第123話 2回戦進出と新たな強敵
「うりゃあっ!」
ズバンッ!!
「ストライク、バッターアウト!」
よっしゃ!
1回戦を10−0の5回コールドで勝利したオレたちの連合チーム。
相手校には申し訳ないけど……早めに試合を終えられて、体力の消耗を抑えることができた。
オレが完投して轍くん、大岡を温存することができたし。
なにせもう7月中旬……梅雨明けはまだだが気温は容赦なく上昇し、蒸し暑いまである。
オレもアンダーシャツが汗びっしょりなので早く着替えたい。
そして最後に整列して挨拶。相手校の選手たちは、屈辱的ともいえる負け方にも関わらず『次の試合も頑張れよ』と爽やかに声をかけてくれた。
オレがもし同じ立場だったら、同じように言えるかな……せめて見苦しい真似はしないように心掛けたい。
で、次の2回戦は県内でいつもダークホースに挙げられる公立高校、市立甘岬高校。
公立だが体育科があるので県内から運動能力が高い生徒が集まる。もちろん野球部の主力も体育科の生徒たちということだ。
今年もなかなかの戦力が揃っているようで、決して油断できない相手なのである。
特に3番打者がやたらとホームランを量産してるらしくて、ワクワク……いや警戒せねばならない。
などと考えている間に着替えも済ませて、さあ帰ろうとしたら升田高校の中地さんが話しかけてきた。
「なあオージロウ。阿戸くんってまだ復帰できないの?」
「うーん。お医者さんも驚くほどの回復ぶりらしいけど、まだもうちょっとかかるみたいです。恐らく次の試合は間に合わないかと」
「そうか。今日はお前の後ろで4番打たせてもらったけどさ。なんかこう、自分でも役不足感が半端ないっていうか」
「そんなことないですよ。中地さんは守備はザルだけど、打撃は良いんですから自信持ってください。今日だってマルチヒットだったじゃないですか」
「相変わらず一言多いな。それはともかく、今日は大丈夫だったけど今後の試合でお前が敬遠されだしたら、と思うと怖くてさ」
「それは……頑張ってください」
「え〜。まあ頑張るけどさ……」
自信無さげにオレから離れていく中地さん。ちょっと冷たい言い方だったかな。だけどオレも正直余裕がないのだ。
かといって、あとで個別にフォローのメッセージを送ることもできない。
八ツ頭学園の坂平が田白たちをLINEグループに勝手に参加させた件の影響で、念の為に連合チームのグループを削除し、個別にメッセージを送るのも当面は控えることになったのだ。
阿戸さんの回復具合だって普通なら即座に共有できることなのに。あー、マジでムカつくぜ。
「オージロウくん、お疲れだっしゃ!」
松花の近海……阿戸さんの件では彼がたまたま通りかかって犯人たちが立ち去ったんだっけ。
「近海くんもお疲れ! あの件だけど、犯人たちが阿戸さんをボコってるところによく近づけたな。すごい勇気で尊敬するぜ!」
「ああ、あれねぇ……オージロウくんにだけ真相を教えるっちゃ。でもみんなには内緒にしてちょ?」
「まあいいけど。なんだよ真相って」
「実は犯人たちのリーダー格が僕ちんの顔を見た途端に逃げ出して、他の連中も釣られて逃げ出したっちゃ」
「え? もしかして顔見知りとか?」
「顔には覚えがあるけど、どこの誰かは知らぬ存ぜぬ」
「どういうことだよ」
「それは僕ちんの中学時代……ある時、街を歩いてたら同学年くらいの悪ガキに『カネを寄越せ』ってド直球でカツアゲされたんだっぴょ」
「まさか、その相手って」
「もちろんさっきのリーダー格の男だっしゃ! だけど、その時の僕ちんは機嫌が悪くて〜。即座に仲間もろとも全身を『ナデナデ』してとことん『わからせて』やったっぴょ!」
「そ、それじゃ目撃情報が妙に詳細なのも」
「前に一度見た顔だから。だけど警察には全然知らない相手って言っちゃったから……それで押し通す。だって面倒だし〜!」
「……」
「まあ、若気の至りってやつっぴょ! 今は落ち着いてるから安心してちょ! そいじゃあ!」
なんと……褒められた話じゃないが、そのおかげで阿戸さんの怪我があの程度で済んだのだ。
さっきのはオレの胸の中にしまっておこう。
◇
いよいよ2回戦の相手、甘岬高校との試合当日となった。
今日も暑い……そして湿度も高い!
