わないほうがややこしくなくていいのかも……。
ちなみに我らが連合チームの体制だが、監督は古池監督、部長(責任教師)役は松花高校の上中野監督、副責任教師役は升田高校の惣司監督が務める。
全員が教師なのでこのあたりの役回りは誰が入っても問題ない。埜邑工業の笹木先生、御野ヶ島高校の松笠先生はスタンドで見守ってくれている。
余談が長くなってしまったが、汗を拭いてアンダーシャツの着替えも終わったし、ウチの攻撃の様子を眺めよう。
既にワンアウトで8番の大岡……はあえなく外野フライでツーアウト。
だが次のバッター、9番のひょ〜ろくくんは相手先発投手の鎌刀に相性がいいのか、ここまで2安打なのだ。
ひょ〜ろくくんが自信ありげに素振りをしてから右打席に入ろうと歩き出した時だった。
「タイム!」
なんだよこのタイミングで……と見ていたら、相手の選手が一人、マウンドへ小走りで向かっている。
これはもしや……。
鎌刀が入れ替わりでベンチへと向かう。甘岬高校はここで継投を決断したのだ。
というわけで相手のリリーフエース三矢を引きずり出したわけだが……どういうピッチャーなのかワクワクだ。
気になるのは、鎌刀も三矢も左投げ……もし似たようなタイプなら継投しても効果が薄れるのだが果たして。
投球練習では、セットポジションのみで投げている。ランナーの有無に関わらずセットで投げるタイプか。
そして投球フォームは、一応はスリークォーターかな? でもかなりサイドに近い角度だ。
球速だけなら鎌刀の方が若干速いけどキレのあるストレートで、こっちの方が打ちにくそうだ。
そしてプレー再開。ひょ〜ろくくんはどう対応するかウチのベンチからみんな見守っている。
注目の初球は……。
「うわぁっ! です〜!」
いきなり容赦なく腹を抉るような内角攻め。
ストレート……いやスライダーだろうか?
ストレートとそれほど球速差が無いのに変化が大きい。
そして次は……ストレートが内角膝元に決まった。いいところに決まったし、初球がアレだったからひょ〜ろくくんも手出しができなかった。
3球目は……そろそろ外角だろうか?
いや、また内角で胸元。ストレートか?
「うりゃあっ! ですっ!」
スカッ!
「ストライク! カウント1−2!」
オレの掛け声真似すんなっての……。
それはともかく、切れ味鋭いスライダーにバットはカスリもせず追い込まれてしまった。
さあ、次こそは外角か。シンカーあたり投げてくるのかな? と思ったのだが。
ズバンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
「やられたです〜!」
嘆くひょ〜ろくくん、そしてベンチからはみんなの溜め息が一斉に聞こえる。
またもや内角で膝元……それもスライダー!
ただ、それまでのスライダーよりも速く変化も小さかった。
握りを微妙に変えて投げ分けてるのかな?
なんにせよ、右打者であっても簡単には打てそうにないピッチャーだと、それだけはオレたちも理解したのであった。
さて、古池監督はオレを代えて継投するのか、それとも……!




