第126話 さっきのは無しで
「さあ、しまっていこう〜!」
「おーーっ!」
3回裏の一死満塁のチャンスを逃して無得点に終わったオレたちの雰囲気は、正直いって沈んでいた。
だけどキャプテンであるしょーたがホームベースの前に出て、わざと大きな動作で両腕を上げながら元気よくみんなに呼びかける。
そしてそれに声を張り上げて応える野手のみんな。
これで大丈夫だろう。そしてオレが甘岬打線を抑えることで嫌な流れを食い止め、逆にこちらが勢いに乗りたい。
そのための難関として……この回は3番の湖岳に打順が回ってくる。
序盤の山場と言ってもいいこの場面。何としてでも抑えて、前の打席でホームランを打たれた借りを返してやる。
その前にこの回の先頭打者である2番バッターをサクッと抑えてリズムに乗りたい。
というわけで初球はこれだ!
「うりゃあっ!」
「ど真ん中だと? ナメるなぁ!」
ガコォッ!
「痛ってぇ! ど真ん中なのに芯を外すなんて!?」
申し訳ないが前の打席でスイングスピードを見切らせてもらった。
振り遅れて芯で捉えられなかった打球は、結果的に流し打ちみたいなゴロとなってファーストの横へ飛んでいく。
オレは一応ベースカバーに行きつつもアウトを確信していた……のだが。
「あっ!」
ファーストの中地さんが声を上げたと同時に、逆シングルで捕りにいったグラブから打球を弾いて……!
オレは慌てて1塁ベースへダッシュするが、猛然と駆け込んでくるバッターとぶつからないように気をつけないと。
「オージロウ、頼む!」
ようやくボールを掴んだ中地さんがこっちへ緩いトス……だが、ベースを踏もうとしていたオレの後方へと送球が流れていく!
「クソッ! 届かねえ!」
ボールはそのままファウルゾーンを転がっていき、オレは勢い余って転倒した。
「ラッキー! もう一つもらうぜ!」
ちくしょう! 幸いにもバッターと交錯しなかったが、すぐにはボールを取りに行けない。このままじゃ2塁へ行かれちまう。
「オージロウ! ボールは任せろ!」
しょーたの声だ。ホームからカバーに走ってきて、ようやく直接手で掴んだボールを……。
いや、送球は諦めた。なぜならその時には、ランナーが悠々と2塁ベースに到達しようとしていたからだ。
ここで焦ってさらなる送球エラーを重ねては元も子もない。冷静に判断してくれて助かった。
だがノーアウトでランナー2塁……ここでこちらにとっては最悪のバッターを迎えることになる。
「タイム!」
ウチのベンチからの要求か。ナイスタイミングで伝令が出てくるみたいだ。
伝令役は控えキャッチャーの勝崎さん。駆け足でマウンドへ来たところをオレと内野手全員で出迎える。
「えーとだな。単刀直入に言えば、1塁ベース空いてるがどうする?」
勝崎さんはいきなり核心に踏み込んできた。というか古池監督がそう言ってるのを伝えてるだけなんだが。
つまり申告敬遠か。だがオレは湖岳に借りを……いや、一発勝負の公式戦でオレだけの都合を押し付けられない。
ここはしょーたに決めてもらおう……と思ったが先手を取られた。
「オージロウはどうしたい? お前が決めてくれ。みんなもそれでいいか?」
「……ああ、いいぜ」
「このチームはオージロウさんと一蓮托生、道連れです〜!」
「ひょ〜ろくくん、それ不吉な言い回しだよ!」
思わずみんなの笑い声がこぼれる。まあそこまで言ってくれるなら期待に応えるしかあるまい。
「わかった。ならば勝負一択……絶対にヤツの4打席連続ホームランを、いやタイムリーも阻止してみせる!」
「ということでみんな頼む。あと外野に目一杯深い守備位置でって伝えといて。それじゃ……」
しょーたが話を終わらせようとしたが、そこへ中地さんが待ったをかけてきた。
「ちょっと待ってくれ。あのさ勝崎、戻ったら俺を交代させるように監督に言っといて」
「何を言ってんだよ、藪から棒に」
「だってさあ。さっきエラーやらかしたし、その前のチャンスだってバントもできずに潰した。俺がこのまま出続けたら迷惑しかかけん」
そこまで言い出す程気にしてたとは。
確かに試合に勝つことがオレたちの最大の目標だけど……連合チームのそもそもの目的は公式戦に出ること。
なのにせっかく出た試合を嫌な結果だけで終わらせるのは……このまま交代を認めるわけにはいかない。
しょーたも同じ考えだというのが表情からわかった。だからあとの説得はキャプテンしょーたに任せる。
「あのですね。まずスクイズバント失敗ですけど、監督が『こっちの判断ミス』って言ってたから気にしなくていいです。意表を突いた作戦のつもりが、そもそも仕掛けたタイミング自体が最悪でした」
「それはいいとしても守備が」
「エラーの原因ですが。逆シングルで伸ばしたグラブの捕球面が打球に向いていなかったのと、左足をちゃんと踏み込めてなかったからですよ。次はそこを気をつけるか、できるだけ打球の正面に回り込めば問題ないです」
「でも、もう自信が無い」
「中地さん……自分のエラーは試合中に自分で取り返すべきです。チームメイトに後始末を押しつけないでください」
すごいぜしょーた! 中地さんは目からウロコって感じでハッと目を見開き、続いて目の力が戻ってくるのがはっきりとわかる。
いつもこのクオリティのしょーたであればいいんだけどなあ。
「君たち! もう時間だよ!」
おっと、球審から催促が来た。ベンチに戻ろうとする勝崎さんに中地さんがボソッと告げる。
「さっきのは無しで頼むわ!」
「あいよ!」
やれやれ。中地さんは心の内を吐き出してスッキリしたのか表情から緊張が程よく解けてきた。
というわけで、あとはオレが抑えるのみ。




