第122話 襲撃事件と嫌がらせ
「全くよぉ〜、大袈裟なんだよな〜。ちょっと全身に擦り傷負っただけなのによぉ〜!」
阿戸さんが大怪我で入院したと聞いて、オレとしょーたは古池監督と共に急遽見舞いに訪れたのだが。
確かに包帯だらけではあったものの、思った程酷くはなかったのか……と安心しかけたところで偶然居合わせた松花高校の上中野監督が阿戸さんをどやしつける。
「何を気楽なこと言ってんだい! 擦り傷じゃなくて全身打撲で全治2週間って診断が出たじゃないか!」
「えっ……やっぱり酷かったんだ。それじゃ予選の出場は無理ですよね?」
「無理って決めつけんじゃねーよ! こんなの1週間もありゃ治る。ベスト16までには復帰してやるから、それまでは負けんじゃねーぞオージロウ! 痛てててっ!」
「あ、はい。任せてください……でも無理せずお大事に」
心配したけど、思ったよりは元気そうで良かった。まあ試合も大事だけどゆっくりキチンと身体を治してほしいぜ。
それにしても何でこんな……というオレたちの疑問を古池監督が上中野監督に尋ねてくれた。
「いったい何があったんです? 全身打撲なんて、何か無理がある特訓でもしたのか」
「それだったらマシだったんだけどね……阿戸が街なかを歩いてたら5、6人のグループから因縁をつけられて、いきなりボコボコにされたんだよ」
「つまり、襲撃されたってことですか? 相手グループは顔見知りとかですか?」
マジかよ、ヤンキー漫画そのものじゃん……オレとしょーたは驚きで声が出ない。そして古池監督の問いには阿戸さんが直接答えた。
「いや、全く見知らぬ連中だった。というかどう見ても俺より1コ、いや2コくらい下に見えたんだが……不思議なのは奴らが俺の中学時代の二つ名を知ってたんだ」
「二つ名って、八ツ頭との練習試合で坂平が言ってた『タコ殴りの〜』ってやつですか?」
「それだよオージロウ。だけど俺は中学時代、松花からはかなり離れた場所に住んでたんだ」
「じゃあ、このあたりで阿戸さんよりも2コ下の奴らが知ってるはずはないと」
「ああ。だが連中は俺の顔見るなり『お前、タコ殴りの阿戸って伝説のヤンキーだったんだろ? 俺らにボコられてハク付けさせろや!』って因縁つけてきた。わけがわからねえよ」
益々不可解だな……考えてもよくわからんが、古池監督がここで踏み込んだ質問をした。
「この件なんだけど、念の為の確認。阿戸くんは手出しせず、一方的に多人数から殴られたってことで間違いないんだね?」
「あ、ああ。例え反撃でも下手に殴ったらどうなるか、俺もわかってるからガードに徹したんだ」
「なるほど。我慢してくれたのは本当にありがとう。で、話しにくいだろうけど……中学時代のことを話してくれるかい? この件、先手を打ってこちらから高野連に報告するけど……キミが何も悪くないと説明するために、あらゆる情報を知っておきたいんだ」
「……わかった。俺はシニアで野球やってたんだが、その一方で夜になると血が騒ぐっていうか……街で族とかヤンチャ連中に喧嘩吹っかけては、相手をフルボッコにするまで殴るのを止められないっていう荒んだ生活してたんだ」
「それが二つ名の由来というわけだ。で、やめられないまま例のトラブルを引き起こしたと」
「言い訳になるが……あの時、俺と敵対してた族の奴らが、何の関係もないシニアのチームメイトを攫って人質にしやがったんだ。それで助けなきゃって俺は頭に血が登りすぎて……気がついたら全員を血の海に沈めてた」
「それでシニアのチームは大会に出られなかったと」
「いや、坂平にも言ったけど、チームは出場辞退も停止もしていない」
「そうだったね、ごめん」
「俺は族から呼び出された場所に行く前に監督の家に寄って退団するって一言告げてから突撃した。それに、人質にされたチームメイトがその顛末を警察に必死に証言してくれて、俺がそのまま退団するってことでお咎めなしになった。そして俺は2度と自分から喧嘩を吹っ掛けねえって誓ったんだ」
「よくわかった。ところで犯人たちは警察に捕まったのかい?」
「それはアタシから答えるよ。残念ながら逃走中だけど、警察には通報済みで被害届も出す予定さね。というかウチの近海がたまたま通りかかって近寄ったら逃げてったらしいんで、目撃情報も提供済み」
「ありがとうございます」
その後しばらく雑談をしてからオレたちは引き上げた。まあ、普通に会話できるレベルだし深刻な怪我でなくて良かった。
そして古池監督のクルマの中で、オレの……いやしょーたも思っているであろう疑問を口に出した。
「監督……いくらなんでも、タイミングが合いすぎてますよね」
「まあ、言いたいことはわかるけど。今のところ何の証拠もないことだ。まずは犯人たちが捕まらないとね」
「じゃあ高野連への報告っていうのは」
「阿戸くんが『暴力事件の当事者』じゃなくてあくまで『傷害事件の被害者』だとハッキリさせておくためだよ……もし事件の背後にいるのが『彼』だとしたら、動機は一つしかない」
「この前の練習試合で手強いと感じたオレたちの出場停止、ですね」
「そうだね。ライバルが少ない方が甲子園に出られる確率が増えて……まあ、将来のためにいろいろアピールできるよね」
「ちくしょう。オレたちにはどうしようもないのか」
「今はこらえて。下手に動くと相手の思う壺だから」
「あーあ。LINEでも確認するか……しょーた、監督。田白と能町からとんでもないメッセージが来てる」
「なんだよ……えっ! 連合チームから離脱したいだって?」
「今日は次々と……理由は?」
「坂平にIDが見つかったらしくて、友達追加された上に勝手にLINEグループに参加させられてるって。それで連合チームに迷惑かけたくないからって」
「慌てないで。それならこっちも何も言わずにブロックして退会すればいいんだよ」
「そ、そうですね。あと、たぶんIDで友達追加許可の設定になってるだろうから、それを外してもらって、と」
「クソッ。イライラするなあ」
「オージロウくん。まさにそれが『彼』の狙いかもしれないよ? 出場停止させられなくても、チーム内に不和を起こさせればチーム力を低下させられる」
そういうことか……手を変え品を変えて嫌がらせしやがって。だけどオレたちの団結をどうこうできるなんて思うなよ!
この件は埜邑工業の笹木先生から八ツ頭学園の監督に対して、大会直前に非常識だと抗議がなされた。
それに対する回答は、『本人に確認したところ、中学時代の後輩なのでつい気軽にやってしまったとのことで、悪気はないが不愉快なら謝る』という木で鼻を括ったような返答だった。
本当に不愉快だがこれ以上の追及は難しい。そしてオレたちは連合チームのグループを念の為に削除せざるをえなくなった。
お互いのやりとりは監督たちのグループを通じてとなり、面倒くさいことこの上ない。
そんなモヤモヤした状態で、遂に夏の予選は開幕したのである。