できれば1回戦のように早い回で終わらせてしまいたいが、恐らくはそうはいかない。
甘岬高校は戦力として、目立つのは3番打者である湖岳なのだが……実は投手陣も強力だ。
先発の鎌刀、抑えの三矢の両左腕をキャッチャーでキャプテンの稔田が巧みにリードする。
湖岳が長打で得点し、投手力で逃げ切るのが得意パターンだ……と、しょーたから説明を受けた。
まあそれはともかくとして。
「ああ〜。もう疲れた〜!」
「ぼくもです〜! 家から遠かった!」
「何いってんだよ、このあと試合が始まるってのに……2人共あの程度の移動時間で疲れてたら甲子園なんて行けないぞ!」
「だってしょーた、今日はウチの高校から一番離れた球場で試合なんだから仕方がないだろ! しかもまだ通勤通学時間帯で電車が混んでたし」
「まあ、確かに座れなかったけどさ。こういうのはどこも事情は同じなんだから……それに御野ヶ島高校の原塚さんに比べれば」
「わかったよ……だから控室に行って座ろうぜ」
そうなんだよな。離島の御野ヶ島高校は移動だけでも大変で、今回も顧問の松笠先生と共に球場近くの安いビジネスホテルに前日から移動してきたと聞いている。
それは大変だとは思うが、オレたちも古池監督のクルマで移動できなかったのだ。今回の球場は割と都市部の駅から近い場所にあるので、駐車場が限られているから。
荷物を持っての電車移動……ちょっとクルマ移動に慣れすぎてしまって辛かった。
「やあ! 大化高校の3人とも、おはよう! 今日も張り切って試合に臨もうではないか!」
「あ、原塚さん、おはようっす。なんか朝から元気ですね」
「ホテルの中じゃ勉強と簡単な筋トレ位しかできかったからな。なんか力が余りまくってる感じだ!」
前日の移動疲れとかは無さそうで良かった。原塚さんはスタメンではないが、守備がザル……もとい不得意なファーストの中地さんと終盤に交代するのと、代打で活躍してもらわねばならないのだ。
特に今日みたいな接戦が予想される試合ではエラーが命取りになるので期待は大きい。
そしてボチボチと連合チームのメンバーが到着して、試合前の守備練習の時間が来た。
「あ〜、外の空気がうめぇ!」
オレはグラウンドに出て息を吸い込み身体を伸ばす。既に暑いが、まだ灼熱というほどではない空気は身体に取り込むと気持ちがいい。
そんなふうにリラックスしていたオレに、相手側ベンチから誰か近づいてくる。
背丈は180センチ台後半かな……でも身体の線は割とスマートだ。もしかしてコイツが。
「オージロウくんだよね? おはよう、俺は湖岳……知ってるかな?」
「おはようございます。もちろん知ってますよ……1回戦では2打席連続ホームラン、そして今日の第一打席で3打席連続ホームランがかかっている長距離打者ってことくらいは」
「そういうオージロウくんも2本打ったんだろ? 俺も知ってる」
「いえいえ、連続ではなかったので」
「まあ何にせよ、どっちが先に3本目を打つか競い合うのが楽しみなんで。お互い頑張ろうや」
「ええ、オレもです」
へえ。豪快なバッティングする打者って聞いてたからもっと荒々しい人かと思ったら、わざわざ挨拶に来てくれるなんて普段は几帳面なのかも。
これは久々に面白い試合になりそうだぜ……!




